学び・メンタルヘルス

心理学から観る映画44:破滅と再生両方の鍵を握る信念【自己効力感】

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映画『シック・オブ・マイセルフ』クリスティン・クヤトゥ・ソープ

私達は日々多くの選択をしながら生きています。その選択の背景の一つには【自己効力感】があり、【自己効力感】は実行や継続をする時だけではなく、実行しない時や継続していたことをやめる時にも影響します。

そこで今回は【自己効力感】の影響を説明できるストーリーが展開される作品をご紹介します。

※なるべくネタバレを避けた表現にしていますが、読む方によってはネタバレと感じる箇所が出てきます。

【自己効力感:self efficacy】
心理学者、アルバート・バンデューラが提唱した人間の心理です。アルバート・バンデューラは、モデリング(社会的学習理論)の提唱者としてもよく知られています。バンデューラ(1997)によると、「自己効力感は、人間の機能のなかで中心的な自己規制のメカニズムとして作用します。(中略)効力の信念は選択、願望、野心、努力や維持のレベル、逆境からの回復力、そしてストレスや抑うつなどへの弱さに影響を与えます」とあります。
【自己効力感】は「自分にできる力があると考える信念」を指します。

昨今【自己肯定感:self esteem】という言葉も耳にすることがありますよね。でも【自己肯定感】は異なる概念です。“self esteem”は「自尊心」とも和訳されることからわかる通り、【自己肯定感】はありのままの自分を尊重する態度を指します。

今回は【自己効力感】が人生にどのような影響を与えるのか、映画を挙げて考えてみます。以下に挙げる2作品の主人公はどちらも人生で行き詰まっています。

映画『シック・オブ・マイセルフ』クリスティン・クヤトゥ・ソープ

まずは『シック・オブ・マイセルフ』です。『シック・オブ・マイセルフ』の主人公シグネは恋人のトマスと暮らしています。トマスはアーティストを名乗り、有名になるために手段を選びません。そんなトマスの強引さに呑まれて日陰の存在になっているのがシグネです。この2人は恋人同士でありながら、トマスはシグネに対してもマウンティングをしているように見えます。シグネはトマスの汚れ仕事にも付き合わされ、友達の前では影に追いやられているので、自己効力感が下がるのも無理はありません。そんなシグネは、周囲からの関心を集めようと、ある計画を思い付きます。

映画『シック・オブ・マイセルフ』クリスティン・クヤトゥ・ソープ

シグネは驚くべき手段を使います。その結果、彼女の思惑通りにはなるのですが、同時に彼女自身の身体を危険にさらすことになります。こうした彼女の自傷行為の継続に自己効力感が影響していると考えられます。ここで自己効力感が働くメカニズムは2通り想定されます。

映画『シック・オブ・マイセルフ』クリスティン・クヤトゥ・ソープ

1つ目は、自傷行為をやめる力が働いていない、言い換えると、彼女は自分には自傷行為をやめる力がないという信念が働いているメカニズムです。でも、映画を観ているとやめようとしてもやめられない様子ではありません。そこで2つ目のメカニズムが浮かびます。自傷行為は彼女にとって良いことではありません。でも、シグネにとってはメリットがあり、彼女の目的を果たす上で有効です。だから、彼女は自傷行為を続けることで自分の理想の状態を保つことができるという自己効力感を持っていて、自傷行為を継続するほうに自己効力感が働いているのでしょう。

映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』深川麻衣

一方、実話を基にした映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』の主人公、安希子はどうでしょうか。人気グループに所属していた元アイドルの安希子は周囲からリア充に見られようと必死です。でも、メンタル不調を起こして失業し、預金残高も10万円に。そんな時に友人から、自宅の部屋をシェアする人を探しているという中年男性を紹介されます。そうして、彼女は赤  の他人である“おっさん”のところに住むことになります。

映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』深川麻衣/井浦新

安希子も人生に行き詰まっていて、苦しい日々を何とか生きています。ただ、『シック・オブ・マイセルフ』のシグネとの違いは、“おっさん”という第三者がポジティブな影響を与えている点です。

バンデューラ(1997)は、不安な状況をコントロールしようとする際に効力感が低いと、同時に抑うつが引き起こされると説明しています。ただ、その時に社会的援助があれば、ストレス、抑うつ、疾病に対する脆さの度合いを少なくすると述べています。

映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』深川麻衣/松浦りょう

安希子も“おっさん”もお互いに意識をしていなかったとしても、“おっさん”とのやり取りは安希子にとって社会的援助になっていたと考えられます。また、安希子自身、根本的には健全な自己効力感を持っている人物であることがストーリーからうかがえます。一時的に彼女の自己効力感は下がっていただものの、“おっさん”や友人達との交流のなかで回復してきたのでしょう。

以上の通り、自己効力感は健全に働く場合と不健全に働く場合があります。健全に働く場合は自覚しやすいと思われますが、不健全に働いている場合にも自覚できると、信念を少しずつでも変えていくことでより良い人生を送れるようになれそうです。

<参考・引用文献>
アルバート・バンデューラ(編著)(1997)「激動社会の中の自己効力」金子書房

映画『シック・オブ・マイセルフ』クリスティン・クヤトゥ・ソープ

『シック・オブ・マイセルフ』
2023年10月13日より全国順次開中
クロックワークス
監督・脚本:クリストファー・ボルグリ
出演:クリスティン・クヤトゥ・ソープ /エイリック・セザー/ファニー・ベイガー 
公式サイト 恐怖の波が押し寄せる!2023年ホラー特集 ムビチケ購入はこちら

主人公はミュンヒハウゼン症候群であるともいえます。歯止めがきかない彼女の暴走の行方は!?

© Oslo Pictures / Garagefilm / Film I Väst 2022

映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』深川麻衣/井浦新

『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』
2023年11月3日より全国公開
日活、KDDI
監督:穐山茉由
出演:深川麻衣/松浦りょう/柳ゆり菜/猪塚健太/三宅亮輔/森高愛/河井青葉/柳憂怜/井浦新 
公式サイト ムビチケ購入はこちら

もともとポジティブな性格だったとしても辛い時期は、誰にでもありえます。助けてくれる人達の存在の大切さが身に染みてわかるストーリーです。

©2023映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会

本ページの情報は2023年10月時点のものです。最新の販売状況は各社サイトにてご確認ください。

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

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  2. 映画『人はなぜラブレターを書くのか』綾瀬はるか
  3. 映画『五月の雨』安川まり
  4. 映画『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』イ・レ/チン・ソヨン
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PRESENT

  1. 映画『霧のごとく』ケイトリン・ファン/ウィル・オー
  2. 映画『君と僕の5分』シム・ヒョンソ/ヒョン・ウソク
  3. 映画『オールド・オーク』デイヴ・ターナー/エブラ・マリ
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