本作は、ルル・ワン監督自身の家族が実際に体験した出来事を描いています。2019年1月のサンダンス映画祭で、ルル・ワン監督はまだ無名だったにも関わらず、名だたる映像会社が配給権を巡り争奪戦を繰り広げ、同年全米わずか4館で公開したものの、口コミで上映館数がスピード拡大。3週目にはTOP10入りを果たし、第77回ゴールデングローブ賞では、オークワフィナが主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞、外国語映画賞にもノミネートされました。物語は、ニューヨークで暮らすビリーと家族が、中国に暮らす大好きな祖母ナイナイが病気で余命わずかと知って帰郷し、親戚一同でナイナイとの大切な日々を過ごすというもの。ただし、ナイナイは自分が余命わずかということを知らず、そのまま隠して楽しい日々を過ごそうとする家族と、真実を伝えるほうが良いと考えるビリーで意見が分かれます。そこには、アメリカで育ったビリーと、中国で暮らす親戚達の価値観の違いが印象的に描かれていますが、意見は分かれても、皆がナイナイの幸せのために一生懸命なのは同じで、家族、親類の繋がりの深さ、温かさを感じます。人を大切にする気持ち、考え方にはいろいろあって、どれが正しいかなんて関係ないということ。そして、親類皆がナイナイのために集まることに意義があるのだなということが伝わってきます。日本でも核家族化が進み、親戚皆で集まる風習も少なくなってきているように感じますが、おばあちゃん、おじいちゃん家に皆で集まって、一緒にご飯を食べたり、ワイワイ話したりすることは、とても尊いことですね。そういった温かさを思い起こさせてくれるこのストーリーは、万国共通で共感できるものだと思います。
家族の温かさを描いた作品で、とても良いムードに包まれると思います。ロマンチックなストーリーではありませんが、家族観を考えるきっかけになるという点で、真剣交際をしているカップルには特にオススメです。一緒に住んでいない限り、普段おじいちゃん、おばあちゃんの話はしないと思いますが、お互いを知るために本作を観て、鑑賞後は祖父母との思い出話に華を咲かせるのも良いでしょう。祖父母を大切にする人は、優しいはずなので、会話の中で人柄も見えてくるのではないでしょうか。
皆さんが思っている以上に、孫が会いに来てくれることは、祖父母にとって嬉しいことだと、本作を観ると実感できるでしょう。本作の主人公ビリーと祖母のナイナイはとても仲良しで、観ていると羨ましくなってくるはず。親には言えない本音を言えちゃったり、祖母と孫の関係は格別なものになることもあります。おじいちゃん、おばあちゃん家に行くかどうかは、親次第なところがありますが、1人で行動できる年齢になっても、ぜひ自ら進んで連絡をとったり、会いに行ったりして欲しいなという期待も込めて、ぜひ本作も観てみてください。
『フェアウェル』
2020年10月2日より全国公開
ショウゲート
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TEXT by Myson