直木賞作家、千早茜のロングセラー小説を、主演に松岡茉優、共演に成田凌を迎えて映画化した『男ともだち』。今回は原作者の千早茜先生にインタビューをさせていただきました。
<PROFILE>
千早茜(ちはや あかね):原作者
1979年生まれ。北海道出身。立命館大学文学部卒業。2008年、第21回小説すばる新人賞を受賞した『魚神』でデビュー。2009年、同作にて第37回泉鏡花文学賞、2013年『あとかた』で第20回島清恋愛文学賞、2021年『透明な夜の香り』で第6回渡辺淳一文学賞、2023年『しろがねの葉』で第168回直木賞を受賞。その他の小説に『正しい女たち』『神様の暇つぶし』『西洋菓子店プティ・フール』『ガーデン』『ひきなみ』『赤い月の香り』『マリエ』『グリフィスの傷』『燻る骨の香り』など、エッセイに『わるい食べもの』シリーズ、共著に『犬も食わない』(共著者:尾崎世界観)、『胃が合うふたり』(共著者:新井見枝香)、『眠れない夜のために』『しろとくろの偏愛』(共著者:西淑)などがある。
何かが突如として湧き上がってくる驚きがあるからこそ、小説を書くのをやめられない

シャミ:
まず、本作の映画化が決まった時の感想をお願いします。
千早茜先生:
映画化が決まったのは実は6年ほど前なんです。原作は12年前に発売した本なのですが、映画の企画って途中でなくなってしまうことも多いので、今回もまたお話が来たなくらいの受け止め方でした。今回は三島有紀子監督ということで、監督の過去作を観たらとても好みの作風でこれは楽しみだと感じましたが、やはり白紙になる可能性も考えて、なるべく期待しすぎず、頭の片隅に置いておく程度にとどめていました。
シャミ:
そこから実際に映画化のお話が進んでいったんですね。
千早茜先生:
はい。当初はキャストも決まる前で、脚本を先に読ませていただきました。最終稿に至るまで、毎回丁寧に説明していただき、「何か気になる点があればおっしゃってください」と誠実に対応してくださいました。決して許可を得たから好き勝手にやるというスタンスではなかったので、非常に信頼感がありました。私がお願いを伝えたのは、2022年の初めの脚本の時のみでした。それは、反映してくださっています。

シャミ:
実際に完成した映画をご覧になっていかがでしたか?
千早茜先生:
冒頭の辺りから思わず泣いてしまいました。私の中で「男ともだち」は会話を非常に大切にした作品で、小説とは別に会話だけのメモが300枚ほどありました。だからこそ、松岡茉優さんと成田凌さんが神名とハセオとして自然に掛け合い、ふざけ合ったりしている姿を観た時に、「あ、神名とハセオがいる!」と、すごく嬉しかったです。二人の間に流れる空気感がまさに『男ともだち』そのものでした。しかも、私の大好きな京都の街で撮影しているというのも最高でした。
シャミ:
京都の街並みも非常に美しく描かれていましたね。
千早茜先生:
本当に素敵でした。普段は観光客などで人が溢れている場所なのに、一体どうやって撮影したんだろうと驚きました。

シャミ:
三島監督とも対談をされたそうですが、監督とお話をされて特に印象に残ったことは何かありますか?
千早茜先生:
普段から対談の機会は多いのですが、三島監督との対談はかつてないほど濃密な時間でした。私が書きたかったものの核を、ここまで深く掴んでくれる人がいたんだと、大きな喜びを感じました。
例えば、終盤にある原爆ドームのシーンは、小説を書く時に戦争の遺物を物語の中で美しいと表現していいのだろうかと最も葛藤した場面でした。でも、本が出版されてみると、世間の感想は「男友達はありかなしか?」みたいな話題ばかりで、原爆ドームのシーンに言及する方はほとんどいませんでした。ところが、三島監督も対談で「あのシーンを撮るべきかどうかは本当に気を遣った」とおっしゃっていて、私と通じる部分があると感じました。
また、監督は「自分が本当に美しいと思ったものしか撮れない」とおっしゃっていて、あの原爆ドームを美しく見せているのは「そこに暮らす街の人々の想い」だと解釈され、映画にも街の人々の様子を収めたそうです。「自分が美しいと思ったものしか描きたくない」という根底の姿勢は私も同じですし、本当に誠意のある撮り方をしてくださり、非常に嬉しく思っています。これほど自分と同じ方向を向いている方と出会える機会は滅多にないので、かけがえのない対談でした。
シャミ:
素敵な出会いだったのですね。本を執筆した当時と現在とで、先生ご自身の友達に対する考え方や捉え方に変化はありましたか?

千早茜先生:
小説自体に私の考え方を反映させているわけではないので、私自身のスタンスはあまり変わっていません。もともと私は友人や他人にあまり依存しないタイプなので、神名とハセオのような関係性が現実にあったら、逆にちょっと大変そうだなと感じますし、私の場合は何事も自分で決めて、自分で自分の気持ちを処理するほうが好きですね。ただ、人との付き合い方は昔と今とで少し変化していて、今のほうが真面目に友達と遊んでいます。昔は仕事にのめり込んでいる時期は、友達と全く連絡を取りませんでした。今も何かに集中していると、平気で半年くらい人に連絡するのを忘れてしまい、夫から「最近、〇〇さんに連絡してる?」と聞かれて、「あ、全然していない!」とハッとするくらいです(笑)。昔はそれがもっとひどかったので、誰かと会う約束をすることすらできませんでした。先に予定を入れてしまうと、もし約束した日にすごいインスピレーションが閃いたらどうしようと考えてしまい、昔は本当に予定が組めませんでした。
シャミ:
インスピレーションがいつどこで湧くかわかりませんもんね。
千早茜先生:
でも、そうやって「閃いたらどうしよう」と言っている割には、大してアイデアが思い浮かばないということに10年くらい経ってようやく気がついたんです(笑)。だったらもう最初から予定を入れてしまおうと思い、今はちゃんと友達との予定を入れて、アフタヌーンティーに行ったりして、プライベートも楽しんでいます。だから、昔に比べて自分をコントロールできるようになってきましたし、人との約束をきちんと守れる大人になりました(笑)。
一同:
ハハハハハ!

シャミ:
先生の創作活動についてもお伺いしたいのですが、普段はどのようにキャラクター像を考えているのでしょうか?
千早茜先生:
キャラクターは、口調や雰囲気が見つからないと、作品の中で動いてくれないんです。だから、「男ともだち」の場合だったら、まずは主人公の神名を想像して、彼女の暮らし、食生活、1日のルーティンなどを具体的に考えて、その生活の中で出会う人々を立ち上げていきます。神名との自然な会話が頭に浮かんでこなければ、そのキャラクターは使えません。
実は、神名の女友達の美穂は最初のイメージ以上によく動いてくれたキャラクターなんです。当初は神名との対比のために登場させたのですが、「この子は動いてくれるかな」と手探りで書き進めるうちに、予想以上に良い友達へと育っていきました。執筆中、実はハセオとの関係よりも、女友達のシーンを書いている時間のほうが楽しかったくらいです。
シャミ:
主人公を起点にかなりロジカルに組み立てられているんですね。
千早茜先生:
エンタメ小説は全部ロジカルだと思っています。
シャミ:
そうやって組み立てていく上で、最初からゴールを決めて向かっていくのか、それとも書きながら全体像が見えていくのか、いかがでしょうか?

千早茜先生:
作品にもよりますが、本作に関しては、最初から「その人にとっての美しいものを描きたい」という明確なゴールがありました。それを一つのゴールとして定めて、終盤の原爆ドームのシーンに向かっていきました。ただ、「ハセオにとっての愛情ってなに?」「見ててやることかな」っていう印象的なセリフがありますが、それは書いている途中で見えてきたものです。だから、基本的にはきちんと整合性を持って組み立てていくのですが、書いている途中で何かが突如として湧き上がってくる。この驚きがあるからこそ、小説を書くのをやめられないんです。
シャミ:
では、最後の質問です。先生が普段いち観客として映画をご覧になる際、最も注目してしまうのはどのような部分でしょうか?
千早茜先生:
私は大学時代からずっと映画ノートをつけていて、映画が始まってからメインタイトルが出るまでを文字で描写するんです。映画の冒頭には、その作品のすべてが詰まっていると思うんです。色合いやカメラワーク、セリフを喋らせるのか沈黙させるのか、そういった演出を細かく文章化していくという作業をしています。それは今でも創作の練習として続けています。だから、私の映画の観方は少しおかしいかもしれません(笑)。

シャミ:
映画をご覧になる時も、完全に小説家としての視点なんですね。
千早茜先生:
映画が好きなので、いち観客として楽しみたいと思いつつ、どうしても小説家として観てしまいますね。でも、これが小説を書く上ですごく勉強になるんです。すべてを画として見せなければならない映画の手法は、小説における描写と同じだなと思っていて、その表現力を磨くための練習としてやっています。
シャミ:
本日は貴重なお話をありがとうございました!
2026年9月28日取材 TEXT by Shamy

『男ともだち』
2026年11月6日より全国公開
監督:三島有紀子
出演:松岡茉優/成田 凌/井上祐貴/中島歩/咲妃みゆ/三浦貴大/余貴美子/池畑慎之介
配給:ハピネットファントム・スタジオ
京都に暮らす29歳のイラストレーターの神名は、仕事もプライベートも順調に見えるが、実は描きたいものを見失い、惰性や不毛な恋愛に逃げる日々を送っていた。そんなある日、大学時代の先輩ハセオから電話が入り7年ぶりに再会を果たす。あの頃も今も変わらない二人だけの温度で接してくれる“男ともだち”と過ごす3つの夜が、彼女の人生を大きく動かしていく…。
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情報は2026年10月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。






























