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トムス・エンタテインメント竹崎忠社長スペシャル・インタビューVol.4 

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トムス・エンタテインメント竹崎忠社長スペシャル・インタビューVol.4

4回連載の本インタビューも今回で最終回です。全4回で竹崎社長が、表現が難しい事柄も含めて関係者に配慮しながらアニメ業界の内状を語っていただいたことに心から感謝します。ここまで語っていただいたのは、クリエイティブな仕事をする方々やその業界が本当に窮状に面していて、本気で改革を成し遂げたいと思われているからだと思います。今回は、トムス・エンタテインメントが掲げている「アニメSDGs」が最終的にどういう未来に繋がっていくのかというお話です。

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トムス・エンタテインメント
公式サイト

もっと自分達を取り巻く環境について議論する機会が増えればいい

竹崎社長:
ここまでお話したように、アニメ産業という大きな枠組みの中で、投資や企画、販売、制作など、必要な役割を担う各社が集まって良い作品を作り上げ、それを世界中のできるだけたくさんのお客様に観てもらって、その作品から生まれる収益を最大化して、その収益を関わった各社で役割に応じて適正に分配する。その結果、売り手だけでなく作り手にもきちんと収益配分がなされ、作り手を取り巻く環境も改善され、作り手になる人が増え、それでまた良い作品を作り続けることができる。そんな好循環が生まれればいいなと考えています。

狙って今の立場になったわけではありませんが、たまたまなのか運命なのか、これだけの歴史を持つアニメ会社の経営をさせてもらっているので、子どもの頃から自分を育ててくれた日本のアニメにきちんと恩返しをして、これから先もずっと日本の素晴らしいアニメが作り続けられ、”アニメで世界をもっと元気にカラフルに”できる未来を実現するために、自分にできること全部やろう! って、トムスの仲間と一緒に全力で走り続ける毎日です(笑)。

アニメ『LUPIN ZERO』
『LUPIN ZERO』より

マイソン:
素敵です!では、アニメ業界を支えていくために、まずベテランのクリエイターの方には、どんなことを期待しますか?

竹崎社長:
今のアニメのクオリティ、特に劇場作品は大画面で観るだけに高いクオリティが要求されるのですが、このクオリティを支えているのは多くがベテランのクリエイターなんです。ベテランの皆さんは何十年もかけて腕を磨いてきた超絶レベルの職人さんなので、なるべく元気に末永く頑張って欲しいです。そして、これまで日本アニメを支えてくれた彼らに少しでも報いたいと思います。本当はその凄い技術を若手に伝授してくださいってお願いしたいところですが。

マイソン:
そうですね。見て学ぶしかないところもありそうですが、できるだけ技を継承して欲しいですよね。一方若手の若いクリエイターの方には、どんなことを期待しますか?

竹崎社長:
若いクリエイターのみなさんは若い人だけでやっている分にはいいかもしれませんが、ベテランの方と同じ現場で仕事をしようとすると、そもそものやり方が違ってやりにくいんじゃないかなと思ったりします。昔から続いているアナログな制作手法と、新しいデジタルの制作手法は大きく異なりますしね。実際にアナログとデジタルが混在する現場が最も大変だし効率が悪い。これは新卒のみんなにもよく話すんですけど、昔から続く作品は昔ながらの伝統芸のような作り方が確立していて、その現場に入ったら、一定期間そのやり方に合わせなければならない。だから、最初は伝統芸、職人芸の世界に戸惑うだろうけど、それを一つの完成した型として学びつつ、片方でそうやって作られる最終的なアウトプットを違う方法で作るとすればどんなやり方があるのか常に考えるようにして欲しいって。

最初にアニメを作った人達はゼロからアニメを創り出しました。そこに立ち戻って、これだけ時代もテクノロジーも進んだ現在においてゼロからアニメを作るとしたら、どんな手法で作るのか。若い人達がアニメの黎明期と同じように、今の世界にあるあらゆるものを自由に使ってゼロベースから考えた、新しいアニメの作り方を考えてみて欲しいと思っています。そして、そこから次代のスタンダードが産まれるに違いないと。

マイソン:
今いろいろな技術がどんどん生まれてきているので、過渡期でもあり、ベテランと若手両方のアイデアが必要になりそうですね。

竹崎社長:
4週間にわたってインタビューしていただいて、いろいろなことを話しましたが、これがアニメ産業のすべてではないし、全部が全部正しいとは限らないし、同じアニメ制作会社でも規模によって抱えている課題は違っています。ただ、トムスという会社の経営責任を担っている立場として自分に見えているもの、課題だと思っていること、その課題に対してどんな取り組みをしようと考えているかを今回お話させていただきました。こうやって意見表明をすることで、日本のアニメ産業に関わっている人が「そうだよね」と賛同してくれたり、「それは違う」って意見してくれたり、「自分ならこうする」って建設的なアイデアを出してくれたりすることで、もっと自分達を取り巻く環境について議論する機会が増えればいいなと思います。

トムス・エンタテインメント竹崎忠社長スペシャル・インタビューVol.4

マイソン:
今回お話をお伺いしていて、アニメ業界だけではなく、エンタテインメント業界全体、クリエイティブなお仕事をされている方すべてに関わるお話だなと思いました。当サイトに掲載させていただいたのも関心のある方が多いと思ったし、ユーザーの皆さんも自分事として感じてもらえるのではないかと考えたからです。多くの方にまず「アニメSDGs」について知っていただけると良いなと思います。

竹崎社長:
「アニメSDGs」についてもう少し付け加えると、「SDGs」って流行り言葉にのせているだけのように思われるかもしれませんが、もともと2019年にセガサミーグループ全体で、各社がSDGsに関してどのような取り組みができるかを考える機会がありまして。アニメ産業でできることといえば、アナログからデジタルに制作手法を切り替えることにより紙、鉛筆、ガソリン(アナログの現場では、フリーのアニメーターさんが描いた絵を車で集めて回っています)の消費を減らすこと、リモートワークの導入などで多様な働き方を実現すること、居住地に関係なく地方からでも海外からでもアニメ制作に参画できる環境をつくること、アニメの作り手の不平等ともいえる待遇を改善すること、そしてアニメを作り続けることで社会に潤いを与えること…、なんて会話を社内でしていたんです。

でも、現実のアニメ産業が直面しているのは、とてもそんな悠長なことをいってる余裕がない危機的な状況で、何よりも最初にアニメを作り続けることができる、つまり「アニメ産業を持続可能な産業に改革する」ことが必要で、それができないなら産業としてのアニメは滅び、SDGsに貢献するどころではないという結論に至りました。しかも、そんな大きな改革は数年なんてスパンではできるわけがない。だから10年先を見据えた大きな目標を掲げよう。そこまで考えたときに「SDGs 2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標」に貢献するために、自分達で「2030年までに、持続可能な日本アニメ産業の未来を創る」という目標が見えて、これを「アニメSDGs」としたのです。なんだか、ピタッとはまって、進むべき道が見えたような瞬間でした。

マイソン:
結局は全部繋がっているんですね。先の先まで見通して考えると、最終的には社会全体で取り組む必要がある課題に行き着くんですね。では最後の質問です。竹崎社長は相当な映画ファンでいらっしゃるとお見受けしますが、これまでで大きな影響を受けた作品は何でしょうか?

竹崎社長:
この質問にはいつも同じ答えになってしまうんですが、人生のオールタイムベスト1は『雨に唄えば』です。これは不動の1位です。理由は、観た人を幸せにできる映画だから。初めて観た時に心の底から笑ったし、リバイバルで何度も観ていますが、観る毎に鑑賞後のお客さんが帰り路に笑顔でステップを踏んじゃう姿を見たりして、本当に多幸感溢れる映画だなって思うんです。ストーリーラインとしては、ちょうど映画がサイレントからトーキーに切り替わる時期を描いていて、物語として良くできている上に秀逸なコメディで、さらに豪華なミュージカルでもある。衣装もダンスもとてもポップでゴージャスでカラフルで。この映画を観ているととても幸せな気持ちになって、何度も元気をもらっています。映画を観て感動したり、映画から学ぶことも大切だけど、エンタテインメントが一番提供すべきものは、人を幸せにすることだと思っているんです。人を幸せにする映画はたくさんありますけど、その代表格として僕は『雨に唄えば』をおすすめします。
僕らも、そんな人を幸せにするアニメ作品を作らなくっちゃね!

マイソン:
貴重なお話をありがとうございました!

2022年10月7日取材 PHOTO&TEXT by Myson

トムス・エンタテインメント制作のアニメ

アニメ『LUPIN ZERO』

『LUPIN ZERO』
2022年12月16日(金)より配信開始
原作:モンキー・パンチ
監督:酒向⼤輔
シリーズ構成:⼤河内⼀楼
設定考証:⽩⼟晴⼀
キャラクターデザイン:⽥⼝⿇美
⾳楽:⼤友良英
アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
製作:トムス・エンタテインメント
公式サイト

モンキー・パンチ ©TMS

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  5. 映画『お隣さんはヒトラー?』デヴィッド・ヘイマン/ウド・キアー

PRESENT

  1. 映画『ツイスターズ』オリジナルハンディファン
  2. 映画『サユリ』
  3. 映画『ボストン1947』ハ・ジョンウ/イム・シワン
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