取材&インタビュー

『ドンテンタウン』佐藤玲さん、笠松将さん、井上康平監督インタビュー

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映画『ドンテンタウン』佐藤玲さん、笠松将さん、井上康平監督インタビュー

『ドンテンタウン』で監督、主演を務めた同い年の皆さんにお話を伺いました。映画にちなんで、モノ作りに携わる皆さんが大切にしていることや、思い出に残る映画など、和気あいあいといろいろお話頂きました。

<PROFILE>
佐藤玲(さとう りょう):ソラ役
1992年7月10日生まれ。東京都出身。2012年に蜷川幸雄演出の舞台“日の浦姫物語”で娘役に抜擢されてデビューを飾る。その後、映画やテレビドラマ、舞台と幅広く活躍。映画出演作は『少女』『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』『高崎グラフィティ。』『殺さない彼と死なない彼女』『泣くな赤鬼』『架空OL日記』など。

笠松将(かさまつ しょう):トキオ役
1992年11月4日生まれ。愛知県出身。高校卒業後に俳優を目指して上京。以降多数のドラマや映画に出演。映画出演作は『デメキン』『カランコエの花』『リベンジgirl』『響-HIBIKI-』『おいしい家族』『ラ』『花と雨』『転がるビー玉』『明日、キミのいない世界で』『デイアンドナイト』『カイジ ファイナルゲーム』『仮面病棟』など。

井上康平(いのうえ こうへい):監督・脚本
1993年生まれ。東京都出身。映画監督でCMプランナー。主な監督作品に『ドキ死』(MOOSIC LAB 2018短編部門グランプリ・ベストミュージシャン賞他受賞)、乃木坂46のシングルCD特典“ルーキーヒーローレイ”や“乃木坂功夫美少女明香”などがある。本作『ドンテンタウン』で初の長編作品に挑んだ。

自分がやりたいこと、求められていることのバランス

映画『ドンテンタウン』佐藤玲/笠松将

マイソン:
SFファンタジーのような作品で、私は映画を観て最後に「あれ?2人は***だったの?」となりました。エンドロールでも「???」となるシーンがあって、そこが本作のおもしろさでもありました。佐藤さんと笠松さんは、脚本を読んだ時にすぐに解釈できましたか?

佐藤玲さん:
どうだったんでしょう。あんまりよくわかってなかったけど、いいやと思って(笑)。

映画『ドンテンタウン』佐藤玲さんインタビュー

笠松将さん:
そうだよね、だってソラちゃん自体もわかってなかったもんね(笑)。逆に僕は、「どういうこと?」ってなると、本が読み進められなくなるので、監督にすごく確認していました。どれが●●で、どれが○○なのかって。

井上康平監督:
ポイントポイントではあるんですけど、観ているお客さんには、そこを想像してもらったほうが良いかなと思って。でも笠松くんは、わかっているんだったら置いておこう、わかっていないんだったら聞いてもらおうと。たぶん演技プランもあると思うから、それを想像してやってもらったほうが良いのかなって思いました。だから自分から積極的にめちゃくちゃ説明をするってことはしていないです。

マイソン:
じゃあ佐藤さんと笠松さんは、演技をしながら擦り合わせていくような感じだったんですか?佐藤さんはわからないままやったほうが逆にやりやすかったということもありそうですね。

佐藤玲さん:
いろいろ考えてはみたんですけど、その時そのシーンで思うことをやろうと思いました。だからそういう意味では「ここは、こうかな?」とか、そんなにすごく解釈について話したシーンはなかったと思います。

映画『ドンテンタウン』笠松将さんインタビュー

笠松将さん:
僕は、この時のトキオは優しいんだろうな、別の時にはこうだろうなっていうのがあって、前者の時には優しく女性寄りにしたいとか、そのために演じ分けたかったという感じです。

井上康平監督:
そうそう、玲さんはどちらかというとリアクション側だからね。

佐藤玲さん:
何も考えてなかったな。

笠松将さん:
佐藤さんはわかっていないほうが良いと思う。

マイソン:
じゃあ観客の皆さんには1回何もヒントがなく観てもらって、2回目は笠松さんの演技の違いをヒントにしてもらうと、どのシーンが○○で、どのシーンが●●かがわかりながら観られてまた楽しめそうですね。

映画『ドンテンタウン』佐藤玲/笠松将

井上康平監督:
たぶんニュアンスが違うと思います。というか、そうやってくれたんだろうなって。

笠松将さん:
いやいや、どう考えても監督がそういう意図で書いているから(笑)。

井上康平監督:
そうなんだけどね(笑)。

マイソン:
ハハハハハ(笑)。この映画でトキオは絵を描いたり、ソラは音楽を作ったり、もの作りをしている人達の物語で、「作りたいものを作る」「求められているものを作る」みたいなテーマもありました。俳優として、映画鑑賞として、皆さんは普段そのバランスをどう取っていらっしゃいますか?

井上康平監督:
僕は普段広告を作っているので、自分の出したい企画と、求められているものに結構乖離があったりします。そういう意味で映画は、わりと自由なアートフォームだなって、作りながら常々感じていました。普段言えないこととかを映画に投影しようと思って、この映画を作ったんですけど、その葛藤やモヤモヤしたものが、常に作り手の人とか、生きている人達の日常の中にもあるんじゃないかっていう意味でも、“曇天”っていうところに1つかかっているイメージで作りました。

映画『ドンテンタウン』笠松将

マイソン:
何かきっかけとなることがあったんでしょうか?

井上康平監督:
配給(SPOTTED PRODUCTIONS)の直井さんから、2019年の2月か3月くらいに“MOOSIC LAB 2019”に出してみないかという話をされて、「じゃあ企画を考えます」ってその話を受けて外に出たら、たまたま曇りで…。

笠松将さん:
天才じゃん(笑)!

井上康平監督:
いやいや(笑)。まあ、曇りだったんですよ。前の短編『ドキ死』も漢字3文字をかけてたので、今回も漢字3文字のタイトルに固執したくて、“曇天”とあと一文字何にしようかなと。団地を撮りたかったっていうのも元々あったので、“街”を“タウン”って読めた時に「あ!」って思いました。そこから企画を考えながら、プロットを作って、キャラクターはどんな人が良いかとか、完成しきってはいなかったんですけど、2人にお声掛けをして、出てくれることになって、そこからまた脚本を直して完成っていう流れでした。

映画『ドンテンタウン』佐藤玲

マイソン:
じゃあ、佐藤さんと笠松さんの雰囲気に合わせて書き直されたんですね。

井上康平監督:
そうですね。そういう感じにしたいなっていうのが結構ありました。

佐藤玲さん、笠松将さん:
ありがたいですね。

マイソン:
佐藤さんは、やりたいことと求められていることのバランスをどう取っていますか?

佐藤玲さん:
ソラちゃんについて考えると、私も20代前半くらいに1番悩んでいたことだなと思いました。自分がやりたいものが元々あったけど、人から求められるものがちょっと上回った時に、自分が何をして良いのかわからなくなるというか、皆が思っている私が私じゃないみたいなのって誰にでもあって、特にこの仕事の場合は多いと思うんです。私もそういう時期があって、慎重に一歩引いて見渡してずっと悩んでいたんですけど、慎重になり過ぎていました。でも、振り切った役が来た時にポンとやってみたらすごく楽になったっていう体験があって、それからは「まずやってみる。そこから考える」っていう風にしています。先に悩んじゃうと頭でっかちになって、恐くなっちゃうので。だから、自分のやりたいことだったり、周りから求められることのバランスはもうその都度その都度、変化があって良いものだということにして、擦り合わせられたら、お互い100になれるかも知れないし、お互いに譲り合えるのかも知れないって、あまりこだわらないように気を付けています。

映画『ドンテンタウン』佐藤玲さんインタビュー

マイソン:
なるほど〜、笠松さんはいかがですか?

笠松将さん:
僕は、皆が同じようなことを目指しているなかで、「たぶんこっちのほうが良いな」「絶対にこっちのほうがおもしろい」って感じることが結構あるんですよ。もちろんそうじゃないこともあるんですけど、「そのくらいだとそれは自己満足になってしまうな」とか、「お客さんには伝わらないな」とか、思うことがあります。だから、求められることに応えられないっていうモヤモヤより、「それで良いの?」っていうモヤモヤが大きいです。それは僕のなかにもあるし、失礼だしおこがましいかも知れないですけど、周りにも「これで良いの?」と思う時に、誰とも揉めずに自分の意見をどう伝えて、どうやって通していくのかが、今の自分の課題でもあるという感じです。

映画『ドンテンタウン』笠松将さんインタビュー

マイソン:
どこまで求められているのかということだけでなく、自分はどこまで求めるのかっていうところのバランスも、すごくたくさんの人と作っているからこそ大変ですよね。では最後の質問で、ご自身が出た作品ではなくて、いち観客として観た映画の中で、すごく自分の人生とか、俳優として監督として、人として、影響を受けた、すごく印象に残っている映画があったら教えてください。

井上康平監督:
好きな作品はたくさんあるんですけど、最初に観た映画がスティーヴン・スピルバーグの『未知との遭遇』だったんですよ。まだ5、6歳だったので全然わからなかったんですけど、すごく印象に残っています。たぶん自分の人生観みたいなところで、コロナと『未知との遭遇』の関連ってかなりあって、こういう未曾有の大惨事の時に人間はどう動き出すのかとか、そういうのも含まれているから、今の時期にまた改めて観て良かったなって思いました。あと、影響を受けた監督の一人がフランソワ・トリュフォーなんですが、実は『未知との遭遇』にも博士役として出ていたんですよね。意識していなかったんですけど、なんかそういう巡り合わせみたいなのも1番最初に観た映画と何かあるんじゃないかなと思って、最近観返したりしましたね。

映画『ドンテンタウン』井上康平監督インタビュー

笠松将さん:
僕は韓国映画の『トンネル 闇に鎖された男』が好きですね。何かを変えたというわけではないんですけど、逆に今自分の思っていることがはっきりしたというか、自分が今やっている芝居と、それがどう見えるのかっていう、そのバランスが1番大事だなっていうのを確認させてくれた作品だと思います。主演の俳優さん(ハ・ジョンウ)もすごく好きです。

映画『ドンテンタウン』佐藤玲さん、笠松将さん、井上康平監督インタビュー

佐藤玲さん:
私の好きな映画はフランソワ・オゾン監督の『スイミング・プール』なんですけど、影響を受けた映画だと2歳の時に『ダンボ』を観ていたらしいんですよ。私はその時のことは全く覚えていないんですけど、泣きながら観ていたと。その話を聞いて、当時もちろんそのことの理解はないんですけど、子ども心に何を大事にしたいのかっていうことだったんだと思うんです。自分がお母さんと離れる寂しさとかを追体験して『ダンボ』を観ていたんだと思うんですけど、自分が今後何を大事にしたいのかとか、人をどう大事にしたら良いのかということをたぶんすごく感じていたと思うんです。今自分がこういう仕事をさせて頂いているなかで、より思うのは、自分が仕事をする上で自分の家族が嫌な思いをする作品とか、自分が周りを傷付ける仕事はしたくないなっていうのはすごく思っていて、そういうのの基盤になったんじゃないかなって今は思います。

マイソン:
本日はありがとうございました!

2020年6月19日取材 PHOTO&TEXT by Myson

映画『ドンテンタウン』佐藤玲/笠松将

『ドンテンタウン』
2020年7月17日より全国順次公開
監督・脚本:井上康平
出演:佐藤玲/笠松将/山本亜依/牛尾竜威/岩崎咲/森田ガンツ/安楽涼/伊藤こうこ/笈川健太/鶴岡千聖/松浦祐也
配給:SPOTTED PRODUCTIONS

曲作りがうまくいかず、現実逃避するかのように団地へと引っ越したシンガーソングライターのソラは、ある夜押入れに前住人のトキオが残した大量のカセットテープが見つける。そのカセットテープには、贋作画家として日銭を稼ぐ青年トキオの心の声が録音されていて…。

公式サイト 映画批評&デート向き映画判定

©2019 osampo/MOOSIC LAB

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