REVIEW

マーティン・エデン

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『マーティン・エデン』ルカ・マリネッリ

格差社会、教育の必要性、経済的な豊かさと幸福の関係など、いろいろなエッセンスがギュッと詰まっていて、良い意味で一度観ただけでは咀嚼、消化仕切れません。最初に何度も観て、何年か経ってまた観ることで、主人公マーティンが見せてくれる世界をより一層肌で感じられるようになる気がします。
本作は、『野性の呼び声』など冒険小説で一世を風靡した作家ジャック・ロンドンの自伝的作品を映画化したもので、物語の舞台を原作の20世紀初頭のアメリカ西海岸オークランドからイタリアのナポリに移して描かれています。労働者階級として育ち、まともな教育を受けないまま大人になったマーティンは、あることがきっかけで良家の美しい令嬢エレナと出会います。彼は彼女に想いを寄せ、読書で心を通わせようと独学に励みますが、彼が努力をする過程で、社会に根づいている貧富の差が人間関係に何をもたらしているかがありありと見えてとても切なくなります。やがて彼が作家になると言い出すと、エレナを含めた上流階級の人達との溝はさらに深まり、無学な彼が作家になれるわけがないとする上流階級の人達の冷たい目が露わになっていきます。この先の展開は本編でご覧頂ければと思いますが、マーティンとエレナの恋愛が発展していくなかで、1つ解決したと思っても、次に別の問題が出てきて、育った環境、生きている世界が違うという現実を目の当たりにさせられます。これは時代や国を問わず普遍的なことだと思いますが、成功するためのプロセスや手段、生きていく上での優先順位が、最初から裕福な者とそうでない者とでは全然違っていて、そこを摺り合わせるのはとても大変です。貧しくても思いのままに生きていたマーティンは幸せそうでしたが、後のマーティンが幸せに見えないのがまた皮肉で、野性の動物が檻に入れられて覇気を失っていく光景を見ているかのようです。
新型コロナウィルス感染症の影響で格差社会がさらに深刻化し、この状況下では経済的な成功に目が行きがちですが、やはりお金があればすべて良しということではないと本作は教えてくれます。ではどうすれば良いのかとなると、援助が受けられれば良いという単純なものではないことも描かれていて、そこに何が必要なのかを考えることも、本作を観る醍醐味なのではと感じます。社会問題を投影している作品ですが、悲恋の物語としても楽しめるので、いろいろな視点で観てください。

デート向き映画判定
映画『マーティン・エデン』ルカ・マリネッリ

マーティンとエレナのように何らかの格差があるカップルには身につまされる内容なので、デートを楽しむというムードにはならないかも知れませんが、普段その問題から目を背けているようなら、本作を対話のきっかけにするのもアリでしょう。今は気楽に付き合っていても、結婚となると考えなければいけないことが出てくるので、結婚を意識しているカップルも話を深める前に客観的な視点を得るために観ると良さそうです。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『マーティン・エデン』ルカ・マリネッリ

生きていく上で教育がいかに大事かということを、ひしひしと感じられると思います。機知に富んだセリフながら一瞬「??」となる一見難しい言い回しがたびたび出てくるし、後半の展開はまだピンとこないかも知れませんが、中学生以上ならついていけると思います。今気付くと今後の人生でためになることが描かれているので、ぜひ何かしら気付きを得て欲しいと思います。

映画『マーティン・エデン』ルカ・マリネッリ

『マーティン・エデン』
2020年9月18日より全国順次公開
ミモザフィルムズ
公式サイト

©2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

Netflix映画『ジェイ・ケリー』ジョージ・クルーニー/アダム・サンドラー ジェイ・ケリー【レビュー】

ジョージ・クルーニー、アダム・サンドラー、ローラ・ダーン、ビリー・クラダップ、ライリー・キーオ、ジム・ブロードベント、パトリック・ウィルソン、グレタ・ガーウィグ、エミリー・モーティマー、アルバ・ロルバケル、アイラ・フィッシャーなど、これでもかといわんばかりの豪華キャストが…

映画『ロストランズ 闇を狩る者』ミラ・ジョヴォヴィッチ ロストランズ 闇を狩る者【レビュー】

“バイオハザード”シリーズでお馴染みの2人、ミラ・ジョヴォヴィッチとポール・W・S・アンダーソン夫妻が再びタッグを組み、“ゲーム・オブ・スローンズ”の原作者、ジョージ・R・R・マーティンの短編小説を7年の歳月をかけて映画化…

映画『ウィキッド ふたりの魔女』シンシア・エリヴォ/アリアナ・グランデ トーキョー女子映画部が選ぶ 2025年ベスト10&イイ俳優MVP

2025年も毎年恒例の企画として、トーキョー女子映画部の編集部マイソンとシャミが、個人的なベスト10と、イイ俳優MVPを選んでご紹介します。

人間として生きるおもしろさを知る【映画学ゼミ第4回】参加者募集 人間として生きるおもしろさを知る【映画学ゼミ第4回】参加者募集!

ネットの普及によりオンラインで大抵のことができ、AIが人間の代役を担う社会になったからこそ、逆に人間らしさ、人間として生きる醍醐味とは何かを映画学の観点から一緒に探ってみませんか?

映画『スワイプ:マッチングの法則』リリー・ジェームズ スワイプ:マッチングの法則【レビュー】

リリー・ジェームズが主演とプロデューサーを兼任する本作は…

映画『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』アルテュス/アルノー・トゥパンス/ルドヴィク・ブール サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行【レビュー】

パラリンピックやハンディキャップ・インターナショナルのアンバサダーを務めるアルテュスが…

映画『消滅世界』蒔田彩珠/眞島秀和 眞島秀和【ギャラリー/出演作一覧】

1976年11月13日生まれ、山形県出身。

映画『Fox Hunt フォックス・ハント』トニー・レオン Fox Hunt フォックス・ハント【レビュー】

“狐狩り隊(=フォックス・ハント)”と呼ばれる経済犯罪捜査のエリートチームが、国を跨いだ巨額の金融詐欺事件の真犯人を追い詰めるスリリングな攻防戦が描かれた本作は…

Netflix映画『フランケンシュタイン』オスカー・アイザック フランケンシュタイン【レビュー】

メアリー・シェリー著「フランケンシュタイン」はこれまで何度も映像化されてきました。そして、遂にギレルモ・デル・トロ監督が映画化したということで…

映画『大命中!MEは何しにアマゾンへ?』リュ・スンリョン/チン・ソンギュ/イゴール・ペドロゾ/ルアン・ブルム/JB・オリベイラ 大命中!MEは何しにアマゾンへ?【レビュー】

『大命中!MEは何しにアマゾンへ?』という邦題がいい感じで「どういうこと?」と好奇心をそそります(笑)…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『ウィキッド ふたりの魔女』シンシア・エリヴォ/アリアナ・グランデ トーキョー女子映画部が選ぶ 2025年ベスト10&イイ俳優MVP

2025年も毎年恒例の企画として、トーキョー女子映画部の編集部マイソンとシャミが、個人的なベスト10と、イイ俳優MVPを選んでご紹介します。

人間として生きるおもしろさを知る【映画学ゼミ第4回】参加者募集 人間として生きるおもしろさを知る【映画学ゼミ第4回】参加者募集!

ネットの普及によりオンラインで大抵のことができ、AIが人間の代役を担う社会になったからこそ、逆に人間らしさ、人間として生きる醍醐味とは何かを映画学の観点から一緒に探ってみませんか?

映画『チャップリン』チャーリー・チャップリン『キッド』の一場面 映画好きが選んだチャーリー・チャップリン人気作品ランキング

俳優および監督など作り手として、『キッド』『街の灯』『独裁者』『ライムライト』などの名作の数々を生み出したチャーリー・チャップリン(チャールズ・チャップリン)。今回は、チャーリー・チャップリン監督作(短編映画を除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。

学び・メンタルヘルス

  1. 人間として生きるおもしろさを知る【映画学ゼミ第4回】参加者募集
  2. 映画『殺し屋のプロット』マイケル・キートン
  3. 映画学ゼミ2025年12月募集用

REVIEW

  1. Netflix映画『ジェイ・ケリー』ジョージ・クルーニー/アダム・サンドラー
  2. 映画『ロストランズ 闇を狩る者』ミラ・ジョヴォヴィッチ
  3. 映画『スワイプ:マッチングの法則』リリー・ジェームズ
  4. 映画『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』アルテュス/アルノー・トゥパンス/ルドヴィク・ブール
  5. 映画『Fox Hunt フォックス・ハント』トニー・レオン

PRESENT

  1. 映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』チャージングパッド
  2. 映画『ただ、やるべきことを』チャン・ソンボム/ソ・ソッキュ
  3. 映画『グッドワン』リリー・コリアス
PAGE TOP