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『彼女来来』山西竜矢監督インタビュー

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映画『彼女来来』山西竜矢監督インタビュー

今回は、俳優、脚本家、演出家、映画監督として幅広く活躍中の山西竜矢監督にリモートインタビューをさせて頂きました。舞台を中心に活動をされてきた山西さんは、今回長編映画で初監督を務められましたが、映画と演劇との違いや、今作『彼女来来』の謎めいた要素の裏にどんな意図があったのかなどお聞きしました。

<PROFILE>
山西竜矢(やまにし たつや):監督 、脚本
1989年香川県生まれ。劇団子供鉅人への客演参加をしたことをきっかけに、2014年より劇団員となる。その後、俳優として舞台や映像で多数の作品に出演する傍ら、脚本、演出について独学し、2016年には、代表を務める演劇ユニット“ピンク・リバティ”を旗揚げした。2017年、脚本、監督を務めた短編映画『さよならみどり』が、第6回クォータースターコンテストでグランプリを受賞。2020年には、自身が執筆したエッセイが日本文藝家協会“ベスト・エッセイ2020”に選出されるなど、幅広く活動中。“MOOSIC LAB JOINT 2020→2021”出品作『彼女来来』は、初の長編作品で、監督、脚本を兼任。

恋愛の気味の悪いところを映画に映したかった

映画『彼女来来』前原滉/奈緒

マイソン:
監督は、俳優、劇作家、演出家、脚本家、映画監督といろいろされていますが、最初は俳優からスタートされたのでしょうか?

山西竜矢監督:
そうですね。でも厳密に言うと、俳優をする前に大学に通いながらお笑い芸人をしていました。最初はピン芸人でお芝居みたいなコントをやっていて、そこから俳優に転向したという形です。

マイソン:
そうだったんですね。俳優のお仕事に興味を持ったきっかけはありますか?

山西竜矢監督:
自分がやっていたコントが芝居がかっているものが多かったんです。それで、周りにいるお笑いをやっている方、お芝居をやっている方から「やってみたら?」と声をかけられて、確かに板の上に立てるならそれも良いかもと思ってやり始めたんです。そこからだんだんと俳優に完全に移行する形になっていきました。

映画『彼女来来』前原滉

マイソン:
じゃあ物語を作るというのも芸人さんの時からされてたんですね。

山西竜矢監督:
そうです。ネタ作りが最初のもの作りだったと思います。

マイソン:
今回は映画ということで、舞台とはだいぶ構成が違ったと思うのですが、映画、舞台それぞれの魅力はどういうところでしょうか?

山西竜矢監督:
いろいろな違いや魅力はあるんですが、一番大きな違いとして、舞台には生の魅力があります。観客の目の前に役者の身体が実際にあるということ、その人間の身体から出ている生の情報に触れられることが、演劇の素晴らしいところであり、おもしろみだと思います。配信とか収録したものと実際に劇場で観る圧倒的な差はそこじゃないでしょうか。逆に映像は、1つフィルタを挟んでいる状態なので、演劇よりも考えながら観ることに向いている気がします。考察をしながら観るという点において強いから、映像のほうが批評文化も醸成されている気がしますし。これは観客目線で見た時の違いかもしれませんが、そこは大きな差じゃないでしょうか。

マイソン:
あと映像での芝居と演劇での芝居も違ってくると思うのですが、今回はいかがでしたか?

映画『彼女来来』奈緒

山西竜矢監督:
そこへの意識が一番出たのはキャスティングじゃないかなと思います。今回で言うと、前原滉くんや奈緒ちゃんは映像を多くやっている役者さんなので、メインキャストはやや映像寄りの方が多かった。なので逆に、作品内で紀夫(前原滉)の見る景色として登場する他のキャラクターには、短時間でもインパクトや味を残せる、ある種の異物感を持った役者さんを配置したくて、そういった部分を得意としている演劇寄りの方を多くお呼びしました。でも、そうは言いつつ、舞台と映像というジャンルで分かれるというよりは、作品ごとに芝居って違うと思っていて。テレビドラマと映画で求められている芝居も違いますし、ドラマでも映画っぽい芝居を良しとする現場もあります。さらに言えば、シーンや役割によっても求められるものは違ってくる。同じように、映像を主戦場にしている役者さんでも舞台寄りの演技の方もいるし、逆の方もいらっしゃいます。なので、ジャンルで演技を二分して考えるというよりは、各役者さんの特性とシーンの雰囲気の相性を考えて、キャスティングや演出はしていました。

マイソン:
この映画を観ていて、多くを語らず、観る側の想像を膨らませる作品だなと思いました。最後まで何だったのか言わない部分があったり、「こういう意味かな、ああいう意味かな」と想像できるのがおもしろかったです。

山西竜矢監督:
雑な言い方になってしまうんですが、今回は恋愛の気味の悪いところを映画に映したいという意識がありました。僕自身、恋人にわりと「君だけだよ」的な甘い言葉をかける男なんです。今30歳で、これまでそんなことを何人かにやってきているなと。昔は「この人なのかも!」と純粋に思っていたけど、そうやって定期的に誰かに思うんだなという客観性が出てきた時にすごく気持ち悪いなと思って、全然君だけじゃないじゃんって(笑)。

マイソン:
ハハハハハ!

映画『彼女来来』天野はな

山西竜矢監督:
でも僕だけじゃなくて、皆さん結構そういうことってあると思うんです。そう考えた時に、単純に傍にいて「この人、良いかも」って思ったら一緒にいてしまうのが人間の本当なのに、何か美しいところばかりが物語として語られ過ぎているなっていう気持ちがあって。だから今回は、そういう恋愛とか人間のどうしようもない部分を映画にしたくて、前の恋人と新しい恋人との間に、現実であれば流れている時間をガポッと抜きとってみたというか。それが着想でした。必ずしもネガティブなことを描きたいわけではないのですが、露骨にハッピー、アンハッピーなものが最近は多いなという印象があるんです。情報が多い世の中なので、中途半端なものがどんどん排除されている感じがして。だから今回の映画では、人間の褒められたものではない部分を描きつつ、でもこれを否定したら自分はどうなんだろうみたいな微妙なところを描写したいなと思っていました。人って実際こうだよな、という本当のところというか。

マイソン:
なるほど〜。では少しお話は変わりますが、今コロナでいろいろなことに変化が求められていると思うんですが、映画業界、演劇業界で、これを機にここが変わると良いなと思うところはありますか?

山西竜矢監督:
特に映画に関しては初めての長編で、業界的な知識もまだ深くないので、ここが変わったほうがいい、と偉そうに言えるほどよく分かってないんです。でも、コロナに限らず今までも大変なことってあった気がして。どの業界にも見えていなかった不都合や不景気は元々あって、ずっと大変だったものがコロナ禍によってより見えやすくなったように思うんです。しんどかった人がはっきりとしんどいということがわかったみたいな。例えば、数ヶ月閉めたらミニシアターはこんなに苦しいんだ、そういう現状なんだと僕自身もコロナ禍によって知りました。それだけじゃなく、いろんな不満や主張があるけど我慢していた人が、自粛期間やいろんなダメージの影響でそれを表明するようになっているのも見かけます。変な言い方かもしれないんですけど、コロナが実態暴き装置のようになっているような感覚があって。だから、そういう実情にみんなで目を向けて、この機にプラスの揺り返しが起こせたらいいなとは思います。悪いことがちゃんと目に見えるようになった分このタイミングで、どうやったらそれを解消できるんだろうという意識は、映画・演劇業界に対してだけでなく、持っていけたら良いなって。

映画『彼女来来』前原滉

マイソン:
では、最後の質問で、これは皆さんに聞いているのですが、これまででいち観客として、大きな影響を受けた映画や、俳優、監督がいらっしゃったら教えてください。

山西竜矢監督:
この質問、すごく難しいんです(笑)。本当にたくさんありますけど、比較的最近の話でいうと、濱口竜介監督の『ハッピーアワー』です。全然自分の作品とは雰囲気の違う作品なんですけど、とにかく役者さんがとっても素敵なんです。自分自身が役者をやっているのもあって、役者さんが美しく見える、尊く見えるってどういうことなのかなということをものすごく考えさせられた作品でした。僕は映画を撮ったのは今回が初めてで、自分が1番長く触れてきたのは、たぶんパフォーマンス、演技の部分だと思うんです。演劇でも演技の演出はとても大切にしてきた意識があったので。『ハッピーアワー』には、それを根本からひっくり返されるような、すごいインパクトがありました。出演者のほとんどが、職業俳優ではないワークショップに参加していた方達で、その方達がとんでもないお芝居をされている。それで、自分がそれまでしてきていた演出に対して、疑いを持ちはじめて。

マイソン:
俳優さんの技量だけじゃなくて、演出する側の兼ね合いというか。

山西竜矢監督:
演出側、というよりもチーム全体の在り方みたいなものをすごく考えるようになりました。リラックスできる現場なのか、ピリピリした圧力のある現場なのか、いろいろな現場があると思うんですけど、どういう環境だったらベストパフォーマンスが出せるのかは、人によって全然違うと思うんです。褒めれば伸びる役者さんもいるし、けなされないと発揮できない方もきっといる。そうなった時に自分たちの座組の雰囲気はどうなのか、自分のあり方はどうなのか、それに適した役者さんはどんな方で、どういう風に彼らと現場を積み上げていくのが最良なのか。一番大切にしたいのは「役者だから、芝居を頑張れよ」じゃなくて、キャストに対峙する監督もスタッフも、全員で良いお芝居を作っていくような、そういう意識です。役割が違うので、完全に同じ目線にはもちろんなれないですけど、役者さんに対して自分なりの一番誠実な向き合い方をしたいと思います。なので、好きな作品はいろいろあるんですが、演技を皆で作り上げていく意識は、『ハッピーアワー』を観てからより持つようになりました。

映画『彼女来来』山西竜矢監督インタビュー

マイソン:
じゃあ今後の映画作りにもヒントになったというか。

山西竜矢監督:
その点で影響は強く受けていると思います。

マイソン:
本日はありがとうございました!

2021年5月27日取材 TEXT by Myson

映画『彼女来来』前原滉/天野はな/奈緒

『彼女来来』
2021年6月18日より全国公開
監督・脚本:山西竜矢
出演:前原滉/天野はな/奈緒/村田寛奈/上川周作/中山求一郎/葉丸あすか/大石将弘/千葉雅子
配給:SPOTTED PRODUCTIONS

キャスティング会社で働く佐田紀夫は仕事も順風満帆で、交際3年目になる恋人の田辺茉莉とも仲良く暮らしていた。だがある夏の日、紀夫が家に帰ると茉莉の姿はなく、代わりに見知らぬ女がいて…。

公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

©「彼女来来」製作委員会

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  2. 【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX
  3. 【ARUARU海ドラDiner】サポーター集会:パンチボール(パーティサイズ)
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REVIEW

  1. 映画『室町無頼』大泉洋
  2. 海外ドラマ『コンコルディア/Concordia』ルース・ブラッドリー
  3. 映画『君の忘れ方』坂東龍汰/西野七瀬
  4. ドラマ『外道の歌』窪塚洋介/亀梨和也
  5. 映画『満ち足りた家族』ソル・ギョング/チャン・ドンゴン/キム・ヒエ/クローディア・キム

PRESENT

  1. 映画『ドライブ・イン・マンハッタン』ダコタ・ジョンソン/ショーン・ペン
  2. 韓国ドラマ『ヒョシムの独立奮闘記~恋と人生は私のモノ!?~』QUOカード、ユイ/ハジュン
  3. 映画『ブルータリスト』エイドリアン・ブロディ/フェリシティ・ジョーンズ
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