REVIEW

アシスタント【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『アシスタント』ジュリア・ガーナー

昨今国内外問わず、映画業界のハラスメントが明るみに出てきました。本作の公式サイトによると、「英語で匿名の女性を指す “Jane Doe” に由来するジェーンというキャラクターは、数百にも及ぶ労働者へ対して行われたリサーチとインタビューによって監督が得た膨大な知見、とりわけ女性の痛みや混乱の経験から形成されている」とあります。本作で描かれる、映画会社に勤め始めて間もないアシスタント、ジェーン(ジュリア・ガーナー)の1日を観るだけでも、ハラスメントが常態化している現状がうかがえます。
ジェーンが出勤するのは、空がまだ暗い早朝。彼女の仕事はまさに雑務の連続で、会長を始め、周囲のスタッフの世話に追われています。にもかかわらず、彼女が周囲から空気のように扱われている様子も、客観的に観ている私達にとっては異様な光景として映ります。本作はそんなジェーンの仕事ぶりを淡々と描いているだけに見えて、たった1日の間にどれだけストレスのある出来事を経験しているかを映し出しています。また、淡々と描いているからこそ、常態化している会社の異常性が際立って見えます。そして、一見何でもない日常のようでいて、後半にはかなり緊張感が高まる展開があります。そのシーンには問題の根深さが描かれており、ジェーンにも、観る者にも徹底的な無力感を植え付けます。
高い倍率ながらやっと憧れの仕事に就いたジェーンは、会社の汚点に異議を唱えるのか、自分のキャリアを守るために妥協するのかという究極の選択を迫られます。何ともやるせない気持ちにさせられるストーリーながら、自分の価値観を振り返るきっかけになるのではないでしょうか。

デート向き映画判定
映画『アシスタント』ジュリア・ガーナー

ジェーンが体験しているような状況は映画業界に限らないと思います。特に社会人の皆さんにとってはとても身近に感じる内容なので、デートの雰囲気を楽しむ気分は吹っ飛んで、映画に没頭してしまうでしょう。自分の仕事観を振り返るには1人でじっくり観ると良いと思います。一方で、パートナーに仕事の悩みを相談したいと思っている場合は、一緒に本作を観てもらうと話易くなりそうです。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『アシスタント』ジュリア・ガーナー

インターンをしている方や就職活動中の方、就職して間もない方は、ジェーンと同じ目線で感情移入してしまうでしょう。ジェーンのように、夢と憧れを胸に高い倍率を勝ち抜いて就職したものの、「思っていたのと違う!」という状況に陥る可能性はなきにしもあらずです。やりたい仕事に近づけて、その企業は出世するのには有利で、でも企業環境が最悪で…となった時、あなたならどうしますか?本作はあなたの仕事観を確かめる上で、良いシミュレーションになると思います。

映画『アシスタント』ジュリア・ガーナー

『アシスタント』
2023年6月16日より全国公開
サンリスフィルム
公式サイト

© 2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved.

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『金髪』白鳥玉季さんインタビュー 『金髪』白鳥玉季さんインタビュー

今回は『金髪』で生徒の板緑役を演じた白鳥玉季さんにインタビューさせていただきました。“金髪デモ”を起こすキーパーソンである板緑を演じた感想や、撮影裏でのエピソードを直撃しました。

映画『TOKYOタクシー』倍賞千恵子/木村拓哉 TOKYOタクシー【レビュー】

クリスチャン・カリオン監督『パリタクシー』を原作とした本作は、東京にある柴又から神奈川の葉山にある高齢者施設までの道のりを舞台に、山田洋次監督が映画化…

映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ 心理学から観る映画59:研究倫理に反する実験とその被害『エクスペリメント』『まったく同じ3人の他人』

『まったく同じ3人の他人』というドキュメンタリーを観ました。生き別れた三つ子が再会する感動のストーリーかと思いきや、驚愕の背景を知り、研究倫理について改めて考えさせられました。そこで今回は研究倫理をテーマとします。

映画『コンビニ・ウォーズ~バイトJK VS ミニナチ軍団~』ヴァネッサ・パラディ ヴァネッサ・パラディ【ギャラリー/出演作一覧】

1972年12月22日生まれ。フランス出身。

映画『ブルーボーイ事件』中川未悠/中村中/イズミ・セクシー/真田怜臣/六川裕/泰平史/錦戸亮 ブルーボーイ事件【レビュー】

高度成長期にあった1965年の東京では、街の浄化のため、警察はセックスワーカー達を厳しく取り締まっていました。ただ、セックスワーカーの中には性別適合手術(当時の呼称は性転換手術)を受けて女性的な体をした通称ブルーボーイが…

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画『君の顔では泣けない』芳根京子/髙橋海人 君の顔では泣けない【レビュー】

高校1年生の夏、坂平陸(武市尚士)と水村まなみ(西川愛莉)はプールに一緒に落ちたことで体が入れ替わってしまいます。2人はすぐに元に戻ることができず15年を過ごし…

映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』ジェレミー・アレン・ホワイト スプリングスティーン 孤独のハイウェイ

物語の舞台は1982年。ブルース・スプリングスティーン(ジェレミー・アレン・ホワイト)は、名声を手に入れながらも、葛藤を抱えて…

映画『2つ目の窓』松田美由紀 松田美由紀【ギャラリー/出演作一覧】

1961年10月6日生まれ。東京都出身。

「第38回東京国際映画祭」クロージングセレモニー:受賞者 東京グランプリは『パレスチナ36』!第38回東京国際映画祭ハイライト

2025年10月27日(月)に日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開幕したアジア最大級の映画の祭典である第38回東京国際映画祭が、11月5日(水)に閉幕。今年も個性豊かな作品が多数出品され、さまざまなイベントが実施されました。以下に、第38回東京国際映画祭ハイライトをお届けします。

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ウェス・アンダーソン監督 映画好きが選んだウェス・アンダーソン監督人気作品ランキング

今回は、ウェス・アンダーソン監督作品を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。人気作品が多くあるなか、上位にランクインしたのは?

映画『宝島』部活:座談会/大友啓史監督 この映画で問いかけたい「宝」とは…大友啓史監督と語ろう『宝島』部活リポート後編

前回に引き続き今回は映画『宝島』の部活リポートをお届けします。後編では、事前に正式部員の方々にお答えいただいたアンケート結果について議論しました。今回も熱いトークが繰り広げられています!

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ
  2. 映画学ゼミ2025年11月募集用
  3. 映画『おーい、応為』長澤まさみ

REVIEW

  1. 映画『TOKYOタクシー』倍賞千恵子/木村拓哉
  2. 映画『ブルーボーイ事件』中川未悠/中村中/イズミ・セクシー/真田怜臣/六川裕/泰平史/錦戸亮
  3. 映画『君の顔では泣けない』芳根京子/髙橋海人
  4. 映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』ジェレミー・アレン・ホワイト
  5. 映画『平場の月』堺雅人/井川遥

PRESENT

  1. 映画『TOKYOタクシー』オリジナルパラパラメモ
  2. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP