特集

映画に隠された恋愛哲学とヒント集70:結婚してるのに、結婚していないのに

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『夜、鳥たちが啼く』⼭⽥裕貴/松本まりか

ネタバレ注意!

週末婚、事実婚という言葉が生まれたように、結婚のスタイルも多様化してきました。とはいえ、依然として“結婚”という概念には縛りがあります。今回は、『夜、鳥たちが啼く』『散歩時間~その日を待ちながら~』を例に考えてみました。

結婚してるのに

映画『散歩時間〜その日を待ちながら〜』前原滉/大友花恋

『散歩時間~その日を待ちながら~』は、2020年のコロナ禍を舞台に、年代も職業も異なるキャラクター達の日常を描いています。登場人物の1人、亮介(前原滉)は、ゆかり(大友花恋)と婚約したものの、コロナの影響で結婚式を挙げられず、友人宅でお祝いをしてもらうことに。でも、友人宅に向かおうとする2人には何だか不穏な空気が流れています。ゆかりは、亮介に対して何か不満を抱いている様子。その真相が徐々に明らかになっていきます。

端から見ると亮介はゆかりを気遣い、努力しているように見えます。でも、ゆかりは亮介のそういった態度で余計に彼の本心がわからなくなっているようです。また、ひょんなことからゆかりは自分が亮介からまだ聞かされていない事実を友人達から聞いてしまい不安に陥ります。

映画『散歩時間〜その日を待ちながら〜』前原滉/大友花恋

きっと、ゆかりからすると結婚したのになぜそんなに大事なことを私には言わないのかと思っていることでしょう。一方、亮介からすると奥さんだからこそ心配をかけたくなくて言いづらいという思いがありそうです。亮介からすると、ずっと黙っているつもりではなくタイミングを見計らっているとも考えられます。でもゆかりからすると、大事なことなのに自分よりも友人達が先に知っているということが腹立たしいと感じたのもわかります。

まだ2人が恋人同士の関係だったら、どうだったのでしょうか。もちろん、結婚しているからといっていつどうやって報告、相談するかは人それぞれでしょうし、恋人同士だから1人で何でも決めてよいということでもありません。ただ、夫婦という関係性に変わったことで、恋人同士だった時とは違う期待や不安、不満が生まれてしまう可能性はあるでしょう。

結婚していないのに

映画『夜、鳥たちが啼く』⼭⽥裕貴

『夜、鳥たちが啼く』は、半同居生活を送ることになった、彼女に去られた慎一(山田裕貴)と、夫に裏切られ離婚したシングルマザーの裕子(松本まりか)の物語です。この物語には、慎一とかつての恋人(中村ゆりか)との回想シーンが織り込まれいます。ここでは慎一と元彼女の関係にフォーカスしたいと思います。小説家としてまだ生計を立てられていない慎一は、恋人と一緒に暮らしていましたが、彼女と彼女の勤め先の店長との関係を疑い、嫉妬に狂っていきます。

嫉妬で彼女に一方的に不満をぶつける慎一と彼女のやり取りに興味深いセリフがあります。結婚を前提に一緒に暮らしているつもりの彼女は、このまま自分達が関係を続けられるのか不安だということ、自分が生計を支えているのに勝手に嫉妬されて仕事ができなくなれば生活できなくなるということを慎一に伝えます。この2人のやり取りの中で、「結婚していないのに」というキーワードが出てきます。

具体的なセリフは敢えて書かずにおきますが、「結婚していないのに」2人が生活できるように働いている彼女が、慎一に将来への不安を口にしたり、現実を突きつけるのも納得です。一方で、「結婚していないのに」先のことを今聞かれても答えようがない慎一の立場も、わがままだとは思いつつわからなくもありません。ただ、いずれにせよ結婚しているかしていないかというところでお互いに期待していいライン、期待してほしくないラインができてしまっているのでしょう。実は慎一と元彼女との関係だけでなく、後半の物語にも結婚しているかどうかが要になってくる展開があります。本作は自分の結婚観を振り返るスタンスで観ても参考になる作品です。

映画『夜、鳥たちが啼く』⼭⽥裕貴/松本まりか

当たり前のことですが、結局はお互いが結婚という枠組みをどう捉えるかが一致するかしないかの問題です。結婚していること、結婚していないことを、その時点で2人がどちらを前向きに捉えられるか、タイミングも重要なポイントです。日本でも結婚するのが当たり前という時代ではなくなってきています。だからといって単純な問題ではありませんが、“結婚”という言葉に振り回されずに、2人の関係で何を1番大事にしたいかをすりあわせるのが先決ではないでしょうか。

映画『夜、鳥たちが啼く』⼭⽥裕貴/松本まりか

『夜、鳥たちが啼く』
2022年12月9日より全国公開
R-15+
クロックワークス
公式サイト

© 2022 クロックワークス

映画『散歩時間〜その日を待ちながら〜』前原滉/大友花恋/柳ゆり菜/中島歩ほか

『散歩時間~その日を待ちながら~』
2022年12月9日より全国公開
ラビットハウス
公式サイト

©︎2022「散歩時間~その日を待ちながら~」製作委員会

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『君がトクベツ』畑芽育/大橋和也 心理学から観る映画55:推し活がもたらす幸福感『君がトクベツ』

今や「推し活」「推し」という言葉はすっかり浸透しました。なぜ、人が推し活にハマるのかといえば、きっと幸福感があるからでしょう。そこで、今回は推し活が与える幸福感について、『君がトクベツ』のストーリーをもとに考えます。

映画『メガロポリス』アダム・ドライバー/ナタリー・エマニュエル メガロポリス【レビュー】

“ゴッドファーザー”シリーズ、『地獄の黙示録』など、映画史を語る上で欠かせない巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督が、私財を投じて製作した本作は、40年もの構想を経て完成…

特製『平成狸合戦ぽんぽこ』ふんわりキーホルダー正吉 高畑勲展 特製『平成狸合戦ぽんぽこ』ふんわりキーホルダー正吉 1名様 プレゼント

映画『ツイスターズ』オリジナルハンディファン 2名様プレゼント

映画『F1®/エフワン』ブラッド・ピット/ダムソン・イドリス 映画『F1®/エフワン』【レビュー】

“地上版〈トップガン〉”という宣伝文句を謳っている本作は、『トップガン マーヴェリック』と同じく、ジョセフ・コシンスキーが監督を務め、ジェリー・ブラッカイマーが製作を…

映画『#真相をお話しします』桜井ユキ 桜井ユキ【ギャラリー/出演作一覧】

1987年2月10日生まれ。福岡県出身。

映画『秘顔-ひがん-』チョ・ヨジョン/パク・ジヒョン 秘顔-ひがん-【レビュー】

タイトルを見ただけでいろいろな想像が掻き立てられるので…

映画『28年後...』アーロン・テイラー=ジョンソン/レイフ・ファインズ/ジョディ・カマー 28年後…【レビュー】

ダニー・ボイル監督×アレックス・ガーランド(脚本)の最強タッグで制作されてきた“28”シリーズは、2002年『28日後…』、2007年『28週後…』と続き、本作で3作目…

映画『バック・イン・アクション』キャメロン・ディアス キャメロン・ディアス【ギャラリー/出演作一覧】

1972年8月30日生まれ。アメリカ出身。

海外ドラマ『アンダー・ザ・ヘブン 信仰の真実』アンドリュー・ガーフィールド アンダー・ザ・ヘブン 信仰の真実【レビュー】

本シリーズは、ジャーナリストのジョン・クラカワーが、アメリカのユタ州にあるソルトレイクシティ郊外の平和な街で1984年に実際に起きた殺人事件を基に書いたノンフィクション小説「信仰が人を殺すとき」を原作として…

映画でSEL:告知1回目 自分を好きになるための【映画でSEL(社会性と情動の学習)】第1回ワークショップ女性限定無料ご招待!

長らく温めてきた【映画でSEL(社会性と情動の学習)】のワークショップをいよいよスタートします! 「自分を好きになる」をテーマに、毎回さまざまな映画から、内容を引用しながら進めていきます。

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』トム・クルーズ 映画好きが選んだトム・クルーズ人気作品ランキング

毎度さまざまな挑戦を続け、人気を博すハリウッドの大スター、トム・クルーズ。今回は、トム・クルーズ出演作品(日本劇場未公開作品を除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。

映画『プラダを着た悪魔』アン・ハサウェイ/メリル・ストリープ 元気が出るガールズムービーランキング【洋画編】

正式部員の皆さんに“元気が出るガールズムービー【洋画編】”をテーマに、好きな作品を選んでいただきました。果たしてどんな結果になったのでしょうか?

映画『キングダム 大将軍の帰還』山﨑賢人/吉沢亮/橋本環奈/清野菜名/吉川晃司/小栗旬/大沢たかお 映画好きが選んだ2024邦画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の邦画ベストを選んでいただきました。2024年の邦画ベストはどの作品になったのでしょうか?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『君がトクベツ』畑芽育/大橋和也
  2. 映画でSEL:告知1回目
  3. 映画『親友かよ』アンソニー・ブイサレートピシットポン・エークポンピシット

REVIEW

  1. 映画『メガロポリス』アダム・ドライバー/ナタリー・エマニュエル
  2. 映画『F1®/エフワン』ブラッド・ピット/ダムソン・イドリス
  3. 映画『秘顔-ひがん-』チョ・ヨジョン/パク・ジヒョン
  4. 映画『28年後...』アーロン・テイラー=ジョンソン/レイフ・ファインズ/ジョディ・カマー
  5. 海外ドラマ『アンダー・ザ・ヘブン 信仰の真実』アンドリュー・ガーフィールド

PRESENT

  1. 特製『平成狸合戦ぽんぽこ』ふんわりキーホルダー正吉
  2. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP