1920年代初頭に実際に起こった事件を映画化した本作は、デイヴィッド・グランの小説「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」を原作としています。故郷を追われオクラホマ州の“インディアン準州”に移されたネイティブ・アメリカンの部族であるオセージ族は、オクラホマに自分達の居留地を購入しました。映画公式資料によると、オセージ族は自らの資金で居留地を購入した唯一のネイティブ・アメリカンとされています。そして、1894年、オセージ族の土地から石油が発見され、オセージ族は一気に裕福な民族になりました。でも、それを機に強欲な白人達がこの土地に集まってきて、恐ろしい方法でオセージ族の財産を搾取しました。本作にはそんな黒歴史が生々しく描かれています。
これはとても実話だとは思えないほど怖い内容です。金欲しさにやってきた白人が我が物顔で居座り、笑顔の裏でオセージ族の人々を見下し、彼等の命をモノのように扱い、まるで事務的に殺人計画を進めていく様子にゾッとします。オセージ族の人々の誠実さと、財産にしか目がない白人達の狡猾さのコントラストも際立ち、一層恐ろしい物語として映ります。この土地の人間関係にはそうしたとてもわかりやすい構図ができあがっていながら、本作はレオナルド・ディカプリオが演じる白人移住者のアーネストと、リリー・グラッドストーンが演じるオセージ族のモリーに”違う物語”が起きるのではないかと期待させます。モリーはアーネストの魂胆をわかった上で結婚し、アーネストは自分がモリーを本当に愛していると思い込みながらも叔父のウィリアム・“キング”・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)のコマとして動きます。この夫婦がそれぞれに葛藤する姿から目が離せません。
映画公式資料によると、本作は原作が出版される前の2016年から映画化の企画が動いていたそうです。この実話をどのようなストーリーで伝えるのかについては、紆余曲折あったようで、プロダクションノートに書かれた経緯から、主演と製作総指揮を兼任するディカプリオをはじめ、マーティン・スコセッシ監督、共同脚本のエリック・ロス、モリー役に抜擢されたリリー・グラッドストーン、そしてオセージ族の人々ら関係者の並々ならぬ思い入れが伝わってきます。そして、本作のクオリティの高さは、レオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロ、リリー・グラッドストーン、ジェシー・プレモンス、ジョン・リスゴー、ブレンダン・フレイザーといった豪華俳優陣の演技力なしには実現されなかったといえます。ディカプリオは、叔父の操り人形になりながらも悪人になりきれないアーネストの揺れ動く心情を見事に表現しています。また、ある種の狂気を持ちながらも冷徹さでそれを隠す多面的なキャラクター、ウィリアム・“キング”・ヘイルはロバート・デ・ニーロでなければ演じきれなかったでしょう。『ボーイズ・ライフ』(1993)以来、30年ぶりの共演となったディカプリオとデ・ニーロの掛け合いは鳥肌ものです。
ストーリー、演技力、演出、三拍子揃った本作は、史実を知る方はもちろん、この事件について初めて知る方も見逃して欲しくない秀作です。
資産家の一族なら自分の身の上と重ねてしまい、もしかしたら心穏やかに観られないかもしれません。もし今交際中のパートナーに対してチラッとでも財産目当てに近づいてきたと思える節があるなら、一緒に観ると気まずくなる可能性があるでしょう。そんな心配がないカップルや夫婦の皆さんにとっても、下心と本心とを見分ける参考になる部分がありそうです。自分達の現状によって、1人で観るか、一緒に観て大丈夫か判断してはいかがでしょうか。
登場人物が多く、上映時間が3時間半というところで、まずは集中力が続くかどうか判断しましょう。アメリカの歴史に興味がある人は、19世紀の終わりから20世紀初期にかけてのネイティブ・アメリカンの歴史を予習してから観ると、より深く理解できそうです。さまざまな人種が住むアメリカでは人種差別問題が多岐に渡ることも実感できます。未だに解決できていない背景に根強い問題が潜んでいることも理解できると思います。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
2023年10月20日より全国公開/10月20日Apple TV+にて配信開始
東和ピクチャーズ
公式サイト
画像提供 Apple / 映像提供 Apple
TEXT by Myson
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情報は2024年3月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。
第96回アカデミー賞®ノミネート:作品賞、監督賞、主演女優賞(リリー・グラッドストーン)、助演男優賞(ロバート・デ・ニーロ)、作曲賞、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、計8部門