取材&インタビュー

世界を股にかけ数々の名作を生み出す映画人、吉崎道代さん著書「嵐を呼ぶ女」出版記念インタビュー

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「嵐を呼ぶ女」著者:吉崎道代さんインタビュー

高校卒業後に単身イタリアに渡り、今やさまざまな国の映画を製作している吉崎道代さんに電話インタビューをさせていただきました。吉崎さんの著書「嵐を呼ぶ女」は、映画史に名を残す多くの大物俳優や監督達とのエピソードはもちろん、吉崎さんご自身の波瀾万丈な体験談が詰まった1冊となっています。吉崎さんはこの本について、「女性達にエールを贈る本でもあるんです。特に映画の世界を志す女性や、企業を経営している女性などに読んでもらいたいです」とおっしゃっていました。本を読んでいただければ、なぜそうおっしゃるのか実感できると思います。

書籍『嵐を呼ぶ女』吉崎道代著/キネマ旬報社

<PROFILE>
吉崎道代:映画プロデューサー、ディストリビューター、脚本家
大分県出身。高校卒業後にイタリアの映画学校に入学。1975年に日本ヘラルド映画社に入社し、ディストリビューターとして欧州映画の日本配給権の買い付けを担当。世界的に称賛を浴び、今や不朽の名作として知られる『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988年、ジュゼッペ・トルナトーレ監督)の日本配給権を取得し、日本でベストディストリビューター賞を受賞した。その後、自身の映画製作会社を設立し、共同製作をした作品が15のオスカーノミネーションを受け、4の受賞を果たした。1992年には映画製作会社NDFジャパンを設立。1992年には、ジェームズ・アイヴォリー監督作『ハワーズ・エンド』でアカデミー賞9部門にノミネート、3部門で受賞、ニール・ジョーダン監督作『クライング・ゲーム』でアカデミー賞6部門ノミネート、1部門で受賞を果たした。さらに1995年に英国で、NDFインターナショナルを設立。『バスキア』『カーマ・スートラ/愛の教科書』『オスカー・ワイルド』『チャイニーズ・ボックス』『タイタス』など世界的ヒット作を生み出した。また、1994年から2000年の間、数回にわたり、エンターテインメント/映画界における“世界重要人物トップ100”に選ばれている。この他、ここに書き切れないほど多くの作品を世に放ち、現在も幅広い人脈を活かし、世界を股にかけて映画作りを続けている。

海外の映画界で道を切り拓いてきた吉崎さんから見た日本、そして日本人とは

マイソン:
海外で映画の世界に飛び込んだ当時、外国人として、女性として、不利な状況で道を切り拓いてこられたと思います。最初にイタリアに渡られてから現在を比べて、日本人女性が海外で活躍できる状況は少なからず好転しているのでしょうか?

吉崎道代さん:
前よりもどんどん活躍の場はありますが、外国人だからどうというよりも言葉だけの問題です。言葉でハンディを負って、仕事が限定されるということです。

マイソン:
女性だから高い地位につけないということも、今では少なくなってきているんでしょうか?

「嵐を呼ぶ女」著者:吉崎道代さんインタビュー関連写真:ソフィア・ローレンのインタビュー
ソフィア・ローレンにインタビュー

吉崎道代さん:
映画界に関していうと、ヨーロッパでは女性だからというハンディは全然ないです。ハンディはないですけれども、例えばネットワークを作る上で夜遅くまで飲みながら友好関係を作っていくのが当たり前のような文化では、男と女という関係が無視できない場合もあるし、厳密には異性、同性に限らずですが、そういう状況でうまく対処できないとネットワークの場が少なくなることは事実です。

マイソン:
そういういろいろな状況も含めて、いかにコミュニケーションを上手く取れるかというのが鍵なんですね。

吉崎道代さん:
そうです。

マイソン:
いち映画ファンとして、最近LGBTQをテーマにした作品や、洋画でアジア人が出演している作品が多くなったと感じています。それは良いことだと思うと同時に、純粋にストーリーに必要だから役があるのではなく、社会的に求められているから無理やり役を作って出演させているようにも見えてしまうことがあります。

吉崎道代さん:
本当のところ純粋にっていうのは全然ないんですよ。それはすべてマーケットに寄るんです。無理やり役を作るんじゃなくて、マーケットが要求しているから、それを感じ取っているんですね。『クレイジー・リッチ!』のような映画ができる土壌は、マーケットがそれだけ広がっているということです。アメリカにもアジア人はいっぱいいますし、特に韓国人も出てきますし、そういう意味では昔はなかった映画を作るテーマが広がってきたということです。アフリカンアメリカン、LGBTQの場合も、プロデューサーが、市場が求めるものを先取りしているんです。無理やりやったら絶対映画は当たりません。市場が求めているものをキャッチする能力が、プロデューサーには大切なんです。

マイソン:
プロデューサーというお仕事はすごくおもしろそうな半面、大変だとも思います。例えば、監督にどこまで口を出して良いのか、どのような関係を築くのが良いのか、それは監督さんにも寄るのでしょうか?

「嵐を呼ぶ女」著者:吉崎道代さんインタビュー関連写真:ジェレミー・アイアンズ、ウェイン・ワン監督と『チャイニーズ・ボックス』釜山国際映画祭にて
『チャイニーズ・ボックス』ジェレミー・アイアンズ、ウェイン・ワン監督と釜山国際映画祭にて

吉崎道代さん:
それはもちろん違います。シナリオがあって、それを監督が認めて映画にするのか、監督が持ってきた企画を私(プロデューサー)が認めて映画にするのか、2パターンあります。映画作りは、子どもを出産するのと似てるんですね。喩えると、セックスをして、お腹に命が宿って、妊娠9ヶ月で、デリバリー(出産)があるわけです。だから、プロデューサーは女性に向いていると思うんです。映画を作る際には、少しずつ、少しずつ2人がわかり合う接点を見つけていきます。特に難しい監督の場合は、こちらが話をしながら、監督や撮影監督、スタッフ、キャストと家族作りをしていく。そうやって家族にならないと良い映画はできません。
お互いに理解しあうために悪いところがあったら徹底的に話し合うんです。そこが日本人とは違います。ともかく話をしないとダメです。コミュニケーションが密にならないと。日本人はコミュニケーションが下手です。だから、学校でコミュニケーションのクラスを作らないといけない。海外はそういうコースが必ずあって、小さい頃からコミュニケーションをやらされます。

マイソン:
どの場面でもコミュニケーションが核なんですね。

「嵐を呼ぶ女」著者:吉崎道代さんインタビュー関連写真:フェデリコ・フェリーニ監督と
フェデリコ・フェリーニ監督と

吉崎道代さん:
そう、日本人はまだまだそれができていません。江戸時代は腹と腹、今はそれが曖昧になっちゃって、腹と腹でわかり合うのではなくて、何かあったらすぐに殺しちゃうとか、武士の文化の悪いところばっかりが出てきているんじゃないでしょうか。でも、私は日本に帰る度にいつも思うんですけど、日本の女性は本当に輝いてきましたよ。男がダメ。押したら倒れるような、箔がないし。地方から出たきた女性は何かをやろうとして出てきているので、優雅な上に機動力がある。日本の女性はスゴいですよ。私は、若い人も含めて日本の女性はスゴいと思います。海外では若い子は甘ったれている人が多くて、日本にももちろんいるでしょうけれど、度合いでいうと、日本の女性のほうがずっと立派です。立ち振る舞いも優雅だしね。外国人が皆言いますけど、例えば重いモノを持つ時に、海外の女性は男の人を呼びます。ところが日本では、例えばホテルでも女性は「いいですよ」と言って、すぐに自分が持ちますよね。日本の女性はそういう独立精神がスゴいと思います。だから、私は日本の女性が大好きです。男はダメ(笑)。

マイソン:
ハハハハ。海外に長くいらっしゃる吉崎さんの目線で、日本の女性が輝いているとおっしゃっていただけるなら本当にそうなんだと思えて、とても嬉しいです。では、次に吉崎さんが手掛けられた作品についてお聞きしたいのですが、『クライング・ゲーム』は、今初めて公開されるのと、1992年当時公開されるのとでは観る側のスタンスもすごく変わったんじゃないかと思いました。

「嵐を呼ぶ女」著者:吉崎道代さんインタビュー関連写真:『クライング・ゲーム』
『クライング・ゲーム』

吉崎道代さん:
もちろん変わりました。当時まだまだLGBTQが浸透していなかったので、あの映画はフリーク、クラウン(ピエロ)扱いというか、衝撃的だったんです。ただ、『クライング・ゲーム』のテーマはそういうものではないんです。イギリス国軍とアイルランドのせめぎ合いなんです。イギリスとアイルランドは歪んだ関係で、それを1人のキャラクターに託して、その関係が歪んだものだったということを描いた政治的な比喩なんです。それを明確にしておかないと、ただのゲテモノ好きの映画になってしまうんです。

マイソン:
確かにそうですね。私の肌感でしかないのですが、今の日本では、観る側に解釈力がないと作品のいわんとしている真髄が伝わらないような映画は、映画会社も敬遠しているように思います。

吉崎道代さん:
その通りだと思います。これは戸田奈津子さんからも書いて欲しいと言われて本にも書いているんですが、「日本の今の映画人には、映画馬鹿とか映画好きが一人もいない。道代さん、でくの坊達に叱るように、ぜひ書いてくださいよ」と(笑)。第12章の「ムービーの未来像」で書きましたが、日本全体がぬるま湯に浸かっているんです。日本の場合、特にひどいのは男性ね。考えることをしないんです。先日帰国した次の日に200人くらいを前に行った講演で質疑応答があったんです。その時も、How Toモノに慣れてしまっている質問をされたので、「教えてくださいじゃなくて、自分で考えてください」って返しちゃったんですけどね。
とはいっても、絶対に考えなければわからないという映画はダメなんですよ。観る人の教養にも寄りますけれど。観終わって、これは良かったなっていうのがなければ本当の良い映画ではないです。ただし、すべてHow Toモノにして、教養を身につけないからスマホばっかり触ってるじゃないですか。だから映画人になりたいのであれば、日本や海外の社会状況を見極められるように、知識や教養を身につけないとダメですね。それでこそ、これは良い映画だ、悪い映画だという判断がつくんです。映画界を志す人はどうしても政治も何でも知らないといけない。

「嵐を呼ぶ女」著者:吉崎道代さんインタビュー関連写真:『ハワーズ・エンド』
『ハワーズ・エンド』

マイソン:
映画からも学びつつ、日常からも学んで、また映画を観て、得たものを醸成させるということなんですかね。

吉崎道代さん:
そうですね。

マイソン:
私ももっと勉強せねばと思います。少し話題が変わりますが、私は以前、日本の俳優さんなどから日本の映画は海外向けに作られていないという少し不満も入り混じったようなご意見を聞くことがあったんです。

吉崎道代さん:
そんな不満を言うほうがおかしいです。海外向けに映画を作るなんて全く邪道です。例えば『パラサイト 半地下の家族』は全くの政治映画です。北朝鮮と韓国の関係が根底にあって、それがきっちり描かれているからこそ世界的にウケたんです。それと、日本にはないといわれていますが、厳然としてある階級制度。そういうものを踏まえながら映画を作らないと、ただ海外向けに撮ってもダメです。そんなことを言ってるから日本映画はダメになるんです。

マイソン:
自分達のことをまずよく見ようということですね。

「嵐を呼ぶ女」著者:吉崎道代さんインタビュー関連写真:カズオ・イシグロと
カズオ・イシグロ(ノーベル文学賞受賞作家)と

吉崎道代さん:
そうです。日本は鎖国みたいになっているんです。国からいわれた鎖国ではなくて、自ら鎖国状態になっているんです。コロナのアイソレーションを自分達でやってしまってるんですね。海外に行きたい人も少ない。行ってもパリのエッフェル・タワーでちょっと美味しいものを食べて帰ってくる。それに、少なくとも外国人を受け容れる体制がないとダメです。外国人を受け容れたらデメリットも出てくると思いますよ。でも、そういう問題よりも、ともかく鎖国しては日本がダメになります。この背景には日本の官僚主義があります。一人ひとりはすごく良いんだけど、官僚主義がものすごくある。今でも日本に来るのにPCR検査をしなければいけない。そんなことをしているのはもう日本と中国しかないですよ。ともかく何でも規制すれば良いという防衛策しか考えてないですよね。そういう点では、“規制された監獄”“お風呂のある心地よい監獄”にいるのが日本人だと私はよく言うんですけど。

マイソン:
確かに、そういわれてみればそうですね。では最後に、これまでいろいろなことを経験されて、数々の偉業を達成されていますが、まだまだ野望はありますか?

「嵐を呼ぶ女」著者:吉崎道代さんインタビュー
©谷岡康則

吉崎道代さん:
野望も何も、お棺の中に入る前に今手掛けている4作を作るということです(第9章参照)。今一番熱意を向けているのが『リエンチャントメント 愛と魅惑』です。これはブラジルとの共作で、喩えるなら、ジュリア・ロバーツ主演の『エリン・ブロコビッチ』の石油版です。主人公は実在の女性カーレーサーで、英国の石油会社のPR重役となった後、さまざまな困難を経てエクアドルに渡り、最終的に石油会社と戦った実話です。またオスカーが獲れるとしたらこの作品だと思っています。

マイソン:
楽しみにしています!本日はありがとうございました!

2022年7月13日取材 TEXT by Myson

「嵐を呼ぶ女」
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価格:2500円(税別)
著者:吉崎道代
キネマ旬報社
公式Twitter

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序章 クリント・イーストウッド 私のアパートにやって来た変な男
1章 オスカー受賞式の舞台裏で展開する、女優たちの熾烈な闘い
2章 オスカー負の遺産
3章 フラッシュバック
4章 ディストリビューターとして買い付けた映画と、思い出深い映画
5章 ヘラルド・ポニー会社設立
6章 NDFジャパン製作会社設立(1992年)
7章 映画製作会社NDFインターナショナル設立(1995年)
8章 プロデューサーとは、そしてその役目
9章 企画中の映画作品
10章 幻の傑作映画製作記
11章 コロナパンデミック時代の映画製作(英国のケース)
12章 ムービー(映画)の未来像

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『ハワーズ・エンド』(1992年、ジェームズ・アイヴォリー監督)
アカデミー賞9部門にノミネート、3部門で受賞

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『カーマ・スートラ/愛の教科書』(1995年、ミーラー・ナーイル監督)

『バスキア』(1996年、ジュリアン・シュナーベル監督)

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『オスカー・ワイルド』(1997年、ブライアン・ギルバート監督)

『チャイニーズ・ボックス』(1997年、ウェイン・ワン監督)

『タイタス』(2000年、ジュリー・テイモア監督)

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