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『トラブル・ガール』ジン・ジアフア監督インタビュー

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映画『トラブル・ガール』ジン・ジアフア監督インタビュー

ADHDの少女シャオシャオと、彼女を取り巻く人々を描いたヒューマンドラマ『トラブル・ガール』。今回は本作のジン・ジアフア監督にメールインタビューをさせていただき、本作の人間模様や物語について聞いてみました。

<PROFILE>
ジン・ジアフア:監督、脚本
監督、脚本を担当した短編作品“Lucky Draw”(2019)や“A Cold Summer Day” (2019)は、金鐘奨、金穂奨、高雄映画祭、ニューヨークフェスティバルTV&映画賞(短編部門金賞)など数々の映画祭で評価された。また、両作共クレルモン=フェラン国際短編映画祭国際コンペティション部門に選出されたほか、 台北映画祭、ショートショートフィルムフェスティバル&アジア、シンガポール中国映画祭などでも上映された。本作『トラブル・ガール』は初の長編映画となっている。

現代の家族に蔓延している人間関係の脆さを示したいと思いました

映画『トラブル・ガール』オードリー・リン

シャミ:
短編作品を経て、本作が監督にとって初の長編作品となりました。本作では、ADHDの少女シャオシャオと、彼女を取り巻く人々の物語が描かれていましたが、物語のアイデアはどのように生まれたのでしょうか?

ジン・ジアフア監督:
これは、私が初めて完成させた長編脚本です。執筆したのは、ちょうど子どもが小学校に上がった頃で、子どもが集団にどう溶け込んでいくかという過程が、当時の私にとって身近な体験であったと同時に、社会を理解するための拡大鏡のように感じられました。
ADHDの特徴の1つとして、医学界でそれが“病気”と呼べるのか議論が続いているという点があります。これはまるで“裸の王様”のように、周囲の人々が真実を無視するような様子を浮き彫りにしています。この物語の展開される時期は、私の子ども達の成長期と重なり、人生について多くの新しい気づきを得た時期でもあります。

シャミ:
昨今日本でも発達障害が話題にあがることが増え、ADHDについて知る機会も増えた一方で、部分的な情報が一人歩きしている面があるようにも感じます。本作でADHDを取り上げる上でどんな準備や調査をして、どのようなことに気をつけられましたか?

映画『トラブル・ガール』オードリー・リン

ジン・ジアフア監督:
私は現代に生きる子ども達を描きたいと思っていました。子ども達にとって、この社会で生きるのは、非常に難しいことだと思います。インターネットのせいなのか、それとももっと複雑な理由があるのか、彼らの喜びや悲しみはスマホにあり、かつてのマスメディアが提供していたような共通の話題もなく、私達が子どもだった頃よりもずっと偏った考えを持っています。そのため、彼らが抱える問題の多くは私達の想像を超えています。
私は10年以上に渡って子どもの周りの生徒達を対象にしたフィールドワークを行いました。もちろん脚本が形になるにつれ、多くの専門家や協力者へのインタビューも行いました。でも、本当に重要なのは、保護者と子どもと一緒に疲れ果てた時間や、子ども達の遊び場へ他の保護者と一緒に出かけた時間だったと思います。他のあらゆる成長に関するテーマと同様に、この作品のテーマは異なる立場の人々が互いに困難を抱え、共感することが常に重要であるということでした。

シャミ:
本作では、ADHDのシャオシャオが感情を抑えることが苦手なため、さまざまな壁にぶつかる様子が描かれていました。彼女を描く上で、特に気をつけた点や意識された点はどんな部分でしょうか?

ジン・ジアフア監督:
私は忠実に描けているのかということ、特に話し方や言葉遣いに意識を向けていました。この年頃の子どもはぎこちない時期だと思います。意図せず大人のような話し方をしたり、大事な時に限って何も考えずに話して、大人がイライラしたり怒ったりすると、一夜にして成長したように見えたりもします。ですが、他の子どもと同じように彼女は神からの贈り物なのです。

映画『トラブル・ガール』テレンス・ラウ/オードリー・リン

シャミ:
シャオシャオ自身がADHDであることと同時に、シャオシャオの両親や学校の先生達が大人の都合で彼女を振り回している様子にとても複雑な感情になりました。監督ご自身は本作の人間模様をどのように見せたいとお考えでしたか?

ジン・ジアフア監督:
母娘はお互い鏡のような存在です。ADHDの少女を演じたオードリー・リンは実際にはとても落ち着いており、一方で母親役のアイヴィー・チェンはエネルギー溢れる俳優です。2人の気質を入れ替えても物語は成立しますが、この組み合わせであることで、問題を抱えているのは子どもなのか、それとも周りの人々なのかを客観的に考えさせられます。
教師は第三者でありながら母娘の問題を解決することはできず、むしろ自分自身のほうがより多くの問題に悩まされているかもしれません。最初のプールのシーンで、教師は少女に泳ぎ方を教える際に嘘をつきますが、少女は結果的にそのおかげで泳ぎ方を習得します。これは、私達が教育を受ける過程が、ある意味で嘘に順応する状態であることへの暗示でもあります。
この物語は、教育システムの中ではみ出し者となった3人が家族を築こうとし、互いに温め合いますが、最終的には失敗に終わってしまうのです。彼らの関係によって現代の家族に蔓延している人間関係の脆さを示したいと思っていました。現代の家族は危機的状況にあると思います。

シャミ:
シャオシャオを演じたオードリー・リンさんの演技はとてもリアルで印象的でした。彼女をシャオシャオ役に抜擢した理由と監督が特に魅力だと感じた点を教えてください。

映画『トラブル・ガール』オードリー・リン

ジン・ジアフア監督:
彼女の顔を見た瞬間、「この子だ」と直感しました。その後、彼女と話す機会を作ったのですが、ちょうどパンデミックの時期で、彼女はマスクをつけたままでした。私達は彼女にシュークリームを渡し、それを食べてもらうことにしました。彼女はゆっくりとマスクを外し、シュークリームを食べ終わるとすぐにマスクをつけ直しました。それを見て、私はスタッフに「見つけた」と伝えました。彼女は役を勝ち取ろうという計算などが全くなく、無防備で自然体な姿がまさに私が求めていたものだったのです。
オードリー・リンは控えめで口数は少ないですが、非常に感受性の高い子どもです。常にたくさんのセンサーを持っており、周囲のことを静かに感じ取っています。彼女はADHDについて学ぶために本を借りたり、関連する映画を観たりしました。また、私達がADHDの子ども達と直接触れ合う機会を作ったのですが、その後には自分の観察をレポートにまとめていました。そして自分の生活の中で、ADHDの子どもに近づく方法を模索し始めました。彼女は常に集中してくれていました。集中してベストを尽くす彼女の姿勢に、私は最も惹かれました。

シャミ:
本作での長編映画デビューを経て、今後作品を作っていく上で大切にしたいことはありますか?今後手掛けたテーマがあれば教えてください。

映画『トラブル・ガール』ジン・ジアフア監督インタビュー
© Taipei Golden Horse Film Festival Executive Committee

ジン・ジアフア監督:
初めてだからこそ、特にアウトサイダーとしての感覚を大切にし、何事にも初心を忘れず、繊細さと勇敢さを持ち続けたいと思います。これは簡単には手に入らないものであり、常に感謝しなければならないと思っています。次回作は、今年3月にHong Kong Asian Film Financing Forum(HAF)で公開された『市場裡的女鬼』という作品で、現在プリプロダクション中です。死ぬことはできないけどうまく生きられない女性についての話で『トラブル・ガール』でも描いた女性の苦境に近いものがあります。早く皆さんにお見せできる機会があればと思っています。

2024年10月取材 TEXT by Shamy

映画『トラブル・ガール』オードリー・リン

『トラブル・ガール』
2025年1月17日より全国順次公開
監督・脚本:ジン・ジアフア
出演:アイヴィー・チェン/テレンス・ラウ/オードリー・リン
配給:ライツキューブ

ADHDの少女シャオシャオは、学校ではクラスメートからいじめを受け、家では海外で働く父親が不在がちで、母親から厄介者扱いされていた。そんな彼女の複雑な心境を唯一理解してくれるのは、担任のポール先生だけだった。しかしある日、彼女は母親と先生が不倫していることを知ってしまい…。

公式サイト

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