REVIEW

世界で一番美しい少年【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『世界で一番美しい少年』ビョルン・アンドレセン

巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督作『ベニスに死す』で新星のごとく現れた美少年ビョルン・アンドレセン。『ベニスに死す』を観た時にその美しさに驚いたのはもちろんですが、本作で彼に起きたいろいろな出来事を知り、一層驚きました。彼はルキノ・ヴィスコンティ監督に“世界で一番美しい少年”と賞賛され、実際その異名に匹敵する美しさで世界中から一気に注目を集めました。でも彼にとってそれは望ましいことではなく、彼の人生を振り回すことになったことが本作で明かされています。当時は来日も果たしていて、日本のファンの熱狂ぶりも映っていましたが、本人はあまりよくわからないまま大人達に言われた通りいろいろな活動を“させられていた”という真相を知ると、何とも胸が痛みます。
そして衝撃なのは序盤で映る今のビョルンの暮らしぶりで、どう見ても精神的に不健康で不衛生なのが伝わってきます。観る側はなぜ彼はこんな風になってしまったのかとそこでまず衝撃を受け、その後徐々に明かされる真相を知り、すべてに納得できると思います。でも本作で彼が徐々に過去を整理していくような過程を辿り、救いを感じる部分もあります。さらに彼がどうしてルキノ・ヴィスコンティ監督のオーディションに行くことになったのか、その背景に何があったのかが明かされていき、彼があまりにも壮絶な人生を生き抜いてきたのだと知ることになります。劇中で読まれるビョルンのお母さんの手紙がとても印象的で、最初に読まれる時と2回目に読まれる時とで一つひとつの言葉の意味がさらに深みを増します。これはドキュメンタリーであって、ドキュメンタリーでないのではと思えるくらい衝撃的な内容です。彼自身に起きたこととして重く受け止めるのはもちろんですが、同じように苦しんでいる子ども達がいるかもしれないと、私達大人が考える機会になればと思います。

デート向き映画判定
映画『世界で一番美しい少年』ビョルン・アンドレセン

衝撃的で重めの内容なので、デートで観るのには向いていないと思います。ただ、一生一緒に生きていくという思いで交際しているなら、敢えて一緒に観て、本作鑑賞を機に自分達の過去や本音を明かして話し合うきっかけにするのも良いでしょう。また、子育てという視点でも思うところがたくさん出てくるであろう内容で、幼い子どもから思春期のお子さんがいる夫婦で観るのは良いのではないでしょうか。お子さんはもう大人という方でも、ビョルンと娘の姿を観て何か参考にできるところ、心が救われるところがあるかもしれません。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『世界で一番美しい少年』ビョルン・アンドレセン

この映画をキッズやティーンの皆さんが観たらどんな思いをするんでしょうか。きっととても複雑な心境にはなると思いますが、15歳だったビョルンの気持ちを皆さんなら等身大で理解できるはずです。皆さんのお年頃なら皆から注目されたり、人気者になることに憧れを持つ方もいると思いますが、芸能界は華やかな部分だけが表に見えています。有名になること、人気を得ることが悪いことではなくても、その代償があることは知っておいて損はないと思います。本作でその裏や大人の世界を観ることができるので、視野を広げてみてはどうでしょうか?

映画『世界で一番美しい少年』ビョルン・アンドレセン

『世界で一番美しい少年』
2021年12月17日より全国順次公開
ギャガ
公式サイト

TEXT by Myson

© Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ 心理学から観る映画59:研究倫理に反する実験とその被害『エクスペリメント』『まったく同じ3人の他人』

『まったく同じ3人の他人』というドキュメンタリーを観ました。生き別れた三つ子が再会する感動のストーリーかと思いきや、驚愕の背景を知り、研究倫理について改めて考えさせられました。そこで今回は研究倫理をテーマとします。

映画『コンビニ・ウォーズ~バイトJK VS ミニナチ軍団~』ヴァネッサ・パラディ ヴァネッサ・パラディ【ギャラリー/出演作一覧】

1972年12月22日生まれ。フランス出身。

映画『ブルーボーイ事件』中川未悠/中村中/イズミ・セクシー/真田怜臣/六川裕/泰平史/錦戸亮 ブルーボーイ事件【レビュー】

高度成長期にあった1965年の東京では、街の浄化のため、警察はセックスワーカー達を厳しく取り締まっていました。ただ、セックスワーカーの中には性別適合手術(当時の呼称は性転換手術)を受けて女性的な体をした通称ブルーボーイが…

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画『君の顔では泣けない』芳根京子/髙橋海人 君の顔では泣けない【レビュー】

高校1年生の夏、坂平陸(武市尚士)と水村まなみ(西川愛莉)はプールに一緒に落ちたことで体が入れ替わってしまいます。2人はすぐに元に戻ることができず15年を過ごし…

映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』ジェレミー・アレン・ホワイト スプリングスティーン 孤独のハイウェイ

物語の舞台は1982年。ブルース・スプリングスティーン(ジェレミー・アレン・ホワイト)は、名声を手に入れながらも、葛藤を抱えて…

映画『2つ目の窓』松田美由紀 松田美由紀【ギャラリー/出演作一覧】

1961年10月6日生まれ。東京都出身。

「第38回東京国際映画祭」クロージングセレモニー:受賞者 東京グランプリは『パレスチナ36』!第38回東京国際映画祭ハイライト

2025年10月27日(月)に日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開幕したアジア最大級の映画の祭典である第38回東京国際映画祭が、11月5日(水)に閉幕。今年も個性豊かな作品が多数出品され、さまざまなイベントが実施されました。以下に、第38回東京国際映画祭ハイライトをお届けします。

映画『平場の月』堺雅人/井川遥 平場の月【レビュー】

朝倉かすみ著の同名小説を実写化した本作は、『ハナミズキ』『花束みたいな恋をした』(2021年)などを手がけた土井裕泰が監督を務めて…

映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル ぼくらの居場所【レビュー】

カナダのトロント東部に位置するスカボローを舞台に、さまざまな背景を抱えた3組の親子の姿を…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画学ゼミ2025年11月募集用 AI時代における人間らしさの探求【映画学ゼミ第2回】参加者募集!

ネット化が進み、AIが普及しつつある現代社会で、人間らしさを実感できる映画鑑賞と人間にまつわる神秘を一緒に探求しませんか?

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ウェス・アンダーソン監督 映画好きが選んだウェス・アンダーソン監督人気作品ランキング

今回は、ウェス・アンダーソン監督作品を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。人気作品が多くあるなか、上位にランクインしたのは?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ
  2. 映画学ゼミ2025年11月募集用
  3. 映画『おーい、応為』長澤まさみ

REVIEW

  1. 映画『ブルーボーイ事件』中川未悠/中村中/イズミ・セクシー/真田怜臣/六川裕/泰平史/錦戸亮
  2. 映画『君の顔では泣けない』芳根京子/髙橋海人
  3. 映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』ジェレミー・アレン・ホワイト
  4. 映画『平場の月』堺雅人/井川遥
  5. 映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル

PRESENT

  1. 映画『TOKYOタクシー』オリジナルパラパラメモ
  2. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP