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月【レビュー】

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映画『月』宮沢りえ

原作は、実際に起きた障がい者殺傷事件をモチーフにして2017年に発表された辺見庸の同名小説です。主人公の堂島洋子(宮沢りえ)は名の知れた作家でありながらも、今は新作が書けずにいます。そんな彼女は深い森の奥にある重度障がい者施設で働き始めます。そこで洋子は介護施設で働く人達の心の闇を目の当たりにします。
介護職がいかに過酷かは、これまでも報道や映画等で語られることはありました。そして昨今、介護の現場では人手不足ともいわれています。そんな状況もあってか、介護の現場で起きている倫理的な問題には蓋をされてきた現実も否めません。本作はそのタブーに踏み込んでいます。
本作は、介護職員の心が病んでいく過程を描いていると同時に、介護を受ける障がい者の人権をテーマにしています。そのなかで大きな鍵を握っているのは、洋子というキャラクターです。彼女がある種“両面”から現実を見つめる立場にあり、私達観客は彼女の視点で両極の感情に揺さぶられながら思考することができます。また、ある人物の身勝手な“判断基準”として、「意思の疎通ができるかどうか」が挙げられます。この残酷な判断基準が用いられる展開において、人間とは何かを問う物語となっています。
あまりに壮絶な内容で、正直なところ、介護の経験もない私があれこれいうのは畏れ多いです。人を傷つけること、尊厳を奪うことは絶対にあってはいけません。ただ、介護をする側の方の心のケアも必須だと感じます。本作は社会が蓋をしてきた現実に目を向けさせる上でとても力を持つ作品だと思います。

デート向き映画判定
映画『月』宮沢りえ/オダギリジョー

本作は堂島洋子と夫の昌平(オダギリジョー)の夫婦関係も大事な要素となっています。この夫婦はある大きな悲しみを抱えていて、2人がその悲しみを乗り越えられるかどうかが介護問題をどう捉えるかという姿勢に関わっています。夫婦や、生涯添い遂げたいと思っているカップルがパートナーと一緒に観ると、深いところでお互いの人生観を考えるきっかけになるでしょう。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『月』宮沢りえ/二階堂ふみ

若い皆さんにもぜひ知ってほしい実態が描かれているので観て欲しいとは思いつつ、とても重いテーマが掲げられており、ショッキングな内容です。大人と一緒なら観ることができるPG-12とはいえ、せめて中学生くらいになってから観るほうが良いのではないでしょうか。綺麗事では片付けられない問題が描かれていて、簡単に答えは見つからないかもしれませんが、まずはさまざまな立場のキャラクターの視点に立ってみるだけでも有意義だと思います。

映画『月』宮沢りえ

『月』
2023年10月13日より全国公開
PG-12
スターサンズ
公式サイト

ムビチケ購入はこちら

© 2023『月』製作委員会

TEXT by Myson


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『ロストケア』

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書籍「月」辺見庸著/角川文庫

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