REVIEW
アメリカで国の分断化が懸念されるなか、本作はいつ内戦が起こってもおかしくない状況を描いていて、リアルな恐怖が湧いてきます。私はIMAXで拝見して、まさに戦場のど真ん中にいる感覚を味わいました。本作の舞台となるアメリカでは内戦が起こっていて、私達観客は戦場カメラマン達の取材に同行する感覚で、世の中で何が起きているのかを目の当たりにします。
敵味方がどう分かれているのかさえよくわからないまま、そこかしこ無法地帯になっている状況で、国民達の内戦への関わり方もさまざまです。キルステン・ダンストが演じるリーのセリフには、これまで戦場で写真を撮ることで不戦を訴えているつもりだったというような言葉が出てきます。そんなリーは戦場カメラマンとして、仕事に徹するため一線を引いています。一方、新米カメラマンのジェシー(ケイリー・スピーニー)は、まだそこまで割り切ることができません。ただ、取材をするなかで、2人に変化が起こり始めます。
本作のリアリティは、俳優の名演によっても支えられています。まずキルステンは、一見クールでありながら、戦場カメラマンとしてのスタンスと一人の人間としてのスタンスで揺れ動くリーの繊細な変化を見事に表現しています。一方、ケイリーも新人戦場カメラマンのジェシーを好演。本作の公式資料によると、本作の共演をきっかけに、キルステンがソフィア・コッポラにスピーニーを紹介し、『プリシラ』の主演に繋がったそうです。そして、カメオ出演ながら強烈なインパクトを放つのはジェシー・プレモンス。ジェシー・プレモンスは既に映画、ドラマと数々の作品に引っ張りだこで、『憐れみの3章』(ヨルゴス・ランティモス監督作)では第77回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞しました。映画公式資料によると、妻のキルステンは「アレックス(ガーランド監督)はラッキーでしたね。私としては、もしジェシーを使いたいならどうぞって感じで。でも夫がすばらしい俳優だと役に立ちますね(笑)」とコメントしています。妻の余裕のコメントがカッコ良いですね!劇中では、ジェシー・プレモンス演じるキャラクターにゾッとさせられるはずですよ。
ここからはあくまで私個人の解釈です。ネタバレしないように書いていますが、鑑賞後に読むことをオススメします。
本作に描かれる、ベテラン戦場カメラマンのリーと、新人戦場カメラマンのジェシーの対比を比喩で捉えてみました。これまでプロとして心の中にある種の境界線を引いてきたベテラン戦場カメラマンのリーにとって、これまで踏み込まないようにしてきたことが自分事になっていきます。自国で起きている内戦で身近な人物の身に危険が及ぶ状況では、その冷静さを保てないのは当然です。一方、新米戦場カメラマンのジェシーは、恐怖に直面しながらも、何かに目覚めたように積極的になっていきます。カメラのレンズを通して目の前の出来事を見ることで、もしかしたら他人事のように境界線を保てる感覚を得たのかもしれません。
この2人が何かの象徴であると考えるなら、リーは自分の中のフィルターを外して現実を直視した人の反応、ジェシーはどんな出来事もどこか一線を引いて他人事のように見る、ネットが普及した現代社会の人間の象徴のように映ります。現代では、肉眼で見る景色より、映える写真を撮るのに必死な人がいます。クライマックスでジェシーが惨状にカメラを向ける姿は、そんな現代社会の異様な現象を皮肉っているようにも見えました。皆さんもそれぞれに解釈をしてみてください。
デート向き映画判定
シリアスなテーマで臨場感たっぷりなので、終始緊張感が続きます。なので、鑑賞中はデートのムードではなくなるはずです。それでも、伝わってくるものが多くあるので、お互いの感想から価値観が見えてくる部分があるのではないでしょうか。その分、反応するポイントがあまりに異なると、相性に自信がなくなる可能性もあります。余計なことを心配したくない場合は1人で観るか、友達と観るほうが良さそうです。
キッズ&ティーン向き映画判定
人種差別や移民の問題、中絶の是非など、アメリカでは国の分断に繋がる問題が複数見られます。でも、これはアメリカだけにいえることではなく、日本にとっても他人事ではないでしょう。本作は内戦の怖さをリアルに描いているので、社会勉強にもなると思います。
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
2024年10月4日より全国公開
PG-12
ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト
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TEXT by Myson
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