REVIEW

マンディンゴ

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『マンディンゴ』

1975年に公開された本作は、その過激さから問題作としてアメリカ映画史上から抹消されていたと言われています。私もまだ観たことがなかったので、46年ぶりの劇場公開となるのを機に観てみたのですが、思った以上に衝撃的な内容です。現代でも人種差別をテーマにした作品では差別用語が出てきますが、本作で使われる言葉はあまりにもストレートというか、その言葉を使う人に罪悪感が全くないと思える描写になっていて、物語の舞台となる19世紀半ばのルイジアナ州(アメリカ南部)では、いかに差別が当たり前の時代だったかを象徴しています。
そして何といっても物語が凄まじいです。主人公は、広大な土地を所有し黒人奴隷を育てて売買する“奴隷牧場”を経営するマクスウェルの息子ハモンドです。もうこの設定を聞くだけで激しい差別があったことは伝わってきますが、奴隷をまさに物として扱う様子は、現代の映画に比べても描写が露骨で、この映画がいかにリアルに当時の状況を伝えようとしていたかがわかります。ハモンドは父や周囲の白人とは異なり、黒人に対して気遣いを見せることもあり、この時代にしては善人のようにも見えます。ただ、そもそもこの時代に奴隷を売買していた人やそれを良しとしていた人の感覚がおかしいので、現代から観ると一層あり得ないやり取りが繰り広げられています。ネタバレするので具体的な記載は控えますが、黒人差別はもちろん、女性差別も甚だしく、悶々とさせられることは間違いありません。だからこそ、こういった現実を映画として世に出したのはスゴいことだと思います。本作の製作は 『道』『キングコング』など映画史に名を残す名作を手掛けてきたディノ・デ・ラウレンティスですが、彼のような名プロデューサーが1975年当時こういった作品を手掛ける意味は大きかったと思います。主人公ハモンドを観ていると、生まれる時代が違えば彼はもっと良い人物だったのかもしれないと思えたり、それでもやっぱり彼も罪深いと思えたり、複雑な気持ちがわき上がりますが、私達の誰にでも、心の中に“都合の良い善人”になる素質はあるのではないかとも思うと、他人事にも思えません。時代を超えてそういう問題提起をし続ける作品だからこそ、映画の力を感じさせる1作と言えます。

デート向き映画判定
映画『マンディンゴ』

本作では、ハモンドと妻のやり取りも重要なポイントとなっています。ハモンドが結婚したことで、女性と男性の関係の立場の違いが浮き彫りにされ、そこに人種差別が絡んでくることで、一層クレイジーな人間関係になっているのがわかります。妻の行動にも問題はあるという見方もできますが、元を辿れば、女性が酷い扱いを受けているからであり、人種差別と性差別が絡んだ物語として構成している点でも本作は優れていると言えます。カップルで観ると気まずいシーンも多々ありますが、共有すべき映画だと思います。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『マンディンゴ』

人種差別、性差別についていろいろ考えさせられる内容なので、皆さんにも観てほしいですが、いろいろな意味で描写が激しく、表現も極端なので、ある程度の知識や理解力を要します。また、PG-12なので小学生以下のキッズには大人の助言が必要です。ティーンの皆さんも、本作を観る前観た後に、人種差別や性差別について、知識を深め、いろいろな人と話してみて欲しいと思います。

映画『マンディンゴ』

『マンディンゴ』
2021年3月12日より全国順次公開
PG-12
マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム
公式サイト

© 1974 STUDIOCANAL.All Rights Reserved.

TEXT by Myson

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ 心理学から観る映画59:研究倫理に反する実験とその被害『エクスペリメント』『まったく同じ3人の他人』

『まったく同じ3人の他人』というドキュメンタリーを観ました。生き別れた三つ子が再会する感動のストーリーかと思いきや、驚愕の背景を知り、研究倫理について改めて考えさせられました。そこで今回は研究倫理をテーマとします。

映画『コンビニ・ウォーズ~バイトJK VS ミニナチ軍団~』ヴァネッサ・パラディ ヴァネッサ・パラディ【ギャラリー/出演作一覧】

1972年12月22日生まれ。フランス出身。

映画『ブルーボーイ事件』中川未悠/中村中/イズミ・セクシー/真田怜臣/六川裕/泰平史/錦戸亮 ブルーボーイ事件【レビュー】

高度成長期にあった1965年の東京では、街の浄化のため、警察はセックスワーカー達を厳しく取り締まっていました。ただ、セックスワーカーの中には性別適合手術(当時の呼称は性転換手術)を受けて女性的な体をした通称ブルーボーイが…

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画『君の顔では泣けない』芳根京子/髙橋海人 君の顔では泣けない【レビュー】

高校1年生の夏、坂平陸(武市尚士)と水村まなみ(西川愛莉)はプールに一緒に落ちたことで体が入れ替わってしまいます。2人はすぐに元に戻ることができず15年を過ごし…

映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』ジェレミー・アレン・ホワイト スプリングスティーン 孤独のハイウェイ

物語の舞台は1982年。ブルース・スプリングスティーン(ジェレミー・アレン・ホワイト)は、名声を手に入れながらも、葛藤を抱えて…

映画『2つ目の窓』松田美由紀 松田美由紀【ギャラリー/出演作一覧】

1961年10月6日生まれ。東京都出身。

「第38回東京国際映画祭」クロージングセレモニー:受賞者 東京グランプリは『パレスチナ36』!第38回東京国際映画祭ハイライト

2025年10月27日(月)に日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開幕したアジア最大級の映画の祭典である第38回東京国際映画祭が、11月5日(水)に閉幕。今年も個性豊かな作品が多数出品され、さまざまなイベントが実施されました。以下に、第38回東京国際映画祭ハイライトをお届けします。

映画『平場の月』堺雅人/井川遥 平場の月【レビュー】

朝倉かすみ著の同名小説を実写化した本作は、『ハナミズキ』『花束みたいな恋をした』(2021年)などを手がけた土井裕泰が監督を務めて…

映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル ぼくらの居場所【レビュー】

カナダのトロント東部に位置するスカボローを舞台に、さまざまな背景を抱えた3組の親子の姿を…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画学ゼミ2025年11月募集用 AI時代における人間らしさの探求【映画学ゼミ第2回】参加者募集!

ネット化が進み、AIが普及しつつある現代社会で、人間らしさを実感できる映画鑑賞と人間にまつわる神秘を一緒に探求しませんか?

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ウェス・アンダーソン監督 映画好きが選んだウェス・アンダーソン監督人気作品ランキング

今回は、ウェス・アンダーソン監督作品を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。人気作品が多くあるなか、上位にランクインしたのは?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ
  2. 映画学ゼミ2025年11月募集用
  3. 映画『おーい、応為』長澤まさみ

REVIEW

  1. 映画『ブルーボーイ事件』中川未悠/中村中/イズミ・セクシー/真田怜臣/六川裕/泰平史/錦戸亮
  2. 映画『君の顔では泣けない』芳根京子/髙橋海人
  3. 映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』ジェレミー・アレン・ホワイト
  4. 映画『平場の月』堺雅人/井川遥
  5. 映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル

PRESENT

  1. 映画『TOKYOタクシー』オリジナルパラパラメモ
  2. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP