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映画に隠された恋愛哲学とヒント集71:住む世界が違う相手との恋愛

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映画『コンパートメントNo.6』セイディ・ハーラ

ネタバレ注意!

憧れの相手と相思相愛になりつつも、実際に交際してみると、相手と“住む世界”が違うと感じることだってあり得ます。今回は、そんな恋愛に心の折り合いをつけていく主人公の物語『コンパートメントNo.6』を例に考えてみました。ちなみに本作は、カンヌ映画祭グランプリを含め、世界中の映画祭で17冠に輝いている、フィンランド、ロシア、エストニア、ドイツの合作です。

その恋愛、無理してない?

ホームパーティーのシーンから始まる本作。そこに登場する主人公のラウラは手持ち無沙汰な様子で、決してその場に馴染んでいるとはいえません。ラウラが1人で部屋に戻ると、ほどなくして恋人が入ってきます。2人はラブラブな様子ですが、計画していた旅行には、ラウラが1人で行くことに。数日間をかけて移動する寝台列車では、ロシア人労働者のリョーハと同室になります。

映画『コンパートメントNo.6』ユーリー・ボリソフ

リョーハはしょっぱなから酒に酔いラウラに絡んでくるので、ラウラは最初嫌悪感を抱き、汽車が停車する度に恋人に電話をかけます。本作では、ラウラが一人旅をするなかで恋人を恋しく思う姿とともに、リョーハとのやり取りのなかで彼女の心の中で起こる変化を描いています。

ラウラの旅行の目的は古代のペトログリフ(岩面彫刻)を観に行くこと。これは恋人から聞いて興味を持ったことが発端です。でも、その恋人はドタキャン。自分も行かない選択もできたと思いますが、ラウラはそれでも1人で行くことにしたようです。そんな背景から、ラウラは恋人に文句をいうわけでもなく、相手に迷惑をかけまいと努力しているのが伝わってきます。

一方、実はあることをきっかけにリョーハへの印象も変わります。彼の人となりに触れたラウラは、表情も柔らかくなっていきます。今そばにいるリョーハと遠くにいる恋人。どちらといるほうがラウラは自分らしくいられて、自分の正直な気持ちを出せるのか。そんな視点でラウラを観ていると、自ずと彼女の心の内が見えてきます。

映画『コンパートメントNo.6』セイディ・ハーラ/ユーリー・ボリソフ

ラウラと恋人の関係の変化は電話のやり取りに絶妙に表れています。ネタバレになるので、これ以上は控えますが、心のどこかで自分が無理をしながら恋愛をしている方は、ラウラの姿を通して自分を客観視することでヒントを得られるかもしれません。

念のためにお伝えしておくと、他を探せという安易なことではありません。まずは自分と向き合うことで何が大切かを教えてくれるストーリーです。リョーハのキャラクターも魅力的で、最後には心が温かくなり、前向きになれると思います。

映画『コンパートメントNo.6』セイディ・ハーラ

『コンパートメントNo.6』
2023年2月10日より全国順次公開
アット エンタテインメント
公式サイト

© 2021 – AAMU FILM COMPANY, ACHTUNG PANDA!, AMRION PRODUCTION, CTB FILM PRODUCTION
© 2021 – Sami_Kuokkanen, AAMU FILM COMPANY

TEXT by Myson

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2000年1月1日生まれ。中国、上海出身。

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