REVIEW

敵【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『敵』長塚京三/瀧内公美/黒沢あすか

REVIEW

筒井康隆著「敵」を、吉田大八が監督、脚本を務め、長塚京三主演で映画化。主人公は、フランス文学の権威とされる、元大学教授の渡辺儀助(長塚京三)。儀助は10年前に退職し、妻にも先立たれ、祖父から受け継いだ広い一軒家に1人で暮らしています。連載する原稿を書いたり、時に昔の教え子が訪ねてきたり、一見優雅に暮らしているものの、彼は預貯金の額から後何年生きられるかを計算し、既に遺書も用意しています。本作は、そうして静かに人生を終えようとしている老人の精神世界を覗き見られるようなストーリーとなっています。

映画『敵』長塚京三

序盤は儀助の平穏な日常が淡々と映されているだけに見えて、儀助の口から出るふとした言葉が意味深く、本作の世界に引き込まれていきます。このストーリーのどこに“敵”らしい要素が出てくるのか想像できない点でも、余計に次の展開が気になってきます。そして、周囲のキャラクターとの関係性が見えてくると、さらに興味が掻き立てられます。
儀助の現実と彼の頭の中の世界が混在してくる描写の中で、孤独な老人の悲壮感とともに、彼が誰にも見られたくないであろう部分も浮き彫りにされていきます。言い換えると、輝いて見えていたはずの過去をくすませる、変化する時代にそぐわなくなってきた振る舞いが徐々にあぶり出されていきます。そうしたシーンには、彼自身の居心地の悪さが生々しく投影されており、観客の中には同情する方もいる一方で、描写の辛辣さに共感を覚える方もいるのではないかと思います。

映画『敵』長塚京三/河合優実

“敵”は何の比喩なのかという点も考察のし甲斐があります。そして、儀助の死と生との葛藤には、人間の本能と、人生の皮肉な一面が見てとれます。本作を観て、老齢期の人間の思考を疑似体験できるのはもちろん、死が近づいてきてもなお、人間は自分の知らない自分や、よく知るはずの他人の知らない一面をまだ見るのだなと実感します。
長塚京三の名演もさることながら、儀助の人間性をあぶり出す女性キャラクターを演じる、瀧内公美、河合優実、黒沢あすかの演技も見応えがあります。モノクロもすごく効いていて、これしか考えられないと直感で思える世界観に仕上がっています。皆さんもきっと、何だかすごい映画を観たという感覚で満たされるはずです。

デート向き映画判定

映画『敵』長塚京三/瀧内公美

男性は特に気まずくなりそうな展開がありつつ、個々に没頭して観てしまいそうです。観終わった後も、振り返って考察したくなる描写が複数あります。なので、デートで観るよりも1人でじっくり観るか、映画好きの友達と観るほうが良いでしょう。

キッズ&ティーン向き映画判定

映画『敵』長塚京三/黒沢あすか

ある程度年齢を重ねてから観るほうが、刺さる部分が多い内容だと思います。文学が好きな方はさておき、若い皆さんにはまだピンとこないかもしれません。見た目に派手な展開があるタイプではなく、主人公の内面の動きが興味深い作品なので、いろいろな映画を観るようになって、集中力、鑑賞力がついてから観ることをオススメします。

映画『敵』長塚京三

『敵』
2025年1月17日より全国公開
ハピネットファントム・スタジオ、ギークピクチュアズ
公式サイト

ムビチケ購入はこちら
映画館での鑑賞にU-NEXTポイントが使えます!無料トライアル期間に使えるポイントも

© 1998 筒井康隆/新潮社 © 2023 TEKINOMIKATA

TEXT by Myson


関連作

「敵」筒井康隆 著/新潮社
Amazonで書籍を購入する

本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2025年1月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『ババンババンバンバンパイア』吉沢亮/板垣李光人 ババンババンバンバンパイア【レビュー】

運命的な出会いから、銭湯に住み込みで働いている450歳のバンパイア森蘭丸(吉沢亮)は、銭湯の一人息子、李仁(板垣李光人)が童貞のまま18歳になるのを…

映画『君がトクベツ』畑芽育/大橋和也 心理学から観る映画55:推し活がもたらす幸福感『君がトクベツ』

今や「推し活」「推し」という言葉はすっかり浸透しました。なぜ、人が推し活にハマるのかといえば、きっと幸福感があるからでしょう。そこで、今回は推し活が与える幸福感について、『君がトクベツ』のストーリーをもとに考えます。

映画『メガロポリス』アダム・ドライバー/ナタリー・エマニュエル メガロポリス【レビュー】

“ゴッドファーザー”シリーズ、『地獄の黙示録』など、映画史を語る上で欠かせない巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督が、私財を投じて製作した本作は、40年もの構想を経て完成…

特製『平成狸合戦ぽんぽこ』ふんわりキーホルダー正吉 高畑勲展 特製『平成狸合戦ぽんぽこ』ふんわりキーホルダー正吉 1名様 プレゼント

映画『ツイスターズ』オリジナルハンディファン 2名様プレゼント

映画『F1®/エフワン』ブラッド・ピット/ダムソン・イドリス 映画『F1®/エフワン』【レビュー】

“地上版〈トップガン〉”という宣伝文句を謳っている本作は、『トップガン マーヴェリック』と同じく、ジョセフ・コシンスキーが監督を務め、ジェリー・ブラッカイマーが製作を…

映画『#真相をお話しします』桜井ユキ 桜井ユキ【ギャラリー/出演作一覧】

1987年2月10日生まれ。福岡県出身。

映画『秘顔-ひがん-』チョ・ヨジョン/パク・ジヒョン 秘顔-ひがん-【レビュー】

タイトルを見ただけでいろいろな想像が掻き立てられるので…

映画『28年後...』アーロン・テイラー=ジョンソン/レイフ・ファインズ/ジョディ・カマー 28年後…【レビュー】

ダニー・ボイル監督×アレックス・ガーランド(脚本)の最強タッグで制作されてきた“28”シリーズは、2002年『28日後…』、2007年『28週後…』と続き、本作で3作目…

映画『バック・イン・アクション』キャメロン・ディアス キャメロン・ディアス【ギャラリー/出演作一覧】

1972年8月30日生まれ。アメリカ出身。

海外ドラマ『アンダー・ザ・ヘブン 信仰の真実』アンドリュー・ガーフィールド アンダー・ザ・ヘブン 信仰の真実【レビュー】

本シリーズは、ジャーナリストのジョン・クラカワーが、アメリカのユタ州にあるソルトレイクシティ郊外の平和な街で1984年に実際に起きた殺人事件を基に書いたノンフィクション小説「信仰が人を殺すとき」を原作として…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』トム・クルーズ 映画好きが選んだトム・クルーズ人気作品ランキング

毎度さまざまな挑戦を続け、人気を博すハリウッドの大スター、トム・クルーズ。今回は、トム・クルーズ出演作品(日本劇場未公開作品を除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。

映画『プラダを着た悪魔』アン・ハサウェイ/メリル・ストリープ 元気が出るガールズムービーランキング【洋画編】

正式部員の皆さんに“元気が出るガールズムービー【洋画編】”をテーマに、好きな作品を選んでいただきました。果たしてどんな結果になったのでしょうか?

映画『キングダム 大将軍の帰還』山﨑賢人/吉沢亮/橋本環奈/清野菜名/吉川晃司/小栗旬/大沢たかお 映画好きが選んだ2024邦画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の邦画ベストを選んでいただきました。2024年の邦画ベストはどの作品になったのでしょうか?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『君がトクベツ』畑芽育/大橋和也
  2. 映画でSEL:告知1回目
  3. 映画『親友かよ』アンソニー・ブイサレートピシットポン・エークポンピシット

REVIEW

  1. 映画『ババンババンバンバンパイア』吉沢亮/板垣李光人
  2. 映画『メガロポリス』アダム・ドライバー/ナタリー・エマニュエル
  3. 映画『F1®/エフワン』ブラッド・ピット/ダムソン・イドリス
  4. 映画『秘顔-ひがん-』チョ・ヨジョン/パク・ジヒョン
  5. 映画『28年後...』アーロン・テイラー=ジョンソン/レイフ・ファインズ/ジョディ・カマー

PRESENT

  1. 特製『平成狸合戦ぽんぽこ』ふんわりキーホルダー正吉
  2. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント