取材&インタビュー

<ドイツ映画祭 HORIZONTE2021>『未来は私たちのもの』ファラズ・シャリアット監督インタビュー

  • follow us in feedly
  • RSS
<ドイツ映画祭HORIZONTE 2021>『未来は私たちのもの』ファラズ・シャリアット監督インタビュー

LGBTQや移民問題をテーマに、今の若者が社会の中で希望を持って生きていく姿を、力強くスタイリッシュな映像で映し出したファラズ・シャリアット監督の自伝的作品『未来は私たちのもの』。今回はオンラインで監督にお話を伺い、さまざまなテーマが盛り込まれた本作で工夫した点や、監督が自分らしくあるために大切にしていることについて直撃しました。

<PROFILE>
ファラズ・シャリアット:監督
1994年ケルン生まれ。ケルン劇場やハノーバー州立劇場で演出家や役者、ビデオインスタレーションの経験を積んだ後、ヒルデスハイム大学で舞台芸術を学ぶ。自身の家族の体験を綴ったドキュメンタリーなど、移民の背景を持つ人々の体験や物語に向き合いながら作品を手掛けている。『未来は私たちのもの』は、大学時代の仲間であるパウリーナ・ローレンツとラケル・モルトと立ち上げた映画コレクティブJünglingeで製作。

説明できないような、少し隠れているものもあって良い

<ドイツ映画祭HORIZONTE 2021>『未来は私たちのもの』ベンヤミン・ラジャブプル/バナフシェ・フールマズディ/アイディン・ジャラリー

シャミ:
本作は、監督ご自身の体験も含まれている作品ということですが、最初に本作を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

ファラズ・シャリアット監督:
実は私もこの映画の主人公と同じように難民のための宿泊施設で社会福祉活動を課せられたんです。私の両親は30年前にイランからドイツに移住したのですが、その施設で偶然にも両親と同じようにイランから移住して来た人々と接することになりました。そして、いろいろな会話をするうちにドイツのメディアの中でこういう人達を描いているものがあまりにも少ないことに気が付きました。そこで、いつも一緒に仕事をしているパウリーナ・ローレンツと話をして、ドイツに移住してきた第1〜3世代の人達についてのリサーチを始めました。

シャミ:
今お話にあったように難民施設での通訳の仕事は監督ご自身の経験談とのことですが、他にもご自身の体験で本作に反映されている部分はありますか?

ファラズ・シャリアット監督:
私の他の体験も入っていますが、私だけでなく多くの友人や、たくさんの人に話を聞いており、その方々に「若いということについてどう思うのか」「移民であることにについてどう思い、どんな経験をしたのか」「クィアであることについてどう思うのか」など、いくつかのテーマを基にリサーチしました。その結果を映画にも多く取り入れていますが、ただ直線的に語るのではなく、いろいろな要素を話の中に入れています。ある種プリズムのようにいろいろなところから反射するような作品にしました。それは一緒に脚本を書いたパウリーナだけでなく、エンドロールに謝辞の宛先としてたくさんの人の名前が出てくる方全員に私達がリサーチをして得たお話が基になっています。

シャミ:
本作では、LGBTQや移民問題といったテーマが描かれていますが、描く上で気を付けた点はありますか?

ファラズ・シャリアット監督:
重要な点がいくつかあります。最も気を付けたことは、何を誰が語っているのかということです。それが正しくないと誰かを傷付けることもあるからです。カメラの前に立つ人もカメラの向こう側に立つ人も、その経験がある人でなければいけません。つまり単なるフィクションとか想像の産物として描いてはいけないということです。もう1つ私達が心掛けたのは、リサーチの時に皆さんに映画の中でどう見られたいか、どう描いて欲しいかということをかなり聞きました。例えば、難民のための施設でも破壊されたような所なのか、あるいはとても小さい所なのかといったことにも私達は気を遣いました。つまり、難民の方々が映画の中でどういう描かれ方をしたいのかということを確かめていたんです。よく言われる言葉で、“Think yourself as an audience(=あなた自身が見る人であると考えよ)”とありますが、その言葉が私達の映画を作る上での非常に重要な羅針盤となりました。

シャミ:
主人公のパーヴィス、アモン、バナが出会い、若者として青春を謳歌する様子と共に、それぞれアイデンティティの壁にぶつかる様子も映し出されていました。そのバランスをとる上で苦労したり、工夫された点はありますか?

ファラズ・シャリアット監督:
難しい質問なので簡単には答えられませんが、映画作りというのは非常に長いプロセスを経るものなので、その中にいくつかあります。まずは、やはりテーマを非常に注意深く扱うことでした。注意深くというのは、いろいろな人の話をよく聞くことや、常に自分に対して自問することでもあります。この映画では、いろいろなアイデンティティに関する多くのファクターが絡んでいて、それは人種差別、ジェンダー、セクシュアリティなどがあり、この映画にとっては全部が大事な要素なんです。なのでバランスという点ですと、すべてのシーンにおいて、「このシーンではいろいろなファクターがあるうちのどれがポイントになるべきなのか」を常に考え話し合いながら映画を作っていきました。そして、重要なのはそれらすべてが単なるテーマとしてではなく、人間の積み重ねた経験としてそういったファクターを取り上げたというところが工夫に繋がるのかもしれません。

シャミ:
ありがとうございます。劇中に登場したアモンの「自分さえわからない」、バナの「こうありたい自分と現実の自分」という台詞も印象的だったのですが、監督自身が自分らしくあるために大切にしていることは何かありますか?

ファラズ・シャリアット監督:
私自身について言えば、やはり大切なのは家族や友達の存在で、常に大きな助けになってくれます。彼らと今何をしていてそれはなぜかということをお互いに話し、そして時に彼らから寄せられる異論や批判にもちゃんと耳を傾けることで、私が自分らしくいられるよう支えてくれていると感じます。また、もう1つ私が重要だと思うのは、自分というものが常にはっきりしていて、常に変わらないものであるべきだという考えから解放されても良いのではないかと思います。自分というものは常に変わるものですし、同時に多様であることも可能なはずなんです。ドイツでは明瞭さや透明性ですとか、「自分とはこうなんだ」と明確に可視化し、説明することが期待されますが、むしろ私はそうではなく、説明できないような、少し隠れているものもあって良いと思います。特にアイデンティティについてはそういうものであるともう少し人々に知って欲しいと思うくらいです。

<ドイツ映画祭HORIZONTE 2021>『未来は私たちのもの』ベンヤミン・ラジャブプル

シャミ:
映画の冒頭で『美少女戦士セーラームーン』の衣装を着て踊る子どもは、監督ご自身ということですが、当時どういったきっかけでセーラームーンと出会ったのでしょうか?興味を持った理由も教えてください。

ファラズ・シャリアット監督:
私はセーラームーンの大ファンでして、特に変身するシーンがすごく好きでした。また、若くて甘やかされたティーンの姿にも等身大のものを感じますし、私にとって非常にアクセスができた人物でした。さらに、あの冒頭のシーンはとてもクィアなものがあり、私がセーラームーンの服を着て踊っているのを父が撮影しているのですが、あの衣装を私が着たことに対して私の両親は全く問題に思わず受け入れていて許されているんだということを示しています。それが絵空事ではなくリアリティであり、つまり私のセクシュアリティを両親が受け入れていることを示すシーンでもあります。それから、セーラームーンというのはポップカルチャーの中の時代精神的な存在であって、パーヴィスやバナにとってもポップカルチャーというものは重要で、そこに共感するものがあると思いました。

シャミ:
なるほど。では最後の質問で、監督がこれまでで1番影響を受けた作品、もしくは人物がいらっしゃったら教えてください。

ファラズ・シャリアット監督:
実は私には参考にしているものがたくさんあり、「特にこの人に影響を受けました」とは言えません。それも映画の世界だけでなく、演劇や音楽、ポップカルチャーからもたくさんのインスピレーションをもらっています。その中から強いて挙げるとすると、歌手のソランジュ、ビヨンセ、リアーナ、それから映画だとアンドレア・アーノルド監督の『アメリカン・ハニー』『フィッシュ・タンク』があります。アニメーションに関しては、特に仲間を大事にしているもので、特に『美少女戦士セーラームーン』や『ファイナルファンタジー』などが挙げられると思います。

シャミ:
本日はありがとうございました!

2021年4月20日取材 TEXT by Shamy

<ドイツ映画祭HORIZONTE 2021>『未来は私たちのもの』

『未来は私たちのもの』
<ドイツ映画祭 HORIZONTE 2021>オープニング作品
2021年11月18日(木)より21日(日)まで開催の<ドイツ映画祭 HORIZONTE 2021>にて公開
監督:ファラズ・シャリアット
出演:ベンヤミン・ラジャブプル/バナフシェ・フールマズディ/アイディン・ジャラリー/マリアム・ザレー

イラン系移民の両親を持つミレニアル世代の青年パーヴィスは、両親がドイツで築いた安定した快適な環境で育った。ある日、パーヴィスは万引きがばれたことから、社会奉仕活動を課され難民施設で通訳として働くことになる。そこでイランからやってきた姉弟に出会う。その出会いを通じて、パーヴィス達はドイツにおけるそれぞれの未来が平等でないことに気づき始め…。

公式サイト  REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

<ドイツ映画祭 HORIZONTE 2021>
2021年11月18日(木)より21日(日)まで、渋谷ユーロライブにて開催
公式サイト

© Juenglinge Film

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX 4月2日(日)【ARUARU海ドラDiner】にて海ドラファン交流イベント開催決定!

日本初の海外ドラマをコンセプトとしたダイナー【ARUARU海ドラDiner】では、2023年4月2日(日)に海ドラファン交流イベントを実施します!

映画『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザー ザ・ホエール

愛するパートナーを失ったことで過食し、272kgの巨体になってしまったチャーリー(ブレンダン・フレイザー)は…

映画『リトル・マーメイド』ハリー・ベイリー おとぎ話の多様性

誰もが知っているおとぎ話も時代や作る人によってさまざまに描かれ、多様性があります。この特集では、キ…

映画『ハンサン ―龍の出現―』オク・テギョン オク・テギョン

1988年12月27日韓国生まれ。2008年に2PMのメンバーとしてデビュー。『シンデレラのお姉さん』で…

映画『マッシブ・タレント』ニコラス・ケイジ マッシブ・タレント

数々のヒット作、名作に出演し名声を得たニコラス・ケイジは…

映画『ロストケア』松山ケンイチ/長澤まさみ ロストケア

本作は、日本の介護問題に鋭く切り込んだ葉真中顕の第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作を…

映画『オットーという男』プレミア、トム・ハンクス、トルーマン・ハンクス トルーマン・ハンクス

1995年12月26日アメリカ、カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。父はトム・ハンクス…

映画『ハンサン ―龍の出現―』キム・ソンギュン キム・ソンギュン

1980年7月5日韓国生まれ。演劇“ロミオとジュリエット”でデビューし…

海外ドラマ『THE LAST OF US』ペドロ・パスカル/ベラ・ラムジー THE LAST OF US

2013年にPlayStation®3専用タイトルとして発売され、全世界で200部門以上のゲームアワードを受賞した人気ゲーム“The Last of Us”を原作とする…

中国ドラマ『黒豊と白夕~天下を守る恋人たち~』ヤン・ヤン/チャオ・ルースー 『黒豊と白夕~天下を守る恋人たち~』オリジナルQUOカード(500円分) 3名様プレゼント

ドラマ『黒豊と白夕~天下を守る恋人たち~』オリジナルQUOカード(500円分) 3名様プレゼント

部活・イベント

  1. 【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX
  2. 【ARUARU海ドラDiner】サポーター集会:パンチボール(パーティサイズ)
  3. 【ARUARU海ドラDiner】プレオープン
  4. 「ARUARU海ドラDiner」202303トークゲスト集合
  5. 「ARUARU海ドラDiner」202303イメージビジュアル

おすすめ記事

【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX 4月2日(日)【ARUARU海ドラDiner】にて海ドラファン交流イベント開催決定!

日本初の海外ドラマをコンセプトとしたダイナー【ARUARU海ドラDiner】では、2023年4月2日(日)に海ドラファン交流イベントを実施します!

AXN海外ドラマ『刑事カレン・ピリー 再捜査ファイル』ローレン・ライリー 女性という理由で仕事に抜擢された女性刑事は上司や世の中を見返すことができるのか?『刑事カレン・ピリー 再捜査ファイル』への期待

25年もの間、捜査が滞っていた未解決の殺人事件を任された、若き女性刑事カレン・ピリーの活躍を描く『刑事カレン・ピリー 再捜査ファイル』は全3話で構成される英国ミステリーです。この度、本作を独占放送するAXNミステリーさんが…

【ARUARU海ドラDiner】サポーター集会:パンチボール(パーティサイズ) 【ARUARU海ドラDiner】絶賛営業中!くじ引きで当たる海外ドラマ豪華グッズ紹介とこぼれ話

海外ドラマファンが集える場所【ARUARU海ドラDiner】では、海外ドラマに登場するフードやドリンクが楽しめるのはもちろん、くじ引きも引けちゃうんですよ!今回はくじ引きで当たる豪華グッズやこぼれ話をご紹介。

映画『トップガン マーヴェリック』トム・クルーズ 映画好きが選んだ2022洋画ベスト

正式部員の皆さんに2022年の洋画ベストを選んでいただきました。候補作品は2022年に劇場公開or配信された洋画(ドキュメンタリー以外の実写)の中から編集部が独断で選抜しました。前回の「2022邦画ベスト」に続き、洋画ではどの作品が上位にランクインしたのでしょうか?

【ARUARU海ドラDiner】プレオープン 海外ドラマファンが集える場所【ARUARU海ドラDiner】3月10日OPEN!多数の企業コラボにより店内には100枚以上のポスターがギッシリ

いよいよ3/10にオープンを迎える【ARUARU海ドラDiner】。本日3/9がプレオープンとなり、トーキョー女子映画部スタッフ、マイソンとシャミが一足お先に完成した【ARUARU海ドラDiner】に行ってきました。今回は本ダイナーの様子を写真と共にお届けします!

「ARUARU海ドラDiner」202303トークゲスト集合 さまざまな分野の専門家が語る「〇〇から見る海外ドラマあるあるTALK」は必見!【ARUARU海ドラDiner】3/10から4/9開催

「こんな場所があったらいいな」という思いのもと、多くの方、多くの企業のご協力により実現しオープンを迎える【ARUARU海ドラDiner】…

「ARUARU海ドラDiner」202303イメージビジュアル 海外ドラマファンが集う場所【ARUARU海ドラDiner】で、海外ドラマの楽しさを提供する多数の企業がコラボ!

多くの企業様にご参加いただいて、さまざまな海外ドラマのポスターや予告編で彩りたい。【ARUARU海ドラDiner】のそんな思いを叶えてくださった企業を今回ご紹介します。

ARUARU海ドラDiner:ロゴ&パースMIX “あるある”がテーマ。語り合いたい「海ドラ好き」に贈る 日本初!海外ドラマPopupコンセプトカフェ、東京・池袋の「Mixalive TOKYO」にて開催

日本初の海外ドラマコンセプトカフェを、「トーキョー女子映画部」のプロデュースにより、2023年3月10日(金)~4月9日(日)の期間限定で開催します。

映画『キングダム2 遥かなる大地へ』山﨑賢人 映画好きが選んだ2022邦画ベスト

昨年に続き正式部員の皆さんに2022年の邦画ベストを選んでいただきました。候補作品は2022年に劇…

映画『恋とニュースのつくり方』レイチェル・マクアダムス 新年にやる気がわくサクセスストーリー特集

今回は、新年にやる気がわくサクセスストーリーのオススメ作品を正式部員の皆さんから募りました。素敵なサクセスストーリーを観て、やる気をアップしましょう!

REVIEW

  1. 映画『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザー
    ザ・ホエール

  2. 映画『マッシブ・タレント』ニコラス・ケイジ
  3. 映画『ロストケア』松山ケンイチ/長澤まさみ
    ロストケア

  4. 海外ドラマ『THE LAST OF US』ペドロ・パスカル/ベラ・ラムジー
    THE LAST OF US

  5. 映画『シャザム!~神々の怒り~』ザッカリー・リーヴァイ
  6. 映画『コンペティション』ペネロペ・クルス/アントニオ・バンデラス/オスカル・マルティネス
  7. 映画『零落』斎藤工
    零落

  8. 映画『わたしの幸せな結婚』目黒蓮(Snow Man)/今田美桜
  9. 映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』クリス・パイン/ミシェル・ロドリゲス/ジャスティス・スミス/ソフィア・リリス
  10. 映画『The Son/息子』ヒュー・ジャックマン/ローラ・ダーン/ゼン・マクグラス
    The Son/息子

PRESENT

  1. 中国ドラマ『黒豊と白夕~天下を守る恋人たち~』ヤン・ヤン/チャオ・ルースー
  2. 映画『銀河鉄道の父』役所広司/菅田将暉/森七菜/豊田裕大/坂井真紀/田中泯
  3. Huluプレミア『ジンクスの恋人』ソヒョン(少女時代)/ナ・イヌ
PAGE TOP