心理学

心理学から観る映画4-1:人間の行動は統制できるのか?【行動主義】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『ディストピア パンドラの少女』

「人間の行動は統制できるのか?」ということで、今回は刺激と行動、反応についての関係を研究した理論の一部をご紹介します。

<参考・引用文献>
無藤隆・森敏昭・遠藤由美・玉瀬耕治(2018)「心理学」有斐閣
渡辺浪二・角山剛・三星宗雄・小西啓史(2009)「心理学入門」おうふう
下記は、上記で語られている内容から一部引用しまとめた上で、映画に関するところは本記事筆者の考察を掲載しています。

先天的な特性を問わず、環境を操作すれば、望んだ人間に育てられるのか

心理学といっても、その分野は多岐に渡り、人間の何に焦点を当てるかもさまざまです。科学的心理学の出発点とされるヴントの心理学では、“意識”に目が向けられていましたが、ヴントの内観主義心理学に反対して、20世紀初頭に行動主義を主張したのがワトソンです。ヴントの内観主義心理学が私的で主観的な内観報告をもとにしている点を指摘したワトソンは、心理学が科学であるためには、意識ではなく、誰もが見たり触れたりして確かめることができる行動のみを研究の対象にすべきだとしました。

さらにワトソンは、「すべての行動は条件反応によって説明することができる」「本能とか遺伝といった先天的特性を否定し、環境(刺激)を操作することによってどのような人間でも育て上げられる」(「心理学入門」おうふうから引用)といった、極端な環境主義も唱えました。

ワトソンは、心理学の研究目標を“行動の予測と統制”として、刺激と反応との関係に着目しました。彼の有名な研究には“アルバート坊やの実験”というものがあります。これは生後11ヶ月のアルバートという男児に、白ねずみを見せ、坊やが手を伸ばして取ろうとすると、背後で金属を激しく叩く音が鳴り、ビックリした坊やが飛び上がるほど驚いて倒れマットに頭を打ち、それを何度も繰り返しているうちに、白ねずみを見せただけで、坊やが泣き出すようになったというものです。

※現在ではこのような実験は倫理的に問題があるので実施されていません。

これは“古典的条件づけ”と呼ばれる手続きによって、人の行動を統制した例になりますが、ワトソンは“Behaviorism,rev.ed.Norton.(1930)“の中で、複数の健康な乳児と自由にできる環境を与えてくれれば、ランダムに選んだ子どもを医者、法律家、芸術家、大商人など、どんな専門家にも育て上げてみせるといったことを述べました。

こうしたワトソンの実験や発言は、極端で人間性を冒涜していると非難されましたが、一方で後に登場する行動療法の研究へと繋がっていきました。

ワトソンは、先天的な特性の違いがあっても、環境さえあれば人の行動を統制できると考えましたが、「本当にそうなのか?」と調べる研究として、双生児研究なども実施されています。次回は双生児研究についてご紹介します。

ディストピア パンドラの少女(字幕版)

『ディストピア パンドラの少女』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
DVDレンタル&発売中 
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

真菌の感染が拡大した世界。子ども達は同じ服を着せられ、頭には器具を付けられ…。子ども達の条件反射と行動、それを統制するためのルールなど、異様な光景が広がる。

© GIFT GIRL LIMITED / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2016

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『8番出口』二宮和也 8番出口【レビュー】

観始めてスゴい設定だと驚き、何から何まで巧く作られていて…

映画『ムガリッツ』 『ムガリッツ』トークイベント付き特別先行試写会 5組10名様ご招待

映画『ムガリッツ』トークイベント付き特別先行試写会 5組10名様ご招待

映画『太陽がいっぱい』アラン・ドロン アラン・ドロン【ギャラリー/出演作一覧】

1935年11月8日生まれ。フランス出身。

映画『大統領暗殺裁判 16日間の真実』チョ・ジョンソク/イ・ソンギュン 大統領暗殺裁判 16日間の真実【レビュー】

1979年10月26日、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が暗殺されました。本作は、その暗殺事件に関わったメンバーのうち、軍人だったために唯一軍法裁判にかけられたパク・テジュ(イ・ソンギュン)と…

映画『Pacific Mother パシフィック・マザー』 『Pacific Mother パシフィック・マザー』一般向けオンライン試写会 10名様ご招待

映画『Pacific Mother パシフィック・マザー』一般向けオンライン試写会 10名様ご招待

映画『愛はステロイド』クリステン・スチュワート/ケイティ・オブライアン 愛はステロイド【レビュー】

本作の原題は“Love Lies Bleeding”で、「愛は血を流す」と直訳されます。一方,邦題は『愛はステロイド』と付けられています…

Netflixリアリティ番組『彼氏彼女いない歴=年齢、卒業します』 映画に隠された恋愛哲学とヒント集79:『彼氏彼女いない歴=年齢、卒業します』『ラブ・イズ・ブラインド ~外見なんて関係ない?!~』にみる恋の見つけ方と見分け方

今回は、トーキョー女子映画部正式部員の方からいただいたお悩み相談を基に、オススメの恋愛リアリティ番組をご紹介します。

映画『終わりの鳥』ジュリア・ルイス=ドレイファス ジュリア・ルイス=ドレイファス【ギャラリー/出演作一覧】

1961年1月13日生まれ。アメリカ、ニューヨーク出身。

映画『バレリーナ:The World of John Wick』ジャパンプレミア:アナ・デ・アルマス、レン・ワイズマン監督 チャレンジがあるからこそ、自分達の創造性の燃料になる『バレリーナ:The World of John Wick』ジャパンプレミア

『バレリーナ:The World of John Wick』の公開を記念し、主演のアナ・デ・アルマスとレン・ワイズマン監督が来日し、ジャパンプレミアが開催されました。

海外ドラマ『アイアンハート』 アイアンハート【レビュー】

アーマースーツを作る天才少女リリ・ウィリアムズ(ドミニク・ソーン)は、3歳で最初の発明をし、成長した今ではトニー・スタークの出身校でもあるマサチューセッツ工科大学に通って…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『スーパーマン』デイビッド・コレンスウェット 映画好きが選んだDCコミックス映画ランキング

今回は正式部員の皆さんに好きなDCコミックス映画について投票していただきました。“スーパーマン”や“バットマン”など人気シリーズが多くあるなか、上位にはどんな作品がランクインしたのでしょう?

映画『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』トム・クルーズ 映画好きが選んだトム・クルーズ人気作品ランキング

毎度さまざまな挑戦を続け、人気を博すハリウッドの大スター、トム・クルーズ。今回は、トム・クルーズ出演作品(日本劇場未公開作品を除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。

映画『シークレット・アイズ』キウェテル・イジョフォー/ジュリア・ロバーツ /ニコール・キッドマン 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.5

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『ネクスト・ゴール・ウィンズ』マイケル・ファスベンダー
  2. 映画『バーバラと心の巨人』マディソン・ウルフ
  3. 映画『We Live in Time この時を生きて』フローレンス・ピュー/アンドリュー・ガーフィールド

REVIEW

  1. 映画『8番出口』二宮和也
  2. 映画『大統領暗殺裁判 16日間の真実』チョ・ジョンソク/イ・ソンギュン
  3. 映画『愛はステロイド』クリステン・スチュワート/ケイティ・オブライアン
  4. 海外ドラマ『アイアンハート』
  5. 映画『バレリーナ:The World of John Wick』アナ・デ・アルマス/アンジェリカ・ヒューストン/ガブリエル・バーン/ノーマン・リーダス/イアン・マクシェーン/キアヌ・リーブス

PRESENT

  1. 映画『ムガリッツ』
  2. 映画『Pacific Mother パシフィック・マザー』
  3. 映画『ファンファーレ!ふたつの音』バンジャマン・ラヴェルネ/ピエール・ロタン
PAGE TOP