REVIEW

ルース・エドガー

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『ルース・エドガー』ナオミ・ワッツ/オクタヴィア・スペンサー/ケルヴィン・ハリソン・Jr.

人種差別に関する映画はたくさんありますが、こういった視点のものはあまりなかったのではないでしょうか。勉強もスポーツも万能で学校中から一目置かれている優等生のルースは、歴史の授業で出された課題で過激な内容を提出します。また彼が違法な花火をロッカーに入れていたことで歴史担当の教師ハリエット・ウィルソンは、養母のエイミーにそのことについて懸念を伝えます。そこからルースと養父母との間で信頼関係が揺らぎ始め、ルースに不可解な行動が増えていきます。ここから先は映画で観て頂くとして、本作の特徴は、優秀で一見恵まれていて幸せそうなアフリカ系アメリカ人を主人公としている点です。彼は皆から常に羨望の眼差しを向けられていますが、大きなプレッシャーを抱えています。彼は養母に出会う前、エリトリアで育ち、幼いながらも戦場に駆り出された辛い経験を持っていて、トラウマを克服するために長年苦労してきました。だからこそ、自分はそんな辛い経験を乗り越えた黒人として“象徴”に仕立てあげられるんだと考えていて、本当は皆自分のことを信じておらず、聖人でなければ怪物だと思われているという葛藤を抱えています。
本作で印象深いのは、結局成功してようとしてまいと、「黒人は黒人」という扱いからは抜け出せていない現実がアメリカにはあり、そういう意味でのアメリカン・ドリームもまやかしに過ぎないということです。エリトリアで戦場に駆り出されていた不憫な7歳の少年をアメリカ人夫婦が引き取って優等生に育て上げたことは、世間では美談とされるかも知れませんが、ルース本人はありのままの自分ではなく、完璧な自分を周囲から求められることに生きづらさを感じているのです。ルースの表の顔ともう一つの顔を観ていると、人が本当の意味で認めるということ=称賛ではないのだなと気付かされます。人種差別問題だけでなく、青少年が抱える苦悩を知る上でもとても勉強になる作品です。

デート向き映画判定
映画『ルース・エドガー』ナオミ・ワッツ/ティム・ロス

ラブロマンスではなく、テーマにも重みがあるので、気楽な気分で過ごしたい日のデートにはあまり向いていないでしょう。でも、本当の自分を知って欲しい、わかって欲しいと思っている人にはとても共感できるストーリーなので、本作を観終わった後は自分の話をしやすくなると思います。なので、今日は映画デートの日という時には一緒に観て、語り合うきっかけにすると良いのではないでしょうか。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『ルース・エドガー』オクタヴィア・スペンサー/ケルヴィン・ハリソン・Jr.

中高生くらいになると、主人公のルースの気持ちはとても身近なものに思えて、共感ポイントも多いのではないでしょうか。親や学校の先生に褒めてもらいたくて必死に頑張っているけれど、何だか居心地が悪かったり、孤独や空しさを感じている人もきっとたくさんいると思います。でも、優等生ほどそのイメージを崩せなくて本当の気持ちや自分の姿をさらけ出す勇気が持てないこともあるはずです。本作を観て解決策が見つかるとは言えませんが、このままで良いのかどうか、自分が最初に自分と向き合うきっかけに観てください。

映画『ルース・エドガー』ナオミ・ワッツ/オクタヴィア・スペンサー/ケルヴィン・ハリソン・Jr./ティム・ロス

『ルース・エドガー』
2020年6月5日より全国公開
PG-12
キノフィルムズ、東京テアトル
公式サイト

© 2018 DFG PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』八木莉可子 八木莉可子【ギャラリー/出演作一覧】

2001年7月7日生まれ。滋賀県出身。

映画『グッドワン』リリー・コリアス 『グッドワン』トーク付きプレミア試写会 10組20名様ご招待

映画『グッドワン』トーク付きプレミア試写会 10組20名様ご招待

映画『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』コリン・ファレル/マーゴット・ロビー ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行【レビュー】

「人生をやり直せるドア」が登場する点と、コリン・ファレルとマーゴット・ロビーが向かい合うキービジュアルから、恋愛をやり直すストーリーかと思いきや…

映画『サリー』エスター・リウ 『サリー』特別試写会イベント 5組10名様ご招待

映画『サリー』特別試写会イベント 5組10名様ご招待

映画『THE END(ジ・エンド)』ティルダ・スウィントン/ジョージ・マッケイ/モーゼス・イングラム/ブロナー・ギャラガー/ティム・マッキナリー/レニー・ジェームズ/マイケル・シャノン THE END(ジ・エンド)【レビュー】

REVIEWいつも通り観賞前にほぼ何も情報を入れず、登場人物はいつの時代にどこに住んでいる…

映画『シェルビー・オークス』 シェルビー・オークス【レビュー】

かつて繁栄しながらも今は廃墟と化しているシェルビー・オークスという町で…

映画『ナイトフラワー』渋谷龍太 渋谷龍太【ギャラリー/出演作一覧】

1987年5月27日生まれ。東京都出身。

映画『悪魔祓い株式会社』マ・ドンソク/ソヒョン/イ・デヴィッド 悪魔祓い株式会社【レビュー】

本作は、『悪人伝』や“犯罪都市”シリーズ、ハリウッド映画『エターナルズ』などでお馴染みのマ・ドンソクが…

映画『ツーリストファミリー』シャシクマール/シムラン/ミドゥン・ジェイ・シャンカル/カマレーシュ・ジャガン/ヨーギ・バーブ 『ツーリストファミリー』特別試写会 10組20名様ご招待

映画『ツーリストファミリー』特別試写会 10組20名様ご招待

Netflixシリーズ『イクサガミ』岡田准一 イクサガミ【レビュー】

今村翔吾著のベストセラー「イクサガミ」シリーズを原作とする本シリーズでは、岡田准一が主演、プロデューサー、アクションプランナー、藤井道人、山口健人、山本透が監督と脚本を担当…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画学ゼミ2025年12月募集用 人間特有の感情や認知の探求【映画学ゼミ第3回】参加者募集!

今回は、N「湧き起こる感情はあなたの性格とどう関連しているのか」、S「わかりやすい映画、わかりにくい映画に対する快・不快」をテーマに実施します。

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ウェス・アンダーソン監督 映画好きが選んだウェス・アンダーソン監督人気作品ランキング

今回は、ウェス・アンダーソン監督作品を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。人気作品が多くあるなか、上位にランクインしたのは?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画学ゼミ2025年12月募集用
  2. 映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ
  3. 映画学ゼミ2025年11月募集用

REVIEW

  1. 映画『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』コリン・ファレル/マーゴット・ロビー
  2. 映画『THE END(ジ・エンド)』ティルダ・スウィントン/ジョージ・マッケイ/モーゼス・イングラム/ブロナー・ギャラガー/ティム・マッキナリー/レニー・ジェームズ/マイケル・シャノン
  3. 映画『シェルビー・オークス』
  4. 映画『悪魔祓い株式会社』マ・ドンソク/ソヒョン/イ・デヴィッド
  5. Netflixシリーズ『イクサガミ』岡田准一

PRESENT

  1. 映画『グッドワン』リリー・コリアス
  2. 映画『サリー』エスター・リウ
  3. 映画『ツーリストファミリー』シャシクマール/シムラン/ミドゥン・ジェイ・シャンカル/カマレーシュ・ジャガン/ヨーギ・バーブ
PAGE TOP