REVIEW

クライムズ・オブ・ザ・フューチャー【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』ヴィゴ・モーテンセン/レア・セドゥ/クリステン・スチュワート

デヴィッド・クローネンバーグ監督が織りなす世界観に圧倒される1作。まずは、奇妙なベッドやチェアの独創的なデザインを目にした瞬間に、この世界で何が起きているのか知りたい衝動にかられます。そして、「新しい臓器が生まれた」「臓器を登録する」といった不可解なセリフに戸惑いながらも、好奇心が刺激されます。本作は解釈なんてせずにまずは感覚で楽しみたい作品です。
ただ、やっぱり解釈のし甲斐がある作品なので、映画を観てさまざまな思考を巡らせるのが好きな方にはぜひ考える楽しさも味わっていただきたい!本作はなんと製作に20年以上も費やしたとのことで、クローネンバーグ監督は1999年から脚本を書いていて、本作を世に出す適切なタイミングを待っていたそうです。映画公式サイトには、クローネンバーグ監督のコメントも掲載されており、本作の背景にある意図が書かれています。また、“PRODUCTION NOTE”には、主演のヴィゴ・モーテンセンとレア・セドゥのコメントもあり、演者の解釈も、私達観客の解釈の助けになるでしょう。

ここから先は、鑑賞前に何も知りたくない方は読まずに、良かったら観賞後にお読みください。

映画『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』レア・セドゥ/クリステン・スチュワート

本作には社会問題の比喩と思われるさまざまな描写があります。まず私が個人的に気になったポイントを挙げます。ヴィゴ・モーテンセンが演じるアーティストは体内で新しい臓器を生み出しては、レア・セドゥが演じるパートナーが人前で手術をしてその臓器を取り出すショーを行っています。って、この説明だけ読んでも「どういうことやねん!」と思うでしょう(笑)。それはさておき、アーティストが体内から臓器を生み出し、切除手術をショーとして見せるという行為は、現実世界でいってもまさに身を削って作品を生み出すアーティストと同じです。また、劇中の手術が過激なパフォーマンスとなっている点で、現実世界でも注目を集めたいだけのアーティスト気取りの者と本物のアーティストが混在する状況を象徴しているように捉えられます。例えば、過激な動画で注目を集める者と芸術としての映画を作る者の違いです。

映画『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』ヴィゴ・モーテンセン/クリステン・スチュワート

次に、開発、創造による産物に違いはあるのかという点です。科学が生み出すものは、人間にとって便利である反面、自然を破壊している部分もあり、巡り巡って人間の身の危険にも繋がっています。プラスチックを食べる人種の存在と彼等の企みは、罪のようでいて、解決策のようでいて、観る人によって捉え方は異なると思います。これは、人間が生み出したものへの責任を人間自身が取れるのかという問題提起のように見えます。前向きな捉え方、後ろ向きな捉え方、どちらとも取れる点で、観る者に答えを委ねているのではと感じます。
また、人間が痛みを感じなくなっている点、セックスに変化がある点も興味深いです。痛みは本来無いに越したことはありませんが、全く感じなくなることによって人間的でなくなるのかもしれません。だからこそ、快楽の得方にも変化が出てくるのではないでしょうか。…と、いろいろな解釈がどんどん巡るのでこの辺りで書くのは控えるとして、1回観るだけでは足りません。皆さんもぜひ複数回観て、解釈を楽しんではいかがでしょうか。

デート向き映画判定
映画『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』レア・セドゥ

エログロ要素がありつつ、ムーディーな世界観なので、これまで何度も映画デートをしているカップルならデートで観るのもアリでしょう。観た後に誰かと話したくなる要素が満載なので、映画談義に華が咲くと思います。語り合うのが好きなカップルはぜひ!

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』クリステン・スチュワート

PG-12なので大人と一緒なら小学生も観られるとして、子どもにとってはちょっと刺激が強いのではないでしょうか。感覚で楽しむもよし、解釈を楽しむもよしの映画とはいえ、映画を観慣れてから観るほうが一層楽しめるのかなと思います。いろいろなタイプの映画をたくさん観て、クセの強い映画にも免疫がついてから観ると良さそうです。

映画『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』ヴィゴ・モーテンセン

『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』
2023年8月18日より全国公開
PG-12
クロックワークス、STAR CHANNEL MOVIES
公式サイト

ムビチケ購入はこちら

© 2022 SPF (CRIMES) PRODUCTIONS INC. AND ARGONAUTS CRIMES PRODUCTIONS S.A.

TEXT by Myson

本ページの情報は2023年8月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

関連記事

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』天海祐希/大橋和也/伊原六花/上白石萌音 ふしぎ駄菓子屋 銭天堂【レビュー】

REVIEW累計発行部数1100万部を突破した「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズ(作:廣嶋…

映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』ジェシー・アイゼンバーグ/キーラン・カルキン “サーチライトプレミア試写会-シネマラウンジーvol.1”『リアル・ペイン〜心の旅〜』15名様ご招待

“サーチライトプレミア試写会-シネマラウンジーvol.1”映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』15名様ご招待

【東京コミコン2024】オープニングセレモニー:マッツ・ミケルセン、ジュード・ロウ、モリーナ・バッカリン、ベネディクト・カンバーバッチ、ジョン・ボイエガ、クリストファー・ロイド、ベン・マッケンジー、ジェイソン・モモア、ダニエル・ローガン、アンセル・エルゴート、山下智久、フルール・ジェフリエ、C・B・セブルスキ(マーベル・コミック編集長)、斎藤工(アンバサダー)、伊織もえ(PR大使)、山東昭子(東京コミコン名誉実行委員会)、小田井涼平(MC) クリストファー・ロイド、マッツ・ミケルセン、ジュード・ロウ、ベネディクト・カンバーバッチ、ジェイソン・モモアなど豪華ハリウッドスターが勢揃い!【東京コミコン2024】開幕

【東京コミコン2024】も超豪華な顔ぶれで幕を開けました。本レポートでは、ここでしか実現しない、ショットをたくさん掲載します。

映画『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』ジェームズ・マカヴォイ/アシュリン・フランチオージ スピーク・ノー・イーブル 異常な家族【レビュー】

REVIEW日本では2024年に劇場公開された、デンマークとオランダ合作の『胸騒ぎ』はご覧…

映画『不思議の国のシドニ』エリーズ・ジラール監督インタビュー 『不思議の国のシドニ』エリーズ・ジラール監督インタビュー

日本を舞台に、日本文化の特徴を活かしたストーリーが描かれた本作で、監督と脚本を務めたエリーズ・ジラールさんにインタビューをさせていただきました。日本で撮影を行い、実際に日本文化に触れたジラール監督の目に、日本はどのように映っていたのかお聞きしました。

映画『大きな家』 大きな家【レビュー】

とある児童養護施設の子ども達の素顔を映した本作は、齊藤工が企画・プロデュース、竹林亮が監督を務め、「”被写体ファースト”で非商業的な特殊な上映を目指」しており…

映画『シェイプ・オブ・ウォーター』サリー・ホーキンス サリー・ホーキンス【ギャラリー/出演作一覧】

1976年4月27日生まれ。イギリス、ロンドン出身。

映画『モアナと伝説の海2』 モアナと伝説の海2【レビュー】

モアナは前作で、半身半人のマウイとの冒険を経て、1000年に1人の“導く者”になり…

映画『正体』横浜流星 ポッドキャスト【だからワタシ達は映画が好き23】2024年12月前半「気になる映画とオススメ映画」

今回は、2024年12月前半に劇場公開される邦画、洋画についてしゃべっています。映画を観ながら泣いちゃう場合の話など脱線しながら気楽に話しています。

映画『海の沈黙』本木雅弘 本木雅弘【ギャラリー/出演作一覧】

1965年12月21日生まれ。埼玉県出身。

部活・イベント

  1. 【ARUARU海ドラDiner】サムライデザート(カップデザート)
  2. 【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX
  3. 【ARUARU海ドラDiner】サポーター集会:パンチボール(パーティサイズ)
  4. 【ARUARU海ドラDiner】プレオープン
  5. 「ARUARU海ドラDiner」202303トークゲスト集合

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『グランツーリスモ』オーランド・ブルーム 映画好きが推すイイ俳優ランキング【海外40代編】雰囲気部門

イイ俳優ランキング【海外40代編】から、今回は<雰囲気部門>のランキングを発表します。錚々たる俳優が揃うなか、総合と比べてどのようにランキングが変化したのでしょうか?

映画『マイ・インターン』アン・ハサウェイ 映画好きが推すイイ俳優ランキング【海外40代編】総合

今回は、海外40代(1975年から1984生まれ)のイイ俳優の中から、昨今活躍が目覚ましい方を編集部の独断で80名選抜し、正式部員の皆さんに投票していただきました。今回はどんな結果になったのでしょうか?

映画『淪落の人』アンソニー・ウォン/クリセル・コンサンジ 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.2

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

REVIEW

  1. 映画『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』天海祐希/大橋和也/伊原六花/上白石萌音
  2. 映画『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』ジェームズ・マカヴォイ/アシュリン・フランチオージ
  3. 映画『大きな家』
  4. 映画『モアナと伝説の海2』
  5. 映画『フード・インク ポスト・コロナ』

PRESENT

  1. 映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』ジェシー・アイゼンバーグ/キーラン・カルキン
  2. 映画『モアナと伝説の海2』Tシャツ
  3. 映画『アーサーズ・ウイスキー』ダイアン・キートン/パトリシア・ホッジ/ルル
PAGE TOP