© Kostas Maros
フランスで3週連続NO.1(仏映画興収/実写映画において)を獲得し、260万人動員の大ヒットを記録した話題作『ファンファーレ!ふたつの音』。今回は本作のエマニュエル・クールコル監督にインタビューさせていただきました。
<PROFILE>
エマニュエル・クールコル:監督、脚本
俳優としてのキャリアを持ち、2000年代から徐々に脚本執筆を始める。2012 年に初の短編作品“Géraldine je t’aime(原題)”、初の長編作品『アルゴンヌ戦の落としもの』(2016)、『アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台』(2020)の監督を務める。『君を想って海をゆく』(2009)では脚本を担当し、セザール賞にノミネートされたほか、ジャック・プリヴェール脚本賞を受賞した。『アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台』は、2020年のカンヌ国際映画祭に公式出品され、アングレーム・フランス語映画祭で観客賞、第33回ヨーロッパ映画賞最優秀コメディ作品賞を受賞し、監督、脚本を務めた最新作『ファンファーレ!ふたつの音』は、第77回カンヌ国際映画祭に公式出品され、サン・セバスチャン国際映画祭で観客賞を受賞、第50回セザール賞では7部門にノミネートされた。
人生を再現するような作品にしたいと思いました

シャミ:
資料によると、トゥルコアン(フランス北部リール近郊の町)で吹奏楽団とバトンガール達に会ったことをきっかけに、本作のアイデアが生まれたとありました。着想を受けた一番のポイントはどんな点でしょうか?
エマニュエル・クールコル監督:
トゥルコアンに行った時に私が非常に心を揺さぶられたのは、そこでとても慎ましく人生を送っている方達にとって音楽が生き甲斐になっていて、しかも音楽を通して社会的な絆や人間関係というものを築いていることです。そういう姿を目の当たりにして非常に感動しました。彼らにとって音楽は社会性も含めて、本当に命綱みたいな存在なんだと思いました。彼らの演奏は、それほど上手いわけではないのですが、非常に心を込めて魂で演奏していると感じました。
一方クラシック音楽というものは、同じ音楽でもレベルが違います。しかも管弦楽団、指揮者となると、ただ音楽を楽しめば良いわけではなく、完璧を求めて競争社会の中で音楽と向き合う必要があるわけです。そんな2つの世界を2人の兄弟に体現させて、出会わなかったであろう音楽の世界、異なる境遇の2人がぶつかると、どんな化学反応が生まれるだろうと。シナリオの構造としてもなかなかおもしろいものになると思いました。

シャミ:
兄弟の対比と、環境の違いという点はとてもコントラストが効いていて楽しめました。ジミー(ピエール・ロタン)が所属する炭鉱楽団の人々を演じたのは、実在するラレン市営炭鉱労働者楽団の方達だそうですが、彼らとの出会いでインスピレーションを受けた部分などはありますか?
エマニュエル・クールコル監督:
映画には最初に出会った吹奏楽団とはまた別の吹奏楽団の方達に参加してもらったわけですが、彼らから何か大きなインスピレーションを受けたというよりも、いうなれば彼らは“真実”なんです。本当に現実の彼らの生き様、姿というものを映画にもたらしてくれたと思います。ほぼドキュメンタリーのような要素として、彼らが自分達を体現することによって、非常にシンプルに人間関係の絆を体現してくれたと思います。彼らは音楽活動をしていることにとても幸せを感じていて、週に1、2回集まり、時にはコンサートをするなど、音楽が楽しくてたまらないわけです。そういうリアルな人生、音楽と共に生きている真の姿というものを映し出すことができたと思います。

シャミ:
彼らの活躍があったからこそ物語により説得力が生まれていたように思います。ティボ(バンジャマン・ラヴェルネ)は病気をきっかけに弟のジミーの存在を知ることになり、物語が進むにつれてお互いを知り、影響されながらも、反発し合う場面もありました。スター指揮者の兄と、田舎の吹奏楽団にいる弟という対照的な兄弟でしたが、監督が2人を描く上で、特に見せたかったのはどんな点でしょうか?
エマニュエル・クールコル監督:
この2人の人物をきちんと造形するということ、体現してもらうということは、非常に大切なことでした。彼らの出会いについて、観客がきちんと納得する、あり得ると信じられるような描き方でないといけないと思いました。過去を共に過ごしていない2人が出会い、それが兄弟だとわかるわけですが、それは彼らにとってすごく複雑なことです。だから、相手に愛情を感じたとしても、その愛情の影にちょっとした恨みやジェラシーもあれば罪悪感もあるんです。だからこそ決して順風満帆にはいかず、お互いに少し反発してしまう時もあるわけです。
でも2人は共に過ごせたはずの失われた時間を何とか取り戻そうとします。それは簡単なことではないわけですよね。そんな2人を観ている観客が、これは真実に近いと思えるかどうかは、やはり兄弟を演じたバンジャマン・ラヴェルネとピエール・ロタンの力量が大きかったと思います。2人は素晴らしい演技をしてくれましたし、兄弟の異なる人物像、社会階級というものを見事に体現してくれました。

シャミ:
お二人の演技はとても素晴らしかったです!監督が特に演出された部分は何かありましたか?
エマニュエル・クールコル監督:
2人を起用した時点で、彼らの元々の資質をきちんと活用しようと思っていました。もちろん状況に応じて彼らの資質だけではなく、やはり整合性も必要なわけです。映画というのは順撮りではないので、何かトーンが変わったとか、そういうことがないように私自身が頭の中に物語の流れを作り、俳優達の演技が不自然なく収まるようにすることが私の役割です。
また、バンジャマンとピエールはそれぞれティボとジミーに近しいものを持っている俳優でしたが、プラスアルファとして撮影の数か月前から音楽のフォーメーションのトレーニングをしてもらいました。ジミーならトロンボーン、ティボならピアノと指揮と、数カ月間音楽に触れることで、少しずつ役に入ってもらうことができました。私自身俳優だった経験があるので、友人、あるいは兄のような形で彼らに寄り添い、伴走したという感じです。

シャミ:
では最後の質問です。映画の冒頭でティボの病気が発覚しますが、シリアスな場面はあまり深く描かれておらず、むしろコメディのようなポップさが随所にありました。そういったバランスを取る上で監督が特に気をつけた点や意識されたのはどんな点でしょうか?
エマニュエル・クールコル監督:
バランスを良くしようという点は脚本の段階から配慮していました。予定調和的な展開は絶対に避けようと共同脚本家と決めていました。こうきたらこうなるだろうというところを少しずつ外すことによって、登場人物達が次にどんな行動に出るんだろうと興味を引くようなシナリオにしようと思いました。
でも、実際の人生もそういうものですよね。人生にはいろいろな出来事があって、凡庸なこともあれば、すごく例外的な出来事もあり、おもしろいことも辛いこともあります。そういった人生を再現するような作品にしたいと思ったんです。だから、ティボの病気のことや養子縁組、家族の秘密のことなどを物語の中心に持ってきて、あまりドラマチックにならないように気を付けました。
2人の兄弟の間柄についても同じです。最初にティボの病気が発覚して、ドナーを探して2人が出会ってと、すごくスピーディに彼らの感情、音楽、文化、社会的な問題を一気に見せていくわけです。私自身一つひとつをじっくり描写するよりもスピーディに展開するほうが好きなんです。それは私のせっかちな性格なのかもしれませんが、そのほうがしっくりくる気がします。

©Carole Bethuel
シャミ:
まさに実際の人生ともどこかリンクする部分があり、とても親近感を持てる作品だと思います。本日はありがとうございました!
エマニュエル・クールコル監督:
ありがとうございます!とても楽しかったです。
2025年8月27日取材 TEXT by Shamy

『ファンファーレ!ふたつの音』
2025年9月19日より全国公開
監督・脚本:エマニュエル・クールコル
出演:バンジャマン・ラヴェルネ/ピエール・ロタン/サラ・スコ
配給:松竹
舞台は北フランスの田舎町。クラシック界のスターとして世界中を飛び回るスター指揮者のティボは、ある日突然白血病と診断される。ドナーを探すなかで生き別れた弟ジミーの存在を知る。かつては炭鉱で栄えたが今は寂れた町で、仲間との吹奏楽団が唯一の楽しみであるジミー。すべてが正反対の2人が出会い、運命は思いがけない方向へと展開していき…。
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情報は2025年9月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。