REVIEW

ザ・ファイブ・ブラッズ

  • follow us in feedly
  • RSS
Netflix映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』デルロイ・リンドー

“Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)”という言葉をよく耳にするようになり、最近ではテニスプレイヤーの大坂なおみ選手による訴えかけも大きな話題となったことで、日本人にも広く知れ渡りました。そんななか本作を観ると、私達が知るべき歴史がまだまだたくさんあることがわかります。
本作は、ベトナム帰還兵が、戦争から約半世紀後に、共に戦った戦友の遺骨と当時秘密裏に埋めた金塊を求めて当時の戦場に戻るというもの。映画の冒頭や途中には、ベトナム戦争当時、黒人差別問題はどんな局面にあったかを示す実際の映像なども挿入され、多くの黒人男性が否応なしに戦場に送り出されていたことや、帰還しても良い待遇を受けることはなかったことなども示されています。彼等は自分達を苦しめる国のために、命をかけて戦っていたわけですが、そんな兵士のうちの5人が、戦時中に膨大な額になる金塊を見つけたらどんな物語を生み出すのかというところに、今も根強く残る問題をが見事に反映されています。金塊を見つけた当時は、強い絆で結ばれた5人の仲間は全員生きていて、彼等を率いていた隊長は、「この金塊を使って、自分達の手で黒人を救うんだ」という大義名分を掲げます。ただその隊長が命を落とし、戦争から約半世紀が経ち、残された4人もさまざまな事情を抱えながら生きています。いくら絆があるとはいえ、今莫大な額になる金塊を目の前にしても彼等は仲間でいられるのか、彼等は本当に黒人のためにその金を使うのかというのが、試されていくわけです。人種は関係なく、誰でも山のように積まれた金塊を見たら欲が出ないわけもなく、平気で仲間を裏切るかも知れません。そんななか、英雄的存在だった隊長の意志を知っている残された4人が、お互いを信じる気持ちと疑いを持つ気持ちで葛藤する姿に、人は追い詰められている状況下でも人を助ける存在でいられるのかという問いが見えます。本作は黒人差別問題をテーマンにしてはいますが、根底には普遍的なテーマもあるように思います。今、世界は新型コロナウィルス感染症の影響で苦しんでいる人が多くいます。日本でも失業や倒産などが相次ぎ、そこまでにならなくても収入が激減したりして困窮している人が増えている状況です。そんな状況にあっても、自分のことだけでなく、周囲にも目を向けて手を差し伸べることができるのか。本作を観ると、そんなことをすごく考えさせられます。また、他に頼らずに自分達の手で苦難を乗り切るんだという決意のようなものも感じられて、絶望と希望の両方が描かれています。彼等がどんな結末を迎えたのか、真相はぜひご自身の目で確かめてください。
そして、2020年8月28日に若くしてこの世を去った、チャドウィック・ボーズマンさんの姿も観ることができます。人知れず闘病しながら俳優業を続け、さまざまな名演を見せてくださったことに深く感謝し、ご冥福をお祈りします。

※“Black Lives Matter”をどう訳すのかについては背景にさまざまな解釈があるようで、「黒人の命は大切だ」もしくは「黒人の命も大切だ」と訳されます。

デート向き映画判定
Netflix映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』デルロイ・リンドー

物語の舞台は現代ですが、回想シーンで戦時中の様子が映るので、痛々しいシーンが出てきます。また、現代を映したシーンでもアクシデントが起きて唐突にショッキングなシーンが映し出されるところがあります。ラブロマンスの要素はチラッとはありますが、ロマンチックになるような展開とは言い難く、デートのムードとはあまり合わない内容です。なので、映画好きカップルか、ベテランカップルには良いですが、初お家デート(Netflix作品なので)には不向きでしょう。

キッズ&ティーン向き映画判定
Netflix映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』デルロイ・リンドー/クラーク・ピータース

仲間同士のノリやユーモラスなシーンは年齢問わず共感できるとは思いますが、戦争にまつわる映画ではショッキングなシーンは避けられないので、キッズにはまだショックが強いと思います。中学生以上のティーンには、歴史を知る意味でも、人種差別問題の実態を知る意味でも観て欲しい1作です。個人間の人種差別も大きな問題ではありますが、世の中全体が差別を肯定する社会が何を生み出しているのか、現実を知るきっかけにしてください。

Netflix映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』

『ザ・ファイブ・ブラッズ』
2020年6月12日よりNetflixにて配信開始
公式サイト

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『本心』池松壮亮 本心【レビュー】

本作は、『マチネの終わりに』『ある男』の原作者、平野啓一郎の同名小説「本心」の映画化…

映画『不死身ラヴァーズ』見上愛 見上愛【ギャラリー/出演作一覧】

2000年10月26日生まれ。東京都出身。

映画『八犬伝』役所広司/内野聖陽/土屋太鳳/渡邊圭祐/鈴木仁/板垣李光人/水上恒司/松岡広大/佳久創/藤岡真威人/上杉柊平/河合優実/小木茂光/丸山智己/真飛聖/忍成修吾/塩野瑛久/神尾佑/栗山千明/中村獅童/尾上右近/磯村勇斗/大貫勇輔/立川談春/黒木華/寺島しのぶ 八犬伝【レビュー】

こういう映画を観た時には思わず私的な感想を述べたくなるもので…

映画『オアシス』伊藤万理華 伊藤万理華【ギャラリー/出演作一覧】

1996年2月20日生まれ。大阪府出身。

映画『きいろいゾウ』向井理 映画好きが推すイイ俳優ランキング【国内40代編】雰囲気部門

イイ俳優ランキング【国内40代編】から、今回は<雰囲気部門>のランキングを発表します。総合と比べてどのようにランキングが変化しているのか注目です!

映画『カッティ 刃物と水道管』ヴィジャイ/サマンタ カッティ 刃物と水道管【レビュー】

本作は、南インド、タミル語映画界で人気の俳優ヴィジャイと、社会的メッセージを娯楽作品に落とし込むのが得意な…

映画『カーリングの神様』本田望結 『カーリングの神様』キャスト登壇!公開直前特別試写会 10組20名様ご招待

映画『カーリングの神様』キャスト登壇!公開直前特別試写会 10組20名様ご招待

映画『がんばっていきまっしょい』 がんばっていきまっしょい【レビュー】

1995年に“坊っちゃん文学賞”を受賞した青春小説「がんばっていきまっしょい」(敷村良子著)が…

映画『ザ・バイクライダーズ』オースティン・バトラー 『ザ・バイクライダーズ』ゲスト登壇付き!日本最速試写会 5組10名様ご招待

映画『ザ・バイクライダーズ』ゲスト登壇付き!日本最速試写会 5組10名様ご招待

海外ドラマ『ザ・ボーイズ シーズン4』エリン・モリアーティ エリン・モリアーティ【ギャラリー/出演作一覧】

1994年6月24日生まれ。アメリカ出身。

部活・イベント

  1. 【ARUARU海ドラDiner】サムライデザート(カップデザート)
  2. 【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX
  3. 【ARUARU海ドラDiner】サポーター集会:パンチボール(パーティサイズ)
  4. 【ARUARU海ドラDiner】プレオープン
  5. 「ARUARU海ドラDiner」202303トークゲスト集合

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『きいろいゾウ』向井理 映画好きが推すイイ俳優ランキング【国内40代編】雰囲気部門

イイ俳優ランキング【国内40代編】から、今回は<雰囲気部門>のランキングを発表します。総合と比べてどのようにランキングが変化しているのか注目です!

Netflix映画『シティーハンター』鈴木亮平 映画好きが推すイイ俳優ランキング【国内40代編】総合

今回は、国内40代(1975年から1984生まれ)のイイ俳優の中から、昨今活躍が目覚ましい方を編集部の独断で60名選抜し、正式部員の皆さんに投票していただきました。40代は皆そもそも知名度が高いので、予想が難しいところ、どんな結果になったのか、ぜひご覧ください。

映画『僕はイエス様が嫌い』佐藤結良 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.1

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介!

REVIEW

  1. 映画『本心』池松壮亮
  2. 映画『八犬伝』役所広司/内野聖陽/土屋太鳳/渡邊圭祐/鈴木仁/板垣李光人/水上恒司/松岡広大/佳久創/藤岡真威人/上杉柊平/河合優実/小木茂光/丸山智己/真飛聖/忍成修吾/塩野瑛久/神尾佑/栗山千明/中村獅童/尾上右近/磯村勇斗/大貫勇輔/立川談春/黒木華/寺島しのぶ
  3. 映画『カッティ 刃物と水道管』ヴィジャイ/サマンタ
  4. 映画『がんばっていきまっしょい』
  5. 映画『リトル・ワンダーズ』スカイラー・ピーターズ/フィービー・フェロ/ローレライ・モート/チャーリー・ストーバー

PRESENT

  1. 映画『カーリングの神様』本田望結
  2. 映画『ザ・バイクライダーズ』オースティン・バトラー
  3. 映画『トラップ』オリジナルクロスボディバッグ
PAGE TOP