REVIEW

サブスタンス【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『サブスタンス』デミ・ムーア

REVIEW

一世を風靡したスターであるにもかかわらず、50歳を迎えて、仕事を干されたエリザベス・スパークル(デミ・ムーア)が、“substance”という再生医療に手を出してしまうところから、ストーリーが展開していきます。この設定を聞いただけで、最初から嫌な予感しかしませんよね(苦笑)。そして、エリザベスは予想通りにどんどんドツボにハマっていき、後半はどえらい事態に陥っていきます。それはもう、本当に本当にどえらい事態です。

映画『サブスタンス』デミ・ムーア

どれだけどえらい事態かは、本編で観ていただくとして、まず称えたいのはエリザベスを演じたデミ・ムーアです。この1作だけでどれだけ種類豊富な感情をさらけ出したのかと驚くほど、さまざまな表情を見せてくれます。怪演という意味でも素晴らしいと同時に、人間味溢れるシーンとのメリハリも見事で、オスカーノミネートも納得です。そして、劇中では老いや容姿の変化に絶望を募らせていくキャラクターを演じているものの、62歳(2025年5月現在)とは思えない抜群のスタイルと美しさにも驚かされます。でも、比類なき美しさで羨望の眼差しを受けていたスターだからこそ、手を出してはいけないものに手を出すという設定なので、説得力が増しています。

映画『サブスタンス』デミ・ムーア

スーを演じたマーガレット・クアリーも負けていません。若さはじける美しさを体現していて、“完璧な容姿”でなければ成立しないキャラクターを見事に演じています。軟体でこなすエアロビクスも完璧で見入ってしまいます。

映画『サブスタンス』マーガレット・クアリー

本作は、素晴らしく気持ち悪い(褒めてます)!そして、すごく怖いけれど、狂気レベルが超絶なのでホラー、スリラーを通り越して、見ようによってはブラックコメディにも入れられます。だから、とにかくカオスを体験するのもアリです。本作で監督・脚本を務めたコラリー・ファルジャはゴールデングローブ賞でこう語っています。

この作品を描くにあたり、過剰さを追求することで、私の内に存在する「モンスター」を解き放ちたいと思いました。その「モンスター」とは、隠しなさいと教え込まれてきた自分の一部のことです。それは、不完全で、老いつつあり、変化を遂げている自分の一部であり、その姿、行動、考え方は、女性である自分にとって不適切だと思い込んできたソレです。
ソレは、女性たちをあまりにも長い間抑制してきた束縛から解放するために、女性の肉体を破壊して戯れます。長い間、自分を抑えるようにと押さえつけられてきたから、その真逆のことをするのです。社会が、暗黙のうちに従えと教えてきたルールを用いて女性たちを破壊してきたのと同じ方法で、からだを虐げ、あざ笑い、破壊します。そのため、非常に生々しい描写を用いました。
同時に、最高に面白おかしくもある映画にもしました。世間にあるルールがいかにばかばかしいものであるかを示すには、風刺が最もパワフルな武器であると確信しているからです。(映画公式資料より一部抜粋)

この言葉からもわかる通り、本作には風刺が効いています。だから、比喩を解釈するおもしろさがあり、社会学的な視点でも見応えがあります。

ここからはあくまで私個人の解釈でネタバレを含みますので、鑑賞後にお読みください。

映画『サブスタンス』デミ・ムーア

本作では、全裸のシーンがふんだんにあります。物質を意味する“substance”というタイトルがついている点から考えると、全裸であることで物質感、物体感が表現されているとも受け取れます。そして、スーの容姿も完璧だからこそどこか不自然で人間味が足りず物質的に映ります。つまり、中身がない人間、まるで物体のような人間に対する風刺ですよね。
老いと若さ、ルッキズムの話でありつつ、ネット社会を揶揄したストーリーとも受け取れます。この点は上記の監督の言葉からもうかがえます。SNS等、インターネット上に作られた自分の“分身”は、実世界の自分(母体)のままか、近い人物像であれば、“乖離”は防げるでしょう。ただ、実世界の自分とかけ離れた“分身”、理想で塗りたくった人物に偽装し続けた先には、何も残りません。最終的には創り出した本人すら誰だかわからない人間が生まれ、元の自分を蝕んでいきます。理想を追い求めるほど、嘘に嘘を重ね、その嘘に疲れ果てるけれど、もう引き返せずに無理をして、本当の自分は心も体も蝕まれていく。そうした状況は私達の身近なところで起きています。

映画『サブスタンス』マーガレット・クアリー

そして、テレビ局の長い廊下は、築いてきたもの、その人の歴史を表現しているように見えます。エリザベスのポスターが貼られていた廊下は、積み重ねてきた実績、実態のある歴史を物語っています。一方、スーの廊下には、ポスターが1、2枚ぽつんと貼られているのみです。ネットが普及した現代では、実績もなく、実態もわからない人物が一瞬で注目の的になることがよくあり、一瞬のまやかしの魔法に毒されて正気を失っていく様を表しているように感じます。
エリザベスと“サブスタンス”の管理者とのやりとりには、ネット社会の匿名性を象徴されているように感じます。相手がどんな人かも知らないで、得体の知れない実験に手を出す行動も、ネット社会になってからよくあることです。
本作は現実ではあり得ないぶっ飛んだ描写をしながら、とても生々しい現実を突きつけてきます。ものすごいエネルギーをぶつけてくる作品です。ぜひ受け止めてください。

デート向き映画判定

映画『サブスタンス』デニス・クエイド

デートが盛り上がるような内容ではなく、観ている間はスクリーンに夢中になるはずなので、デート向きの作品とはいえません。ただ、価値観を共有しておくのにはもってこいの作品なので、一緒に観ると有意義でしょう。年齢や性別に関係なく、ルッキズムに毒されている部分は、誰にでも多少はあるのではないでしょうか。お互いの感覚を知り、一緒に見直すきっかけにするのも良いでしょう。

キッズ&ティーン向き映画判定

映画『サブスタンス』マーガレット・クアリー

本作は15歳になったら観られます。ティーンの皆さんは特に自分や他者の外見が気になるお年頃だと思います。それは仕方がないとはいえ、自分を傷つけることがないようにして欲しいです。本作を観ると、周囲の目を気にして自分を追い込み、嘘の自分を作り上げた先にどんな悲劇が待っているのかを目にすることができます。かなり衝撃的な反面教師なので、嫌でも脳裏に焼き付くでしょう。

映画『サブスタンス』デミ・ムーア/マーガレット・クアリー

『サブスタンス』
2025年5月16日より全国公開
R-15+
ギャガ
公式サイト

ムビチケ購入はこちら
映画館での鑑賞にU-NEXTポイントが使えます!無料トライアル期間に使えるポイントも

©The Match Factory

TEXT by Myson

本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2025年5月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『遠い山なみの光』吉田羊 吉田羊【ギャラリー/出演作一覧】

読み:よしだ よう2月3日生まれ。福岡県出身。詳しいプロフィールは→『遠い山なみの…

海外ドラマ『エイリアン:アース』海外ドラマ『エイリアン:アース』 エイリアン:アース【レビュー】

めちゃんこおもしろくて、あっという間に全話鑑賞。“エイリアン”シリーズとしていえば…

AXA生命保険お金のセミナー20251106 スイーツを食べながらゆったり学ぶ【明るい未来のための将来設計とお金の基本講座】女性限定ご招待!

漠然とただ心配するのはやめて、一度お金について一緒に学んでみませんか? セミナーの前に、映画ミニトークも行います。街並みが一新された虎ノ門で、気負わずに、みんなでスイーツを一緒に食べて楽しみながら、ゆったりと学ぶ機会にぜひご参加ください。by マイソン

映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』レオナルド・ディカプリオ ワン・バトル・アフター・アナザー【レビュー】

クセが強くて、クセになる!本作では、カンヌ、ベネチア、ベルリン、世界三大映画祭を制覇したポール・トーマス・アンダーソン監督と、3人のオスカー俳優の夢のタッグが実現…

映画『愚か者の身分』北村匠海/林裕太 『愚か者の身分』一般試写会 10組20名様ご招待

映画『愚か者の身分』一般試写会 10組20名様ご招待

映画『こんな事があった』前田旺志郎 前田旺志郎【ギャラリー/出演作一覧】

2000年12月7日生まれ。大阪府出身。

ポッドキャスト:トーキョー女子映画部チャンネルアイキャッチ202509 ポッドキャスト【トーキョー女子映画部チャンネル】お悩み相談「大学生のうちに観るとよい作品は?」「好きなことと異なる仕事をするモチベーションの保ち方って?」

今回も、正式部員の皆さんからいただいたお悩み相談の中から、下記のお2人のお悩みをピックアップして、…

映画『プロセキューター』ドニー・イェン プロセキューター【レビュー】

ドニー・イェンが監督、製作、出演の法廷劇と聞いただけでも意外に思いつつ、宣伝では“法廷アクション”と謳っているので…

映画『8番出口』花瀬琴音 花瀬琴音【ギャラリー/出演作一覧】

2002年4月22日生まれ。東京都出身。

映画『ラスト・ブレス』ウディ・ハレルソン/シム・リウ/フィン・コール ラスト・ブレス【レビュー】

奇跡としかいいようのない出来事を描いた本作は、実話に基づいているというから本当に驚き…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画学ゼミ:アイキャッチ1/本の上の犬と少女 AI時代を生き延びる人間力を磨く【映画学ゼミ】開講!一緒に学ぶ仲間を募集!

この映画学ゼミでは、時代に翻弄される側ではなく、時代の波を乗りこなす人間力を磨くために、あらゆる角度から映画を通して、自分、他者、人間、社会に対する理解を深めることを目的としています。そして、物理的に孤立しやすい環境が増えた現代だからこそ、皆さんが楽しく集まれる場所になれたら嬉しいです。

映画『宝島』部活:座談会/大友啓史監督 この映画で問いかけたい「宝」とは…大友啓史監督と語ろう『宝島』部活リポート後編

前回に引き続き今回は映画『宝島』の部活リポートをお届けします。後編では、事前に正式部員の方々にお答えいただいたアンケート結果について議論しました。今回も熱いトークが繰り広げられています!

映画『宝島』部活:座談会/大友啓史監督 ファストムービー時代の真逆を行こうと覚悟を決めた!大友啓史監督と語ろう『宝島』部活リポート前編

『るろうに剣心』シリーズ、『レジェンド&バタフライ』などを手掛けた大友啓史監督が<沖縄がアメリカだった時代>を描いた映画『宝島』。今回、当部の部活史上初めて監督ご本人にご参加いただき、映画好きの皆さんと一緒に本作について語っていただきました。

学び・メンタルヘルス

  1. AXA生命保険お金のセミナー20251106
  2. 映画学ゼミ:アイキャッチ1/本の上の犬と少女
  3. 映画『ふつうの子ども』嶋田鉄太/瑠璃

REVIEW

  1. 海外ドラマ『エイリアン:アース』海外ドラマ『エイリアン:アース』
  2. 映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』レオナルド・ディカプリオ
  3. 映画『プロセキューター』ドニー・イェン
  4. 映画『ラスト・ブレス』ウディ・ハレルソン/シム・リウ/フィン・コール
  5. 映画『テレビの中に入りたい』ジャスティス・スミス/ジャック・ヘヴン

PRESENT

  1. AXA生命保険お金のセミナー20251106
  2. 映画『愚か者の身分』北村匠海/林裕太
  3. 映画『ホーリー・カウ』クレマン・ファヴォー
PAGE TOP