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MINAMATA―ミナマタ—【レビュー】

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映画『MINAMATA―ミナマター』ジョニー・デップ

広辞苑によると、水俣病とは有機水銀中毒による神経疾患で、四肢の感覚障害、運動失調、言語障害、視野狭窄、震えなどをおこし、重傷の場合は死亡するとあります。熊本県水俣地方の地元住民が、工場廃液による有機水銀に汚染された魚介類を食べたことにより、1953年から1959年の間に集団的に発生したといわれています。また、母親が妊娠中にメチル水銀の曝露を受けたことにより、脳性小児マヒに似た症状をもって生まれる胎児性の水俣病もあります(熊本県ホームページより)。本作は、伝説の写真家ユージン・スミスと当時の妻アイリーン・美緒子・スミスが、1975年に発表した写真集「MINAMATA」を映画化。2人は1971年に水俣市に移住し、3年間水俣病の問題を取材しました。
劇中では、水俣病に苦しむ人とその家族の様子や、地元住民が工場廃液を出していた企業と戦う様子が描かれています。ユージンとアイリーンの取材に対して、最初から地元住民が協力したわけでもなく、罹患した家族の姿を見せることに抵抗感を表す姿が印象的で、同時に証拠隠滅を目論む企業の無慈悲な対応も生々しく映し出されており、観ていると胸が締め付けられます。そして、深刻な状況を目の当たりにしながら無力感に苛まれるユージンをジョニー・デップが好演。ユージンと、ビル・ナイが演じるLIFE誌のロバート・”ボブ”・ヘイズとのやり取りでは、ユージンがカメラマンとしてのプライド、そして命までもかけて水俣病の取材に挑んでいた姿勢が示され、ユージンの人柄にも共感できます。
エンタテインメント性の高い作品に出ているジョニー・デップも良いですが、久々にこういった作品で名演を見せるジョニー・デップの姿もぜひ観てください。他に真田広之、浅野忠信、加瀬亮ほか、青木柚も印象に残る演技をしているので要注目です。原案となった写真集も本作も、芸術で世の人々の目を社会問題に向けさせるという大きな役割を果たしている点でも素晴らしいと思います。日本で起きている問題だけでなく、最後には各国で起きている問題にも少し触れているので、地球で起きている諸問題の実態を知る意味でも観ていただきたい作品です。

デート向き映画判定
映画『MINAMATA―ミナマター』ジョニー・デップ/美波

社会派ドラマなのでロマンチックなムードにさせるタイプの映画ではありませんが、内容が濃いのでどなたが観ても見応えがあります。キャストも豪華なので映画好きのカップルはもちろん、社会問題に関心が深いカップルは、観た後にいろいろ話せると思います。追い詰められた状態でどう立ち振る舞うのか、いろいろなキャラクターを通して想像できるので、感想を述べ合うことでお互いの価値観を知るきっかけにもなりそうです。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『MINAMATA―ミナマター』ジョニー・デップ/ビル・ナイ

社会科の授業で水俣病の問題を知っている方もいると思いますが、映像で観ることで水俣市の人々のリアルな姿を観ることができます。日本の高度経済成長期の背景も垣間見ることができるので、いろいろと勉強になる部分があるでしょう。今、世界中で環境問題が深刻化しているので、皆さんにとっても他人事とは思えないはず。自分自身と皆の将来を守るためにもぜひこういった実態に目を向けてみてください。

映画『MINAMATA―ミナマター』ジョニー・デップ/真田広之/國村隼/美波/加瀬亮/浅野忠信/岩瀬晶子/ビル・ナイ

『MINAMATA―ミナマタ—』
2021年9月23日より全国公開
ロングライド、アルバトロス・フィルム
公式サイト

© 2020 MINAMATA FILM, LLC
© Larry Horricks

TEXT by Myson

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