REVIEW

アステロイド・シティ【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『アステロイド・シティ』ジェイソン・シュワルツマン/トム・ハンクス

物語の舞台はアメリカが最も栄えていたとされる1955年、アメリカ南西部の砂漠に位置するアステロイド・シティです。人口がたったの87人しかいないこの町で、科学賞を受賞した5人の子ども達と家族が授賞式のために集まります。でも、授賞式で未曾有の事態となり、街は封鎖。人々は街から出られなくなります。本作も相変わらずのウェス・アンダーソン節が効いていて、とにかく何もかもが可愛らしくておしゃれ!未曾有の事態に巻き込まれた緊迫した状態にもかかわらず、なんだかおとぎの世界に迷い込んだような不思議な気分になります。
映画公式資料によると、時代を1955年に設定し、演劇と映画の世界を融合したユニークな構成の物語にした背景には、当時のアメリカ社会を象徴する出来事や人物が多く含まれています。この時代は演劇最盛期から映画へと移行する時代であり、さらに第二次世界大戦後であり、核開発と宇宙開発でソ連と競っていた時代です。アンダーソン監督は本作に含まれるさまざまな要素を結び付ける特性として、「アイゼンハワー時代に見られた排外主義(ゼノフォビア)」というキーワードを挙げています。物語の中にはそんな背景から人間を眺めたシーンが散りばめられています。それでも観ていて、今の私達のことを描いているようにも見えるのは、現代に結びつく要素の比喩とも取れるからなのかもしれません。

ここからはあくまで私個人の解釈でネタバレを含みますので、鑑賞後にお読みください。

映画『アステロイド・シティ』ジェイソン・シュワルツマン/トム・ハンクス/ジェイク・ライアン

物語の舞台は1955年とはいえ、宇宙人の到来で街が隔離された状況は、未曾有の事態に陥ったコロナ禍の比喩にも思えます。そして、幼い孫達とトム・ハンクスが演じる祖父によるお墓のくだりや、10代の天才科学者達が大人顔負けの実験を行う姿は、これまでの常識を若者達が変えていくことの象徴にも見えます。また、劇中の舞台演劇の中の架空の町アステロイド・シティで起こる物語には、映画界の窮状が反映されているようにも見えます。ただ、その窮状を悲観するのではなく、前向きに捉えているように感じるシーンもあります。「起きるために寝る」と連呼するシーンは、立ち止まることの大切さも表してるのではないでしょうか。

映画『アステロイド・シティ』スカーレット・ヨハンソン

そして、とあるキャラクターが役を演じる上で悩むシーンも印象的です。本作は1950年代のアクターズ・スタジオで腕を磨いた往年のスター達をモチーフにしている{映画公式資料より}ことから考えると、俳優としての葛藤、作家達の考えが投影されているシーンだと思われます。そこからさらに一歩引いて考えてみると、現実世界でも人間は自分自身のことすら完全に理解しているわけではありません。ということは、たとえ役柄だとしても、1人の人間をそう簡単には理解できなくても不思議ではないと感じます。だからこのシーンは悩める人間にとっては温かさを感じるメッセージに受け取れます。
このようにさまざまな解釈を誘うストーリーも本作の魅力です。キュートな世界に浸りながら、解釈も楽しんでください。

デート向き映画判定
映画『アステロイド・シティ』ジェイソン・シュワルツマン/スカーレット・ヨハンソン

ウェス・アンダーソン監督作は多少好みは分かれそうですが、この飛び抜けてアーティスティックな世界観はデートの雰囲気にはピッタリですよね。カップルで観て気まずい展開もないし、これでもかというほど豪華キャストが勢揃いしていて、映画好きカップルはなおテンションが上がるでしょう。鑑賞後も会話が弾みそうな内容です。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『アステロイド・シティ』ティルダ・スウィントン

本作にはキッズやティーンも重要なキャラクターとして登場するので、皆さんも親近感を持って観られると思います。映画の中で演劇が上演されていて、その演劇の中の世界が映画になっているという、言葉で説明するのも難しい構造になっているのでキッズには少々難解ではあるものの、興味があれば観てみてください。

映画『アステロイド・シティ』ジェイソン・シュワルツマン/スカーレット・ヨハンソン/トム・ハンクス/ジェフリー・ライト/ティルダ・スウィントン/ブライアン・クランストン/エドワード・ノートン/エイドリアン・ブロディ/リーヴ・シュレイバー/ホープ・デイヴィス/スティーヴン・パーク/ルパート・フレンド/マヤ・ホーク/スティーヴ・カレル/マット・ディロン/ホン・チャウ/ウィレム・デフォー/マーゴット・ロビー/トニー・レヴォロリ/ジェイク・ライアン/ジェフ・ゴールドブラム

『アステロイド・シティ』
2023年9月1日より全国公開
パルコ、ユニバーサル映画
公式サイト

ムビチケ購入はこちら

© 2023 Pop. 87 Productions LLC & Focus Features LLC. All Rights Reserved

TEXT by Myson

本ページの情報は2023年8月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『ディスクロージャー・デイ』エミリー・ブラント/ジョシュ・オコナー ディスクロージャー・デイ【レビュー】

地球外生命体の存在は長らく議論の的になっています。本作を観るにあたり、地球外生命体の存在を信じる人、信じない人で…

映画『しびれ』北村匠海 しびれ【レビュー】

『佐々木、 イン、 マイマイン』『若き見知らぬ者たち』を手掛けた内山拓也監督が描く本作は、社会の隅っこで生きる親子の物語…

映画『リグレッション』エマ・ワトソン エマ・ワトソン【ギャラリー/出演作一覧】

1990年4月15日生まれ。フランス出身、イギリス国籍。

映画『プラダを着た悪魔』アン・ハサウェイ 映画好きが選んだアン・ハサウェイ人気作品ランキング

今回は、アン・ハサウェイ出演作品(日本劇場未公開作品と直近の劇場公開作品を除く)を対象に、正式部員…

映画『シャドウワーク』吉岡里帆/奈緒 シャドウワーク【レビュー】

冒頭に示されるDV発生率の高さにまず衝撃を受けます。DV被害が想像以上に身近にあると知ったところで始まるストーリーは…

映画『ブロークン・ヴォイス』カテジナ・ファルブロヴァー ブロークン・ヴォイス【レビュー】

日本でも公演を行っていた、チェコ、プラハの名門少年少女合唱団“バンビーニ・ディ・プラーガ”で、1984年から2004年にかけて、少なくとも49人の少女が性被害を受けていました…

映画『向田理髪店』白洲迅 白洲迅【ギャラリー/出演作一覧】

1992年11月1日生まれ。東京都出身。

映画『煙突の中の雀』 『煙突の中の雀』一般試写会 5組10名様ご招待

映画『煙突の中の雀』一般試写会 5組10名様ご招待

【映画学ゼミSeason2 第1回】「思考力を鍛える映画鑑賞—その仕組みの探求①オリエンテーション」参加者募集! 【映画学ゼミSeason2 第1回】「思考力を鍛える映画鑑賞—その仕組みの探求①オリエンテーション」参加者募集!

今回から、映画学ゼミSeason2として、プチリニューアルして開催します。Season2のコンセプトは、「思考力を鍛える映画鑑賞—その仕組みの探求」です。

映画『我々は宇宙人』 我々は宇宙人【レビュー】

これは大旋風を巻き起こす予感!才能溢れる傑作を目の当たりにして勝手に震えております(笑)…

【映画でSEL】にたどりつくまでの道

今のあなたに必要な非認知能力を伸ばす【映画でSEL】プログラムのご案内

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『プラダを着た悪魔』アン・ハサウェイ 映画好きが選んだアン・ハサウェイ人気作品ランキング

今回は、アン・ハサウェイ出演作品(日本劇場未公開作品と直近の劇場公開作品を除く)を対象に、正式部員…

【映画学ゼミSeason2 第1回】「思考力を鍛える映画鑑賞—その仕組みの探求①オリエンテーション」参加者募集! 【映画学ゼミSeason2 第1回】「思考力を鍛える映画鑑賞—その仕組みの探求①オリエンテーション」参加者募集!

今回から、映画学ゼミSeason2として、プチリニューアルして開催します。Season2のコンセプトは、「思考力を鍛える映画鑑賞—その仕組みの探求」です。

映画『ボヘミアン・ラプソディ』ラミ・マレック 映画好きが選んだ実在アーティストの伝記映画ランキング

今回は実在アーティストの伝記映画について、正式部員の皆さんに投票してもらいました。さまざまな有名アーティストにまつわる作品がある中で上位にランクインしたのはどの作品でしょうか?

学び・メンタルヘルス

  1. 【映画学ゼミSeason2 第1回】「思考力を鍛える映画鑑賞—その仕組みの探求①オリエンテーション」参加者募集!
  2. 【映画学ゼミ第10回】「メタ認知が働く映画鑑賞、そうでない映画鑑賞、何が違う?」参加者募集!
  3. 映画『四月の余白』一ノ瀬ワタル/上阪隼人

REVIEW

  1. 映画『ディスクロージャー・デイ』エミリー・ブラント/ジョシュ・オコナー
  2. 映画『しびれ』北村匠海
  3. 映画『シャドウワーク』吉岡里帆/奈緒
  4. 映画『ブロークン・ヴォイス』カテジナ・ファルブロヴァー
  5. 映画『我々は宇宙人』

PRESENT

  1. 映画『煙突の中の雀』
  2. ドラマ『幸せカナコの殺し屋生活2』のん/藤ヶ谷太輔
  3. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP