REVIEW

Cloud クラウド【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『Cloud クラウド』菅田将暉

REVIEW

黒沢清監督のもと、主演の菅田将暉をはじめとして、古川琴音、奥平大兼、岡山天音、荒川良々、窪田正孝と、演技派が揃った本作は、現代社会に蔓延る利己主義が闇を生み、その闇が相互に絡み合い、大きなうねりとなっていく様を描いたスリラーとなっています。

映画『Cloud クラウド』菅田将暉/荒川良々

菅田将暉が演じるのは、昨今問題視されている、不正な転売をする転売ヤーの吉井です。吉井は商機をつかみ、一段と商売を広げようとします。序盤は吉井が順調に商売を展開していく様子に悶々とさせられます。ただ本作は、世の中はそれほど甘くない点も描いています。だからといって、吉井が窮地に立たされる場面が心地良いかといえば、そうでもない点がミソです。つまり、どっちもどっちというところで、さまざまな問題が提起され、考えさせられます。

映画『Cloud クラウド』奥平大兼/松重豊

真面目に地道に働くことと、楽をして稼ぐことという単純な構図でもありません。メインキャラクターには共通して、焦燥感や挫折感のような空気が漂います。その背景には、経済格差や地域格差とさまざまな問題があるのかもしれません。でも、根本には自分の価値観を持てなくなった社会に蔓延する闇が原因であるようにも感じます。
本作は、そんな社会で生まれた憎悪が、お互いに顔が見えないネット上(Cloud)に溜まり、さらなる憎悪を生み出していく比喩のように思えます。

ここからはあくまで私個人の解釈です。ネタバレしないように書いていますが、鑑賞後に読むことをオススメします。

映画『Cloud クラウド』菅田将暉

インターネットが普及してから、世界中のあらゆる人達の考えを知る術ができました。どんな情報でも手軽に入手できるようになり、上手く参考にすることもできる反面、少なからず、一定の価値観にさらされる機会が増えたと考えられます。そして、最先端技術によって、個々に興味があると思われる情報が勝手に集まるようになると同時に、他の情報が遮断されてしまう、フィルターバブル現象が起こり、知らずしらずのうちに、偏った価値観に導かれている恐れもあります。そうしたなかで、少なからず自分の価値観ではなく、社会が作ったといおうか、どこの誰だかわからない人達だけが持つ価値観に侵食されている人もいるように思います。

映画『Cloud クラウド』岡山天音

そうした、他者の価値観にさらされていくうちに、まやかしの“勝ち組”になるには手段を問わないと思えるくらいに追い詰められた人達が生まれます。彼等はうっぷんの矛先を常にネットで探していて、格好の標的を見つけ、さらに“仲間”を見つけると、歪んだ正義感は正当化されてしまいます。問題なのは、主人公を含めて、メインキャラクターの誰もが自分達の所業をどこか正当化している点にあります。劇中では、命の危険にさらされながらも、まだ販売状況を見守る吉井の姿にゾッとさせられる場面もあります。本作は、登場人物の誰にも共感できないものの、反面教師として観る価値があります。

デート向き映画判定

映画『Cloud クラウド』菅田将暉/古川琴音

恋愛関係にも触れる展開があり、カップルで観ると気まずくなる可能性もなきにしもあらずです。相手を選ぶ前に自分の価値観を見つめ直すと、どんな相手が良いかが自ずと見えてくるかもしれません。本作に登場するカップルが異様に見えるのか、正常に見えるのかによって、あなたの価値観がどうなっているのか、気づけることを祈ります。

キッズ&ティーン向き映画判定

映画『Cloud クラウド』菅田将暉/窪田正孝

序盤では想像できない展開が待っています。ネットの世界と現実の世界の境界線はあってないようなものだということもわかるでしょう。本作でその怖さをどれくらい感じ取れるかによって、今後の人生が健全なのかどうかが変わってくるように思います。

映画『Cloud クラウド』菅田将暉

『Cloud クラウド』
2024年9月27日より全国公開
東京テアトル、日活
公式サイト

ムビチケ購入はこちら

©2024 「Cloud」 製作委員会

TEXT by Myson

本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2024年9月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『8番出口』二宮和也 8番出口【レビュー】

観始めてスゴい設定だと驚き、何から何まで巧く作られていて…

映画『ムガリッツ』 『ムガリッツ』トークイベント付き特別先行試写会 5組10名様ご招待

映画『ムガリッツ』トークイベント付き特別先行試写会 5組10名様ご招待

映画『太陽がいっぱい』アラン・ドロン アラン・ドロン【ギャラリー/出演作一覧】

1935年11月8日生まれ。フランス出身。

映画『大統領暗殺裁判 16日間の真実』チョ・ジョンソク/イ・ソンギュン 大統領暗殺裁判 16日間の真実【レビュー】

1979年10月26日、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が暗殺されました。本作は、その暗殺事件に関わったメンバーのうち、軍人だったために唯一軍法裁判にかけられたパク・テジュ(イ・ソンギュン)と…

映画『Pacific Mother パシフィック・マザー』 『Pacific Mother パシフィック・マザー』一般向けオンライン試写会 10名様ご招待

映画『Pacific Mother パシフィック・マザー』一般向けオンライン試写会 10名様ご招待

映画『愛はステロイド』クリステン・スチュワート/ケイティ・オブライアン 愛はステロイド【レビュー】

本作の原題は“Love Lies Bleeding”で、「愛は血を流す」と直訳されます。一方,邦題は『愛はステロイド』と付けられています…

Netflixリアリティ番組『彼氏彼女いない歴=年齢、卒業します』 映画に隠された恋愛哲学とヒント集79:『彼氏彼女いない歴=年齢、卒業します』『ラブ・イズ・ブラインド ~外見なんて関係ない?!~』にみる恋の見つけ方と見分け方

今回は、トーキョー女子映画部正式部員の方からいただいたお悩み相談を基に、オススメの恋愛リアリティ番組をご紹介します。

映画『終わりの鳥』ジュリア・ルイス=ドレイファス ジュリア・ルイス=ドレイファス【ギャラリー/出演作一覧】

1961年1月13日生まれ。アメリカ、ニューヨーク出身。

映画『バレリーナ:The World of John Wick』ジャパンプレミア:アナ・デ・アルマス、レン・ワイズマン監督 チャレンジがあるからこそ、自分達の創造性の燃料になる『バレリーナ:The World of John Wick』ジャパンプレミア

『バレリーナ:The World of John Wick』の公開を記念し、主演のアナ・デ・アルマスとレン・ワイズマン監督が来日し、ジャパンプレミアが開催されました。

海外ドラマ『アイアンハート』 アイアンハート【レビュー】

アーマースーツを作る天才少女リリ・ウィリアムズ(ドミニク・ソーン)は、3歳で最初の発明をし、成長した今ではトニー・スタークの出身校でもあるマサチューセッツ工科大学に通って…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『スーパーマン』デイビッド・コレンスウェット 映画好きが選んだDCコミックス映画ランキング

今回は正式部員の皆さんに好きなDCコミックス映画について投票していただきました。“スーパーマン”や“バットマン”など人気シリーズが多くあるなか、上位にはどんな作品がランクインしたのでしょう?

映画『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』トム・クルーズ 映画好きが選んだトム・クルーズ人気作品ランキング

毎度さまざまな挑戦を続け、人気を博すハリウッドの大スター、トム・クルーズ。今回は、トム・クルーズ出演作品(日本劇場未公開作品を除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。

映画『シークレット・アイズ』キウェテル・イジョフォー/ジュリア・ロバーツ /ニコール・キッドマン 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.5

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『ネクスト・ゴール・ウィンズ』マイケル・ファスベンダー
  2. 映画『バーバラと心の巨人』マディソン・ウルフ
  3. 映画『We Live in Time この時を生きて』フローレンス・ピュー/アンドリュー・ガーフィールド

REVIEW

  1. 映画『8番出口』二宮和也
  2. 映画『大統領暗殺裁判 16日間の真実』チョ・ジョンソク/イ・ソンギュン
  3. 映画『愛はステロイド』クリステン・スチュワート/ケイティ・オブライアン
  4. 海外ドラマ『アイアンハート』
  5. 映画『バレリーナ:The World of John Wick』アナ・デ・アルマス/アンジェリカ・ヒューストン/ガブリエル・バーン/ノーマン・リーダス/イアン・マクシェーン/キアヌ・リーブス

PRESENT

  1. 映画『ムガリッツ』
  2. 映画『Pacific Mother パシフィック・マザー』
  3. 映画『ファンファーレ!ふたつの音』バンジャマン・ラヴェルネ/ピエール・ロタン
PAGE TOP