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人間の境界【レビュー】

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映画『人間の境界』

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赤い闇 スターリンの冷たい大地で』で、ソビエト連邦が隠していた事実を暴いたアグニェシュカ・ホランド監督が、再び社会の事実を伝える作品を撮りました。ホランド監督が今回取り上げるのはポーランド政府が隠したがった事実です。
物語の舞台は、コロナ禍のベラルーシとポーランドの国境。EU諸国に亡命を求める人達が、ベラルーシ経由でポーランドとの境界にある森を抜けてポーランドに入りますが、国境警備隊によって捕らえられベラルーシに戻されてしまいます。でも、難民等は再びベラルーシからポーランドの森へ戻され、その繰り返し。国境にある森に潜み、国境警備隊の手を逃れて、既にポーランド国内にいる家族などの元へ行こうとしますが、ことごとく邪魔をされてしまいます。森で立ち往生する難民等は、食べ物はおろか水さえ得ることができないばかりか、雨風を凌ぐ場所もなく、命の危険に晒され続けます。なぜ難民達はピンポン玉のように国境を行き来させるのかというと、「ベラルーシ政府がEUに混乱を引き起こす狙いで大勢の難民をポーランド国境へと移送する<人間兵器>とよばれる策略」(映画公式サイトより)だそうです。

映画『人間の境界』

劇中では、こうした出来事を、難民、国境警備隊、難民を支援する活動家、一般市民、それぞれの立場で描いています。国境警備隊による非人道的な行為には目を背けたくなると同時に、難民達を助けようとする人達の姿に少しだけ救われます。一方で、ポーランド国内では政府による情報操作も行われていて、難民を助けようとする人達も身の危険にさらされており、問題の深刻さを実感させられます。映画公式サイトによると、本作はポーランド国内で上映される際、政府から妨害を受け、宣伝会社のSNS上には誹謗中傷が寄せられるなど、ホランド監督自身も身の危険を感じるほど論争が激化したそうです。ポーランドが戦時中のウクライナから移民を受け入れているニュースを聞いたことがある方は、このかなり矛盾した状況が不可解でならないでしょう。この状況は、政府の利害関係がいかに人々を振り回しているのかを示していると思います。報道だけでは伝わってこない事実があることを知られるという意味でも、本作には映画の大きな意義を感じます。また『人間の境界』というタイトルには、選別される側、選別する側の「人間の境界」というように、複数の意味があるように感じられ、いろいろと考えさせられます。

デート向き映画判定

映画『人間の境界』

ドキュメンタリーかと思えるほど、リアルに描かれていて、目にするだけでも辛い現状が描かれています。ロマンチックなムードになりたいデートには不向きですが、社会問題に関心のあるカップルなら、議論のし甲斐がある内容です。さまざまな立場のキャラクターが登場するので、誰かしらに感情移入できると思います。どんな感想、意見を持ったかという点でも、お互いの価値観を知る機会にできそうです。

キッズ&ティーン向き映画判定

映画『人間の境界』

最初は一体何が起きているのかわからないと思います。映画公式サイトには簡単に解説が載っているので、先に読むと理解しやすいでしょう。逆に、難民達の目線で混乱をリアルに感じながら観たい方は本編を観た後に解説を読んで復習するのも良いと思います。人間が人間として扱われない状況が実際に行われている現実を知ることで、社会への関心を高めるきっかけになると思います。

映画『人間の境界』

『人間の境界』
2024年5月3日より全国順次公開
トランスフォーマー
公式サイト

ムビチケ購入はこちら

©2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Česká televize, Mazovia Institute of Culture

TEXT by Myson

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