REVIEW

TITANE/チタン【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『TITANE/チタン』アガト・ルセル

「こ、これは一体…!?」という驚きというか混乱というか困惑というか、何とも言えない感覚が最初から最後までノンストップの衝撃作。主人公は、子どもの頃に交通事故で大きな怪我を負い、頭にチタンプレートが埋められているアレクシア(アガト・ルセル)です。チタンプレートを埋められた彼女にはさっそくある変化が見えるのですが、ここから既に奇想天外な展開が始まっているので、最初から丸ごと楽しめるようにここでは伏せておきます。私と同じように何も知らずに観たほうが最大限に楽しめるはずなので、ぜひ前情報を入れずに観てください。ただ一点だけ、妊婦さんは今観ないでください。

この後は私の解釈をネタバレしないように書いていますが、できれば観終わってからお読みください。

本作は豪快で衝撃的なバイオレンスシーンから、ホラー、スリラーに分類されると思います。ただ根底には、父性、母性が1つのテーマとしてあるように思います。アレクシアと実の父との関係性、後に登場するヴァンサン(ヴァンサン・ランドン)との関係性を比較すると、アレクシアが父という存在に飢えていたことが伝わってきます。また劇中で実母の存在感があまりにも感じられないところも、印象的な描写の1つで、彼女は子どもの立場で親の愛を感じる機会が乏しく、父性や母性に触れる機会にも恵まれなかったと考えられます。また彼女の閉ざされた心や凶暴性は、チタンという素材の硬さや車で比喩されているように感じられ、同時に深く傷つけられた心とそこから生まれる凶暴性はもしかしたら受け継がれてしまう恐れがあることがラストでほのめかされているようにも見えます。一方、彼女が新たに見つけた人間関係の中では、彼女と同じ血筋を持った者でも、彼女とは違った運命になり得る可能性があることを示唆しているようにも思えました。なので、解釈のしようによっては、悲観的にも、前向きにも捉えられるラストなのではないでしょうか。
観客は知らぬ間に未曾有の世界に放り込まれ、ラストで一瞬放心状態にさせられるような強烈な作品ですが、パワフルな描写の裏側に繊細なメッセージが感じられ、それをこのような表現で映像化するとは、ジュリア・デュクルノー監督、お見事です!そして本作が長編映画デビュー作とは思えない気迫満点の演技を披露しているアガト・ルセルは、良い意味でキャラクターに負けない怪物級の俳優だと言えます。映画好きの皆さんにはぜひチェックいただきたい1作です。

デート向き映画判定
映画『TITANE/チタン』アガト・ルセル

本作には強烈なバイオレンスシーンがあり、目を覆いたくなるレベルで特に女性には辛いシーンもあるので、デートには不向きです(苦笑)。作品そのものは見応えがあり、映画好き同士なら鑑賞後にいろいろ語れると思います。友達と観るか、1人でじっくり観るほうが良いでしょう。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『TITANE/チタン』ヴァンサン・ランドン

15歳以上の方は観られますが、刺激が強いので、ある程度耐性がついてから観たほうが良さそうです。主人公は大人になっていますが、どこか成長し切れていないところ、新たな出会いによって彼女の中で欠けているものが少しずつ埋まっていく様子、そして彼女が抱える孤独感は、年齢を問わず誰にでも何かしら感じるものがあると思います。観ている最中はジェットコースターに乗っている感覚を味わえて、観終わった後はいろいろな解釈が頭を巡るおもしろさがあるので、興味が湧いたら観てみてください。

映画『TITANE/チタン』アガト・ルセル

『TITANE/チタン』
2022年4月1日より全国公開
R-15+
ギャガ
公式サイト

© KAZAK PRODUCTIONS –FRAKAS PRODUCTIONS –ARTE FRANCE CINEMA –VOO 2020

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』ウーナ・チャップリン アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ【レビュー】

REVIEWシリーズ3作目となる本作でも、まず映像美と迫力に圧倒されます。物理的に目の前で…

映画『新解釈・幕末伝』ムロツヨシ/佐藤二朗 新解釈・幕末伝【レビュー】

幕末を描いた本作は、“新解釈”とタイトルにあるように、ユニークな解釈で描かれて…

映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』来日ジャパンプレミア、ジェームズ・キャメロン監督、山崎貴監督、宮世琉弥 お互いの才能を讃え合うジェームズ・キャメロン監督と山崎貴監督、若者代表、宮世琉弥も感動『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』来日ジャパンプレミア

最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』のワールドツアーの一環として、ジェームズ・キャメロン監督が3年ぶりに来日。山崎貴監督と宮世琉弥も会場に駆けつけました。

映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』八木莉可子 八木莉可子【ギャラリー/出演作一覧】

2001年7月7日生まれ。滋賀県出身。

映画『グッドワン』リリー・コリアス 『グッドワン』トーク付きプレミア試写会 10組20名様ご招待

映画『グッドワン』トーク付きプレミア試写会 10組20名様ご招待

映画『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』コリン・ファレル/マーゴット・ロビー ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行【レビュー】

「人生をやり直せるドア」が登場する点と、コリン・ファレルとマーゴット・ロビーが向かい合うキービジュアルから、恋愛をやり直すストーリーかと思いきや…

映画『サリー』エスター・リウ 『サリー』特別試写会イベント 5組10名様ご招待

映画『サリー』特別試写会イベント 5組10名様ご招待

映画『THE END(ジ・エンド)』ティルダ・スウィントン/ジョージ・マッケイ/モーゼス・イングラム/ブロナー・ギャラガー/ティム・マッキナリー/レニー・ジェームズ/マイケル・シャノン THE END(ジ・エンド)【レビュー】

REVIEWいつも通り観賞前にほぼ何も情報を入れず、登場人物はいつの時代にどこに住んでいる…

映画『シェルビー・オークス』 シェルビー・オークス【レビュー】

かつて繁栄しながらも今は廃墟と化しているシェルビー・オークスという町で…

映画『ナイトフラワー』渋谷龍太 渋谷龍太【ギャラリー/出演作一覧】

1987年5月27日生まれ。東京都出身。

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画学ゼミ2025年12月募集用 人間特有の感情や認知の探求【映画学ゼミ第3回】参加者募集!

今回は、N「湧き起こる感情はあなたの性格とどう関連しているのか」、S「わかりやすい映画、わかりにくい映画に対する快・不快」をテーマに実施します。

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ウェス・アンダーソン監督 映画好きが選んだウェス・アンダーソン監督人気作品ランキング

今回は、ウェス・アンダーソン監督作品を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。人気作品が多くあるなか、上位にランクインしたのは?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画学ゼミ2025年12月募集用
  2. 映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ
  3. 映画学ゼミ2025年11月募集用

REVIEW

  1. 映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』ウーナ・チャップリン
  2. 映画『新解釈・幕末伝』ムロツヨシ/佐藤二朗
  3. 映画『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』コリン・ファレル/マーゴット・ロビー
  4. 映画『THE END(ジ・エンド)』ティルダ・スウィントン/ジョージ・マッケイ/モーゼス・イングラム/ブロナー・ギャラガー/ティム・マッキナリー/レニー・ジェームズ/マイケル・シャノン
  5. 映画『シェルビー・オークス』

PRESENT

  1. 映画『グッドワン』リリー・コリアス
  2. 映画『サリー』エスター・リウ
  3. 映画『ツーリストファミリー』シャシクマール/シムラン/ミドゥン・ジェイ・シャンカル/カマレーシュ・ジャガン/ヨーギ・バーブ
PAGE TOP