REVIEW
親元を離れ、兄とともにイタリアのトリノで暮らす16歳の少女ジーニア(イーレ・ヴィアネッロ)が、3つ年上のアメーリア(ディーヴァ・カッセル)と出会い、一気に大人へと近づいていく成長物語です。子どもでもなく、大人でもない思春期独特のつかみどころのない心情が繊細に描かれています。

本作は、20世紀のイタリア文学を代表する作家であり詩人チェーザレ・パヴェーゼが、ファシズム体制下の1940年に執筆し、1949年に刊行、翌年にストレーガ賞を受賞した同名小説を映画化した作品です。パヴェーゼはストレーガ賞を受賞した2カ月後に42歳で自ら命を絶ったとされています。ラウラ・ルケッティ監督は、「パヴェーゼは、イタリアでは学校で必読とされる、とても有名な作家で私も元々大好きでした」という一方で、本作の監督を打診された際は手を出すのが怖くて一度は断ったそうです(映画公式資料)。

確かに、ジーニアの心の内は一見とらえどころがありません。きっと本人ですら理解できていないだろう心情なので、その曖昧さを残したまま描くのは難易度が高いでしょう。アメーリアのキャラクターも同様に多面性がある一方で、ジーニアとは異なる神秘性があり、脚本、演出、演技力、俳優自身のオーラがあってこそ成立していると言えます。

ジーニアを演じたイーレ・ヴィアネッロは、「幼少期にアリーチェ・ロルヴァケル監督と出会い、2011年、同監督の長編デビュー作『天空のからだ』の主演に抜擢」されてから、複数の実力派監督の作品で主演をはる俳優です(映画公式資料)。イーレはジーニアの心情の変化、さまざまな感情が入り混じる複雑な心境を見事に演じています。そして、アメーリア役は、モニカ・ベルッチとヴァンサン・カッセルの実娘、ディーヴァ・カッセルが演じています。両親どちらの面影もあり、浮世離れした美しさがアメーリア役にピッタリです。特に登場シーンではまさに女神が出てきたようなオーラを放ち、唯一無二の存在感があります。ディーヴァは本作がスクリーンデビュー作でありながら、堂々たる演技はさすがサラブレッドだなと感じます。

本作を観ると、自分も思春期に感じていたであろう「この気持ちは何なのか」という感覚が蘇ってきます。美しい風景にも没入できます。傷つきながらも本当の自分に出会っていく2人の少女が生きる世界に浸ってください。
デート向き映画判定

人間関係が複雑化していく展開では、どういう反応が出てくるか未知数です。性的描写やヌードもあり、初デートや交際ホヤホヤのカップルだと、やや気まずいかもしれません。1人でじっくり観るか、映画好きの友達と観るほうが、気楽に楽しめそうです。
キッズ&ティーン向き映画判定

ティーンの皆さんは、16歳のジーニアや3つ年上のアメーリアと近い目線で観られるのではないでしょうか。何も知らないうちは大人の世界に好奇心を持てる部分もある一方で、徐々に足を踏み入れていくと、見たくないものも見えてくる感覚がわかるでしょう。それでも現実を受け入れながらも闘い成長していくジーニアの姿に、共感できるところもあると思います。

『美しい夏』
2025年8月1日より全国順次公開
ミモザフィルムズ
公式サイト
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©2023 Kino Produzioni, 9.99 Films
©foto di Matteo Vieille
TEXT by Myson
関連作
「美しい夏」チェーザレ・パヴェーゼ 著、河島英昭 訳/岩波書店
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情報は2025年7月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

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