心理学

心理学から観る映画40:『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』と『ブラックアダム』で求められるリーダーシップの違い

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『ブラックアダム』ドウェイン・ジョンソン

2022年冬の超大作として注目される『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』と『ブラックアダム』。両作ともたまたま“ブラック”が名前に含まれるという共通点以外にもう一つ共通点があります。それは、リーダー不在の状況が物語の鍵となっている点です。

まず『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』についてです。ワカンダ国は国王ティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)を失い、ティ・チャラの母ラモンダ(アンジェラ・バセット)が女王として国を取り仕切りますが、ブラックパンサーが不在ということであらゆる脅威にさらされます。
次に『ブラックアダム』について、物語の舞台となるカンダックには長らくリーダーが不在で、武装集団が勢力を持ち、国民を虐げています。
両作とも同じくリーダー不在の状況が描かれているわけですが、それぞれどんなリーダーが必要なのかを社会心理学の視点で考えてみました。先にリーダーシップ研究において、代表的な理論を紹介します。

【PM理論】提唱者:三隅二不二
「目標達成機能:Performance=P機能」と「集団維持機能:Maintenance=M機能」を軸とした理論。分類は、P機能もM機能も強いタイプをPM型、P機能は強いがM機能は弱いタイプをPm型、P機能は弱くM機能が強いタイプをpM型、P機能もM機能も弱いタイプをpm型で示す4タイプある。
これまで多くの組織でそれぞれのタイプが、組織の業績やチームワーク、メンバーの満足度などにどのような影響をもたらすかが研究され、PM型が最も効果的であり、pm型がリーダーシップ効果が最低であることが概ね明らかにされている。

【LPCモデル】提唱者:フィードラー
「課題志向型」と「関係志向型」のリーダーシップのどちらが有効であるかを、LPC得点(=リーダー自身が最も苦手とする同僚に対する評価が、どの程度感情的なものかを表す尺度)を用いて検討する方法。
※LPC:Least preferred Co-worker

【パス・ゴール理論】提唱者:ハウスほか
「指示型」「支援型」「参加型」「達成志向型」の4種でリーダーシップを分類。組織の状況やメンバーの特性によって、必要なリーダーシップが異なるとする。メンバーが目標を達成するためには、リーダーは適切な道筋を示すことが求められるという意味で、パス・ゴール理論と称される。

【SL理論】提唱者:ハーシーとブランチャード
未熟なメンバーの熟達、組織の発展状況により、効果的なリーダーシップが異なるとする理論。メンバーの成熟度が時系列的に4段階「教示型→説得型→参加型→委譲型」に分けられ、それぞれの段階で効果的なリーダーシップがあるとしている。
※SL:Situational Leadership

上記は、池田ほか(2019)及び、吉田ほか編著(2009)より引用、要約

では、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』と『ブラックアダム』に当てはめて考えてみましょう。

映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』でワカンダ国は敵に攻撃され、明らかな危機に直面しています。つまりこの次点での組織の目的は、敵と戦い国を守ることです。目標を達成するにはチームワークも重要なので、【PM理論】ではPM型が理想です(これはどの状況でも当てはまりますが)。【LPCモデル】では「課題志向型」、【パス・ゴール理論】では「達成志向型」が優先となるでしょう。ワカンダ国の軍は徹底的に訓練されていることを考えると、【SL理論】では「委譲型」が効果的だと考えられます。

つまり、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のワカンダ国で求められるリーダーは、課題を達成するために優先順位を的確に判断して、どういう戦略、戦術で戦うのかをメンバーに示し、メンバー各々に役割分担を与えて任せることができる人物といえそうです。

映画『ブラックアダム』ドウェイン・ジョンソン/アルディス・ホッジ

『ブラックアダム』はブラックアダムが登場したことで騒乱が起きますが、その前は国民は不満を抱えながらも、共通の課題、問題が明確にある状況には見えません。まだ漠然と国を良くしていきたいという状況ではないかと考えると、まず国民の結束を固くするところから始めるとして、【LPCモデル】では「関係志向型」、【パス・ゴール理論】では「支援型」のリーダーシップが合いそうです。長らくリーダーが不在で国としては未熟だとすると、【SL理論】では「教示型」のリーダーが合いそうです。ただ、ブラックアダムが教示型リーダーになれるかどうかはちょっとイメージが遠いかもしれませんね(笑)。

さてさて、実際に物語の中ではどんなリーダーが現れるのでしょうか。どちらもどんなリーダーが誕生したかという結末が、そのまま物語のテーマといって良いように思いました。上記の理論に紐づけて解釈するのもおもしろいですよ。

<参考・引用文献>
池田謙一・唐沢穣・工藤恵理子・村本由紀子(2019)「社会心理学[補訂版]」有斐閣
吉田富二雄・松井豊・宮本聡介編著、堀洋道監(2009)「新編 社会心理学〔改訂版〕」福村出版

映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』レティーシャ・ライト/ダナイ・グリラ/アンジェラ・バセット/ルピタ・ニョンゴ/ドミニク・ソーン

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
2022年11月11日より全国公開中

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

©Marvel Studios

映画『ブラックアダム』ドウェイン・ジョンソン/ピアース・ブロスナン

『ブラックアダム』
2022年12月2日より全国公開

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

© 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『夏目アラタの結婚』黒島結菜 心理学から観る映画50:知能の何を測ってる?【知能検査】

『夏目アラタの結婚』では、知能検査が出てきます。ここでは代表的な知能検査をいくつかご紹介しましょう。

映画『ザ・ブレイキン』ケルビン・クラーク ザ・ブレイキン【レビュー】

2024年にパリで開かれたオリンピックで、ブレイキンは新種目として注目を浴びました。本作はブレイキンの世界で一流を目指す兄弟の物語…

映画『サユリ』根岸季衣 根岸季衣【ギャラリー/出演作一覧】

1954年2月3日生まれ。東京都出身。

映画『熱烈』ワン・イーボー ポッドキャスト【だからワタシ達は映画が好き17】2024年9月前半「気になる映画とオススメ映画」

今回は、2024年8月下旬から9月中旬にかけて劇場公開もしくは配信開始される作品を…

映画『ジガルタンダ・ダブルX』ラーガヴァー・ローレンス/S・J・スーリヤー ジガルタンダ・ダブルX【レビュー】

まず、「クリント・イーストウッドとサタジット・レイが出会う南インドで、森と巨象のウエスタンの幕が上がる」というキャッチコピーが気になり過ぎ…

Netflixシリーズ『極悪女王』ゆりやんレトリィバァ 極悪女王【レビュー】

このドラマは、1980年代、女子プロレスがテレビ放映されていた時代に、最恐のヒールとして名を馳せたダンプ松本を主人公として、実在の人物や出来事を基に作られたフィクション…

映画『ヒットマン』グレン・パウエル/アドリア・アルホナ ヒットマン【レビュー】

リチャード・リンクレイター監督作で、グレン・パウエルが主演のみならず共同脚本とプロデューサーも務めていると聞いただけで…

映画『スオミの話をしよう』長澤まさみ/西島秀俊/松坂桃李/遠藤憲一 スオミの話をしよう【レビュー】

毎度豪華キャストが揃う三谷幸喜監督作ということだけで観る動機は…

映画『エイリアン:ロムルス』オリジナルペン 『エイリアン:ロムルス』オリジナルペン 3名様プレゼント

映画『エイリアン:ロムルス』オリジナルペン 3名様プレゼント

映画『ぼくのお日さま』越山敬達/中西希亜良/池松壮亮 ぼくのお日さま【レビュー】

本作は、デビュー作『僕はイエス様が嫌い』(2019)でサンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を史上最年少で受賞した奥山大史監督の作品です…

部活・イベント

  1. 【ARUARU海ドラDiner】サムライデザート(カップデザート)
  2. 【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX
  3. 【ARUARU海ドラDiner】サポーター集会:パンチボール(パーティサイズ)
  4. 【ARUARU海ドラDiner】プレオープン
  5. 「ARUARU海ドラDiner」202303トークゲスト集合

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『憐れみの3章』エマ・ストーン 映画好きが推すイイ俳優ランキング【海外30代編】総合

今回は、海外30代(1985年から1994生まれ)のイイ俳優の中から、昨今活躍が目覚ましい方を編集…

映画『先生、 私の隣に座っていただけませんか?』柄本佑 映画好きが推すイイ俳優ランキング【国内30代編】個性部門

イイ俳優ランキング【国内30代編】番外編として、今回は<個性部門>のランキングを発表します。国内30代俳優の中には個性の光る俳優が多くおり、今回も接戦となっています。誰が上位に入ったのでしょうか?

映画『ホリック xxxHOLiC』神木隆之介 映画好きが推すイイ俳優ランキング【国内30代編】演技力部門

イイ俳優ランキング【国内30代編】番外編として、今回は<演技力部門>のランキングを発表!人気俳優の中でも演技力にフォーカスすると、誰が上位にくるのでしょうか?

REVIEW

  1. 映画『ザ・ブレイキン』ケルビン・クラーク
  2. 映画『ジガルタンダ・ダブルX』ラーガヴァー・ローレンス/S・J・スーリヤー
  3. Netflixシリーズ『極悪女王』ゆりやんレトリィバァ
  4. 映画『ヒットマン』グレン・パウエル/アドリア・アルホナ
  5. 映画『スオミの話をしよう』長澤まさみ/西島秀俊/松坂桃李/遠藤憲一

PRESENT

  1. 映画『エイリアン:ロムルス』オリジナルペン
  2. 映画『花嫁はどこへ?』ニターンシー・ゴーエル
  3. 映画『熱烈』Tシャツ
PAGE TOP