REVIEW

幼い依頼人

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『幼い依頼人』イ・ドンフィ/チェ・ミョンビン

本作は2013年に実際に韓国で起きた漆谷(チルゴク)継母児童虐待死亡事件を基にしたフィクションです。物語の鍵となるのは、10歳の少女による「私が7歳の弟を殺した」という衝撃の証言。本作は主人公のジョンヨブが、ダビンとミンジュンという姉弟に出会い、彼等が辿る悲劇とどう向き合うのかを描いています。冒頭で、キティ・ジェノヴィーズ事件(自宅前で強盗に襲われたキティは、38人も目撃者がいたにも関わらず、30分以上刺され続け死亡した)を取り上げていましたが、それに対するジョンヨブの発言から、その時点での彼の価値観がうかがえます。そこから彼はダビンとミンジュンに出会い、変化していくのですが、彼は最初から正義感いっぱいの人間というわけではなく、多くの人がそうしてしまうように厄介なことには関わりたくないと思っているキャラクターとして描かれていて、綺麗事ではないストーリーになっている点で、観る側も自分に置き換えて観ることができます。姉弟が虐待されるシーンが本当に恐ろしく、ユソンが演じる継母の迫力がすさまじいので、姉弟がどんなに怖い思いをしているかがリアルに伝わってきます。そして父親も本当にひどい。こんな親のもとで暮らす子どもはどんなに辛いかと考えると胸が張り裂けそうになります。でも第三者が親の虐待から子どもを救うというのは本当に大変で、ジョンヨブが最初そうだったように、心配しながらも、及び腰になってしまい、見て見ぬ振りをしてしまう現実を突きつけられます。自分もこういう状況を目の当たりにしても、見て見ぬ振りをしてしまうのかも知れないと考えると、やるせない気持ちでいっぱいになりますが、ジョンヨブが動き出したことで周囲も動き出し、孤独に闘う少女ダビンを救おうとする姿に、「最初に誰かが立ち上がるのが大事なんだ」ということを実感させられます。エンドロールでは、韓国の児童虐待傷害件数が2011年の4133件から、2017年には3万4169件と大幅に増えていて、加害者の多くは執行猶予か罰金刑のみで済まされ、加害者の5人に4人は父母だという現実が告げられています。実際はこの映画のようにはいっていないということになりますが、日本でも最近虐待で子どもが亡くなった事件が複数報じられ、他人事とは思えません。こういった映画を観ることで、そういう現実と向き合う必要があるのだなと感じます。エンタテインメントとしても、思わぬところに伏線が敷かれていて、引き込まれるストーリーになっています。内容が詰まった、深いテーマの作品ですので、多くの方に観て欲しいです。

デート向き映画判定
映画『幼い依頼人』イ・ドンフィ/チェ・ミョンビン

観ていて辛過ぎて、涙が出てしまうシーンもあり、デートの気分には向きません。でも、夫婦やこれから結婚しようとするカップルには、子どもを持つ重みを改めて考えるきっかけになるので、一緒に観るのは良いことだと思います。少女ダビンが、愛し合っていない夫婦のもとに生まれた子どもは幸せになれないのか、とジョンヨブに尋ねるシーンがありますが、結婚して家族を作ることと、その先のことを改めて考えさせられます。親だけでなく、大人が皆自覚が必要だなと自省する機会にもなるので、鑑賞後に誰かと話したくなる映画でもあります。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『幼い依頼人』ユソン/チェ・ミョンビン

皆さんの中にはダビン姉弟のような状況で苦しんでいる人、そういう人を知ってはいるけど何もできないと思っている人がいるかも知れませんね。本作では、ダビンが子どもながらに生きるか死ぬかという過酷な環境の中で、恐怖に立ち向かう姿が描かれています。大人が誰も信用できない状況で、彼女はどうしたのか、ぜひ皆さんにも観て欲しいと思います。また、ダビンの友達も大活躍します。本作が、自分の身を守りつつ、友達のために何かできないかと考えるきっかけになれば良いなと思います。

映画『幼い依頼人』イ・ドンフィ/ユソン/チェ・ミョンビン

『幼い依頼人』
2020年3月27日より全国公開
2020年4月17日〜5月31日U-NEXTにて期間限定独占先行配信
2020年6月1日より、その他各動画配信サービスにて配信
公式サイト

© 2019 EASTDREAMSYNOPEX CO., LTD. & LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

TEXT by Myson

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ 心理学から観る映画59:研究倫理に反する実験とその被害『エクスペリメント』『まったく同じ3人の他人』

『まったく同じ3人の他人』というドキュメンタリーを観ました。生き別れた三つ子が再会する感動のストーリーかと思いきや、驚愕の背景を知り、研究倫理について改めて考えさせられました。そこで今回は研究倫理をテーマとします。

映画『コンビニ・ウォーズ~バイトJK VS ミニナチ軍団~』ヴァネッサ・パラディ ヴァネッサ・パラディ【ギャラリー/出演作一覧】

1972年12月22日生まれ。フランス出身。

映画『ブルーボーイ事件』中川未悠/中村中/イズミ・セクシー/真田怜臣/六川裕/泰平史/錦戸亮 ブルーボーイ事件【レビュー】

高度成長期にあった1965年の東京では、街の浄化のため、警察はセックスワーカー達を厳しく取り締まっていました。ただ、セックスワーカーの中には性別適合手術(当時の呼称は性転換手術)を受けて女性的な体をした通称ブルーボーイが…

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画『君の顔では泣けない』芳根京子/髙橋海人 君の顔では泣けない【レビュー】

高校1年生の夏、坂平陸(武市尚士)と水村まなみ(西川愛莉)はプールに一緒に落ちたことで体が入れ替わってしまいます。2人はすぐに元に戻ることができず15年を過ごし…

映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』ジェレミー・アレン・ホワイト スプリングスティーン 孤独のハイウェイ

物語の舞台は1982年。ブルース・スプリングスティーン(ジェレミー・アレン・ホワイト)は、名声を手に入れながらも、葛藤を抱えて…

映画『2つ目の窓』松田美由紀 松田美由紀【ギャラリー/出演作一覧】

1961年10月6日生まれ。東京都出身。

「第38回東京国際映画祭」クロージングセレモニー:受賞者 東京グランプリは『パレスチナ36』!第38回東京国際映画祭ハイライト

2025年10月27日(月)に日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開幕したアジア最大級の映画の祭典である第38回東京国際映画祭が、11月5日(水)に閉幕。今年も個性豊かな作品が多数出品され、さまざまなイベントが実施されました。以下に、第38回東京国際映画祭ハイライトをお届けします。

映画『平場の月』堺雅人/井川遥 平場の月【レビュー】

朝倉かすみ著の同名小説を実写化した本作は、『ハナミズキ』『花束みたいな恋をした』(2021年)などを手がけた土井裕泰が監督を務めて…

映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル ぼくらの居場所【レビュー】

カナダのトロント東部に位置するスカボローを舞台に、さまざまな背景を抱えた3組の親子の姿を…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画学ゼミ2025年11月募集用 AI時代における人間らしさの探求【映画学ゼミ第2回】参加者募集!

ネット化が進み、AIが普及しつつある現代社会で、人間らしさを実感できる映画鑑賞と人間にまつわる神秘を一緒に探求しませんか?

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ウェス・アンダーソン監督 映画好きが選んだウェス・アンダーソン監督人気作品ランキング

今回は、ウェス・アンダーソン監督作品を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。人気作品が多くあるなか、上位にランクインしたのは?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ
  2. 映画学ゼミ2025年11月募集用
  3. 映画『おーい、応為』長澤まさみ

REVIEW

  1. 映画『ブルーボーイ事件』中川未悠/中村中/イズミ・セクシー/真田怜臣/六川裕/泰平史/錦戸亮
  2. 映画『君の顔では泣けない』芳根京子/髙橋海人
  3. 映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』ジェレミー・アレン・ホワイト
  4. 映画『平場の月』堺雅人/井川遥
  5. 映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル

PRESENT

  1. 映画『TOKYOタクシー』オリジナルパラパラメモ
  2. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP