本作は、サリー・ポッター監督自身が、若年性認知症と診断された弟さんの介護で寄り添った経験を基に描かれています。主人公は、メキシコ移民のレオ(ハビエル・バルデム)とその娘モリー(エル・ファニング)。ある朝モリーは認知症の父レオの家を訪れ、レオを病院に連れていこうと一緒に出かけます。でも行く先々でトラブルが続出。それでもモリーはレオに優しく寄り添います。そんな2人のシーンの間に、レオの回想シーンが挟まっていて、レオが選ばなかったと思われる別の人生が映し出されていきます。
印象的だったシーンは、モリーが周囲の人間に対して、父は目の前にいるのになぜ皆は父のことを“彼”と呼ぶのかと訴えるところです。レオの存在を無視するかのような人々の態度に、強く疑問を投げかけるモリーの姿からは深い愛情が伝わってくると同時に、当事者でない者と当事者との距離感がすごくあるのだと気付かされます。
そして、タイトルにある“選ばなかったみち”は何を指しているのかと考えながら観るわけですが、それはレオにとっての“選ばなかったみち”のことだけではなく、誰にとっても重要な分かれ道があることを表しています。それはどちらを選んでも後悔が残るのではないかというほどとても難しい決断であり、愛する家族との関係で必ずそういう時がくるということを意識させるメッセージを感じます。家族だからこそ逃れられない厳しい現実と、家族だからこそ心のどこかで許し合えるという希望。こういった家族のジレンマを見事に表現した作品となっています。
2つの人生が描かれているので、過去の恋愛に心残りがある方が観ると、デートで観ていることを忘れて、1人の世界に入りこんでしまう可能性があります。観ていると自然にこれまでの人生を振り返りたくなるので、内容的にも1人でじっくり観るほうが向いている作品だと思います。
認知症でなかなか意思の疎通が取れない父と一生懸命心を通わせようとするモリーに、皆さんは共感できると思います。モリーが知らない父レオの過去が綴られていく展開は、子ども目線からすると少し複雑な気持ちになるかもしれませんが、大人になるにつれ誰もが重大な分かれ道を通らなければいけないことにも気付かされます。親子関係で今できることがあれば大事にしようと思わせてくれる内容でもあるので、親子で観るのも良さそうです。
『選ばなかったみち』
2022年2月25日より全国公開
ショウゲート
公式サイト
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TEXT by Myson