取材&インタビュー

『I ~人に生まれて~』リリー・ニー監督インタビュー

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『I ~人に生まれて~』リリー・ニー監督

本作は、主人公がインターセックス(性分化疾患)であることを知らされないまま両親に性転換手術を受けさせられるという衝撃的な物語です。子どもの頃は男の子として暮らしていた主人公が、思春期の身体の変化をきっかけに、女の子として生きざるをえなくなり葛藤する姿を描いています。この度、本作で長編監督デビューを果たしたリリー・ニー監督にメールインタビューを行いました。デリケートなテーマに挑んだきっかけや、他の国での反応などもお聞きしました。

※性分化疾患とは、ヒトの6つの性のうち、性染色体、性腺、内性器、外性器のいずれかが非定型的な先天的体質を指します(映画公式資料より引用)。
※性分化疾患について正しい理解のためにこちらもご覧ください→【日本性分化疾患患者家族会連絡会/nexdsd JAPAN

<PROFILE>
リリー・ニー:監督
中国の脚本家、監督。南カリフォルニア大学映画芸術学部を卒業。短編映画『FeMale』(2016)でハリウッド国際映像映画祭、カナダ短編映画祭で優良賞などを受賞し、『I ~人に生まれて~』で長編監督デビューを果たした。同作は当初中国での製作、上映を予定していたが、中国の検閲制度の問題のため断念し、台湾で製作された。同作では監督を務めるだけでなく、主題歌も歌っている。

もしインターセックスの人が伝統的なアジアの文化的背景の中で生まれ育ったとしたらどうなるだろうか

映画『I ~人に生まれて~』リー・リンウェイ/ベラ・チェン

マイソン:
性分化疾患について、どんなリサーチをしましたか?映画として表現する際に、難しかった点はどんな点ですか?

リリー・ニー監督:
ご質問ありがとうございます! この話は私の親しい友人からインスピレーションを受けました。私はその友人のことをずっと同性愛者だと思っていましたが、ある時インターセックスであると教えてくれました。 当時は“インターセックス”という言葉の意味すら知りませんでしたので、すぐにネットで検索してみました。 世界中で、インターセックスの子ども達、さらには赤ちゃんが性別適合手術を受けるケースが非常にたくさんあることを知りました。その事実を知り、私の友人はインターセックスコミュニティの中で幸運な人だったのだろうと思わずにはいられませんでした。 なぜなら手術を受けず、ご両親もありのままに受け入れてくれていたからです。

映画『I ~人に生まれて~』イン・ジャオトー

しかし同時に、もし友人が中国人だったらどうなるだろうかとも考えていました。 もし伝統的なアジアの文化的背景の中で生まれ育ったとしたらどうなるでしょうか?友人の人生は違うものになっていたのでしょうか?これらの疑問を念頭に置いて、私は『I ~人に生まれて~』の脚本を書き始めました。
恐らく皆さんが思っていたほど、私の研究は十分ではなかったかもしれません。私にはインターセックスの友人がおり、オンラインで少し調査をしましたが、それだけでした。私の友人は性別適合手術を受ける必要がなかったので、性転換後のストーリーは私の想像にすぎません。インターセックスの活動家と仕事をすることはできませんでしたが、撮影現場に医療コンサルタントがいてくれてよかったです。彼らは本当に私を助けてくれました。

映画『I ~人に生まれて~』リー・リンウェイほか

マイソン:
主役のリー・リンウェイさんはどんな風に役作りをされたのでしょうか?監督から何かリクエストやアドバイスをされたこと、お二人で話し合ったことはありましたか?

リリー・ニー監督:
はい、リンウェイはこの役作りのために本当に一生懸命でした。彼女は実生活では非常に女性らしく、穏やかな話し方をします。しかし、脚本で私が最初に書いたシーンは、シーナンが自慰行為をするというものでした。台本を読んだリンウェイは、そのシーンですでに緊張していました。また、シーナンはゲーム好きで長時間プレイするため、猫背であることを描写しました。リンウェイ本人は猫背でもなければビデオゲームもしないので、役作りのためにたくさんの準備をしなければなりませんでした。

映画『I ~人に生まれて~』リー・リンウェイ

マイソン:
本作の結末は、観る人によってさまざまな解釈ができるように感じました。監督としては、絶望と希望のどちらかを本作に込めたのでしょうか?もしくはそのどちらでもないのでしょうか?

リリー・ニー監督:
どちらでもないです。 誰もが自分なりの解釈をできるように、観客にオープンエンドを残したかったのです。

映画『I ~人に生まれて~』

マイソン:
本作は、大阪アジアン映画祭、ハワイ国際映画祭、ファイブフレーバーズ映画祭などに正式出品されたと聞いています。観客の反応で嬉しかった点など印象に残ったことはありますか?お国柄の違いなど感じたところがあれば教えてください。

リリー・ニー監督:
一部の観客が『I ~人間に生まれて~』をホラー映画のようだと思っていたのは興味深かったです。全くそのようなことを予想していませんでした。私はずっとホラー映画が好きで、子どもの頃から好きだったティム・バートン監督の視覚的なスタイルに深く影響されていたのかもしれません。しかし、私はこの映画をホラーやスリラーにするつもりはもちろんありませんでした。なぜなら主人公は、特別な体験をしましたが、それを除けば私達と同じ普通の人間だと思っているからです。
韓国とアメリカの観客が映画を気に入ってくれたこと、特にその映像美が好評だったことを知ってとても嬉しかったです。日本の観客の方々にも伝わることを願っています!

映画『I ~人に生まれて~』リリー・ニー監督

2023年9月取材 TEXT by Myson

映画『I ~人に生まれて~』リー・リンウェイ

『I ~人に生まれて~』
2023年9月22日より全国順次公開
監督:リリー・ニー
出演: リー・リンウェイ/ベラ・チェン/イン・ジャオトー
配給:ライツキューブ

ゲーム好きの14歳の少年シーナンはある日、激しい腹痛に襲われ、トイレに駆け込んだ。血で真っ赤に染まった尿を見て、膀胱がんを恐れたシーナンは両親に連れられ病院へ。医師は両親にシーナンが性分化疾患であると告げ、性転換手術の選択を迫る。そして、両親はシーナンに病気のことを伝えず、さらに相談もなく、性転換手術を決断する。

公式サイト 

©2021 Flying Key Movie Co., Ltd. All Rights Reserved.

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『BAUS 映画から船出した映画館』染谷将太 BAUS 映画から船出した映画館【レビュー】

2014年、東京都、吉祥寺の映画館“バウスシアター”が閉館となりました。本作は、この映画館を親の代から運営してきた本田拓夫著…

映画『白雪姫』レイチェル・ゼグラー 白雪姫【レビュー】

1937年に製作されたディズニーの『白雪姫』は、世界初のカラー長編アニメーションであり、ウォルト・ディズニー・スタジオの原点とされています…

映画『ニンジャバットマン対ヤクザリーグ』 ニンジャバットマン対ヤクザリーグ【レビュー】

バットマン・ファミリーが戦国時代の歴史改変を食い止めた『ニンジャバットマン』の続編…

【映画でSEL】森林の中で穏やかな表情で立つ女性 自分を知ることからすべてが始まる【映画でSEL】

SEL(社会性と情動の学習)で伸ばそうとする社会的能力の一つに「自己への気づき」があります。他者を知るにも、共感するにも、自己をコントロールするにも、そもそも自分のことを全く理解していなければ始まりません。

映画『悪い夏』北村匠海 悪い夏【レビュー】

REVIEW染井為人著の原作小説は、「クズとワルしか出てこない」と話題を呼び、第37回横溝…

映画『女神降臨 Before 高校デビュー編』Kōki,/渡邊圭祐/綱啓永 女神降臨 Before 高校デビュー編【レビュー】

本作は、縦スクロール形式のデジタルコミック“webtoon”で人気を博したyaongyi(ヤオンイ)作の同名コミックを原作としています…

映画『教皇選挙』レイフ・ファインズ 教皇選挙【レビュー】

圧倒されっぱなしの120分でした。教皇に“ふさわしい”人間の境界線をテーマに、神に仕える聖職者達の言動、ひいては人格を通して…

映画『ディックス!! ザ・ミュージカル』ボーウェン・ヤン ボーウェン・ヤン【ギャラリー/出演作一覧】

1990年11月6日生まれ。オーストラリア出身。

ディズニープラス『スパイダーマン:フレンドリー・ネイバーフッド』 スパイダーマン:フレンドリー・ネイバーフッド【レビュー】

本シリーズは馴染み深い要素をベースにしながら、新しい設定が…

映画『少年と犬』高橋文哉/西野七瀬 少年と犬【レビュー】

直木賞を受賞した、馳星周著の小説「少年と犬」は、『ラーゲより愛を込めて』を手掛けた平野隆プロデューサーと脚本家の林民夫、瀬々敬久監督により映画化…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『キングダム 大将軍の帰還』山﨑賢人/吉沢亮/橋本環奈/清野菜名/吉川晃司/小栗旬/大沢たかお 映画好きが選んだ2024邦画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の邦画ベストを選んでいただきました。2024年の邦画ベストはどの作品になったのでしょうか?

映画『セトウツミ』池松壮亮/菅田将暉 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.4

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

映画『オッペンハイマー』キリアン・マーフィー 映画好きが選んだ2024洋画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の洋画ベストを選んでいただきました。2024年の洋画ベストに輝いたのはどの作品でしょうか!?

学び・メンタルヘルス

  1. 【映画でSEL】森林の中で穏やかな表情で立つ女性
  2. 映画『風たちの学校』
  3. 【映画でSEL】海辺の朝日に向かって手を広げる女性の後ろ姿

REVIEW

  1. 映画『BAUS 映画から船出した映画館』染谷将太
  2. 映画『白雪姫』レイチェル・ゼグラー
  3. 映画『ニンジャバットマン対ヤクザリーグ』
  4. 映画『悪い夏』北村匠海
  5. 映画『女神降臨 Before 高校デビュー編』Kōki,/渡邊圭祐/綱啓永

PRESENT

  1. 映画『ガール・ウィズ・ニードル』ヴィク・カーメン
  2. 映画『私の親愛なるフーバオ』
  3. 映画『デュオ 1/2のピアニスト』カミーユ・ラザ/メラニー・ロベール
PAGE TOP