夢を追いつつもうまくいかない日々にもがきながら生きる若者の姿を描いた『佐々木、イン、マイマイン』で主人公を演じた、藤原季節さんにインタビューをさせていただきました。藤原さんのお話やお考えそのものにとても哲学的で文学的な要素が多く感じられて、今後どんな作品に携わっていかれるのか、ますます楽しみになりました。
<PROFILE>
藤原季節(ふじわら きせつ):石井悠二(いしい ゆうじ)役
1993年1月18日生まれ。北海道出身。2014年、映画『人狼ゲーム ビーストサイド』で本格的に俳優デビュー。主な映画出演作に『イニシエーション・ラブ』『ライチ☆光クラブ』『ケンとカズ』『全員死刑』『止められるか、俺たちを』『his』など。現在、ドラマ「監察医 朝顔」(CX系列)に出演中。2021年には主演映画『のさりの島』が公開予定。
ピュアなものに立ち返って映画作りをやっていきたい
マイソン:
今藤原さんご自身はいろいろな映画に出演されていて、本作ではまだ鳴かず飛ばずの状況にいる俳優を演じていますが、演じる上で難しかったところとか、すごく共感した部分はありますか?
藤原季節さん:
実は、共感できないことにまず悩みました。撮影当時、俳優としての悔しさみたいなものを僕は感じづらい状況にあったんです。悔しさを感じるということはプライドがあるということじゃないですか。僕はそういうプライドを当時どこかに投げていた状態で、いろいろなことが曖昧になっていた時期といいますか…。悠二が俳優として感じる悔しさみたいなものをリアルに感じ取ることが難しかったんです。思い返せば僕自身、悔しさがあったかなかったかというと、あったに決まっているんですけど、悠二は何に悔しいんだろうとか、僕は何に悔しいんだろうっていうことをこの作品の撮影が終わってからも1年くらい考え続けて今に至ります。今は少しずつ悠二の気持ちがわかるなって。
マイソン:
1年間ずっと考えて見えてきたんですね。
藤原季節さん:
今は俳優としてくだらないプライドは捨てたほうが良いと思っていますけど、捨てきれないプライドは持っていたほうが良いなと思っています。だから撮影当時共感していたというよりは、悠二のことを理解しようと必死に努めて、1年経って「悔しかったよな、悠二」っていう気持ちでいます。悠二が俳優をやっていくこと、ステージに上がったということに、個人的にすごく勇気をもらっていますし、日々近づいているという感じです。
マイソン:
逆に今観ると感覚が違いますか?
藤原季節さん:
違っていなかったので、嬉しかったです。撮り終わった時に、ものすごくカオスな感情だけが自分の中に残ったんです。それは果てしないカオスで、それから人間というものについて考え続けているんですけど、人間って考えても考えても答えの出ない存在で、人間の命とか、生きること、死ぬことと、そういうものって簡単に自分では理解できないことだなって、この1年くらいずっと思っているんです。だから、この作品が映画化されるのも実は怖かったんです。撮影が終わって、あのカオスな気持ちが2時間に美しくまとめられていたら、僕はどうしたら良いんだろうって。観るのが怖かったんですね。でも実際観た時に、良い意味で何もまとまっていなかったんです。カオスはカオスのまま、わからないことはわからない、でもわからないことを簡単に受け入れてはたまるものかと。いろいろなカオスがそのまま2時間になったことは、内山拓也監督が諦めずにいてくれた優しさだなって思いました。エンドロールではホッとして涙が出ましたね。
マイソン:
すごくリアルな気持ちだったってことですよね。
藤原季節さん:
はい。個人的に村上虹郎に対しての感謝もあります。ラストに撮ったのが虹郎と一緒に演劇をやるシーンだったんですけど、虹郎とは付き合いが長いのもあって、もう芝居とか『佐々木、イン、マイマイン』という作品を越えて、普通に虹郎と対峙していましたね。
マイソン:
藤原さんが俳優になろうと思ったきっかけは何だったんですか?
藤原季節さん:
元々強烈な憧れがありました。キアヌ・リーブスに憧れて、その後にアーノルド・シュワルツェネッガー、ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ジャッキー・チェンとか、アクションスターに憧れていました。日本人だと大河ドラマを好きになって、『新撰組』とかもそうですが、市川海老蔵さんの『武蔵 MUSASHI』とか、そういう時代劇に憧れて剣道を始めました。毎日、木刀とか竹刀を携えて通学して、電柱を相手に戦うような、妄想の中にいました。
マイソン:
だいぶ早い段階ですか?
藤原季節さん:
小学校低学年です。当時猛烈に映画とかドラマに憧れて、熱狂的でしたね。
マイソン:
映画を好きになったきっかけとなった作品は何だったんですか?
藤原季節さん:
『マトリックス』ですね。確か小学2年生くらいの時に初めて観て熱狂しちゃって、そこからキアヌ・リーブスの作品を全部観ました。『マトリックス』だけは1日に3回くらい観る生活を1年以上続けていました。だからアクションとかも覚えてしまいましたね。1年以上レンタルビデオ屋さんで借りていたんですよ。返しては借りて、返しては借りてっていう生活をしていたら、さすがに親が見かねて買ってくれたんです。でも買ってくれた途端に観なくなったんです。不思議ですよね(笑)。
マイソン:
ハハハハハ(笑)!手元に来てホッとしたんですかね。
藤原季節さん:
そうかも知れないですね。返すのが嫌で、1回返したら「これまた借ります」っていう生活を送っていました。学校から走って帰ってきたら再生して、友達にも見せてという感じでしたね。
マイソン:
アクションがカッコ良いのはもちろんなんですけど、ストーリーとか俳優さんとか、1番どこに惹かれたんですか?
藤原季節さん:
今になって観返すと、こんなストーリーだったんだ、何も理解していなかったなっていう(笑)。理解していないものがおもしろかったんでしょうね。でも、理解できないものっておもしろいんですよ。最近は何でもわかりやすくし過ぎているのかなって思います。『TENET テネット』が流行って、感想で「何もわからなかったけど、めっちゃおもしろかったからまた観たい」って。「え!?そんな感想あるの?」って。でもそういうのが良いなと思いました。
マイソン:
小さい時から俳優を目指していて、途中でブレませんでしたか?
藤原季節さん:
ブレたのは上京してからですね。
マイソン:
逆にがむしゃらだったんじゃないですか?
藤原季節さん:
がむしゃらでもなくて、退屈で退屈でしょうがなかったです。今も結構退屈ですけど、退屈じゃない瞬間は確かにあるなって。
マイソン:
でも、どこかで絶対に叶うって信じていたからそうなったのかなって思ったんですが、どうでしょう?
藤原季節さん:
どうなんですかね。今でも思っていることなんですけど、僕は何でも時間がかかる人間なんだなって。だからそういった意味では全然諦めていないです。僕と同世代で売れている俳優達って、やっぱり話していておもしろいし、カッコ良いんですよね。だから僕はまだまだだなって思いますね。
マイソン:
逆に時間がかかっているのがおもしろいみたいな部分もありますか?
藤原季節さん:
そうですね、同じく時間がかかっている人達が世の中にはたくさんいて、そういう不器用な人同士で集まって「何かやろうぜ。俺達不器用な人間でもできることがあるんだって見せつけようぜ」っていうチャンスが稀に来るっていう。それが『佐々木、イン、マイマイン』でもあります。
マイソン:
なるほど〜。この作品は監督も含め同世代の方が多いですよね。このメンバーで共通の話題というか、1番通じるなって思った部分はありますか?
藤原季節さん:
1つは臆病であることですね。この作品に出演している人達は、人間関係においても社会生活においても、軒並み皆臆病な人達だなっていう感じがします。でも言い方を変えればそれは優し過ぎるということだと思っていて、本当に優しい人達が集まったなと思います。一見すると生きづらくて弱々しいんですけど、確実にすごく大切なものを持っている人達なので、カメラが回った時にそれが出現する瞬間があって、それを捉えることに成功しているんじゃないかなと信じています。だから、弱いというか負け犬みたいに自分を捉えている人でも噛みつくんだぞ、噛みついたら痛いんだぞっていうことをちょっと示したいなという感じです。そういう人達の集まりなんだと思います。
マイソン:
では最後に、藤原さんにとって良い映画ってどんなものですか?
藤原季節さん:
ピュアであるってことが大事ですね。憧れとか、ロマンとかそういうピュアなものに立ち返って映画作りをやっていきたいなと。もし自分の心が汚れそうになったら、その時に自分を否定して解体して再生して、ピュアな魂のままをずっと少年のように映画と向き合い続けていく、そういうものが感じられる映画が好きです。
マイソン:
今日はありがとうございました。
2020年10月6日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『佐々木、イン、マイマイン』
2020年11月27日より全国順次公開
監督:内山拓也
出演:藤原季節/細川岳/萩原みのり/遊屋慎太郎/森優作/小西桜子/河合優実/井口理(King Gnu)/鈴木卓爾/村上虹郎
配給:パルコ
俳優になろうと上京したものの、鳴かず飛ばずの日々が続いていた石井悠二は、ある日、高校の同級生、多田と偶然再会する。それを機に悠二は、高校時代に絶対的な存在だった“佐々木”との日々に思いを馳せるが、そんな矢先、数年ぶりに佐々木の携帯から連絡が入る。だが、相手は佐々木ではなく…。
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