取材&インタビュー

『赦し』松浦りょうさんインタビュー

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『赦し』松浦りょうさんインタビュー

娘を殺された元夫婦と、犯行時に未成年だった加害者。癒やしようのない苦しみに囚われた3人の葛藤を通して、魂の救済、赦しという深遠なテーマを描いた映画『赦し』。今回は本作で加害者の福田夏奈役を演じた松浦りょうさんにお話を伺いました。殺人犯という難役に挑戦する上で準備したことや、少年犯罪に対する考え方で変わった点について直撃しました。

<PROFILE>
松浦りょう(まつうら りょう):福田夏奈 役
徳島県出身。2014年に映画『渇き。』でデビュー。その後もテレビCM、MV、ドラマなどに多数出演。2019年、大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺~』に出演し、2020年には初主演映画『眠る虫』でMOOSIC LAB2019長編部門グランプリを獲得した。2021年には映画『となりの井戸』(LIKE YOU)で主演。2023年には映画『赦し』に出演し、今後も映画やMVなどの待機作を複数控えている。

自ら孤独な環境を作ったことによって夏奈の感情がわかりました

映画『赦し』松浦りょう

シャミ:
最初に脚本を読んだ時に夏奈についてどんな印象を受けましたか?

松浦りょうさん:
夏奈のバックボーンを知り、本当に私が演じて良いのかと思いましたが、私も中学、高校時代に夏奈ほど大きなエネルギーではないものの、負の感情を抱えていたことがあったので、いつかこういった苦しい役に挑戦してみたいという想いがありました。なので、ぜひ夏奈を演じてみたいと思いました。

シャミ:
殺人犯という難しい役でしたが、夏奈を演じる上で事前に準備されたことは何かありますか?

松浦りょうさん:
アンシュル・チョウハン監督から「とにかく役作りを徹底してください」と言われていました。でも、私は当然人を殺したことも刑務所に入ったこともなかったので、人を殺めてしまった方のインタビューや記事を読んで役に落とし込んだ上で、どんな感情でそういうことをしてしまうんだろうと考えました。あとは、刑務所生活について調べて、できるだけそれに近い環境に身を置いて役を作り上げていきました。

映画『赦し』松浦りょうさんインタビュー

シャミ:
なるほど〜。オンオフの切り替えは難しくありませんでしたか?

松浦りょうさん:
難しかったです。できるだけオフを作らないように意識して、常にオンでいるようにしていました。フラッシュバックのシーン以外は控え室を皆さんと別の場所にしていただき、常に孤独な環境だったため、ずっとオンの状態でいられました。ですが、フラッシュバックのシーンは、現場に同世代の方が多かったこともあり、撮影外で少し世間話をしていたら、監督に呼び出されて「他のシーンと同じように1人でいなさい」と注意されたこともありました(笑)。

シャミ:
監督も線引きを徹底されていたんですね。

松浦りょうさん:
はい。監督は、「台本を1回読んだら捨てろ。役作りさえしっかりしていれば大丈夫だから」という考え方で、私もとにかく役作りを徹底するようにしました。

シャミ:
夏奈を自分自身に深く浸透させていくことは本当に大変そうですね。

映画『赦し』松浦りょう

松浦りょうさん:
自分でも孤独な環境を作ることで夏奈が独房にいた時にどんな感情になったのかがわかりました。辛い、寂しいなどの感情以上に本当に反省の気持ちがあり、それに対しての苦しみのほうが余程大きいことに気づきました。役作りとして、孤独を経験していなかったとしても、もちろん夏奈が反省しているという前提で演じるつもりではいました。ですが、孤独を経験したからこそ、反省の感情のほうが大きいということを身に染みて感じることができたので、芝居にとても活かされましたし、役作りの大切さを改めて感じることができました。

シャミ:
先ほど監督は「台本を1回読んだら捨てろ」という考え方だったとおっしゃっていましたが、現場ではアドリブも多かったのでしょうか?

松浦りょうさん:
そうですね。監督はリハーサルをしないので、役を落とし込んだ上で自分が思ったことを現場で言って欲しいということでした。それは私にとってすごく理想的なやり方で、1番純粋に演じられたのでありがたい環境でした。

映画『赦し』松浦りょうさんインタビュー

シャミ:
本作には加害者と被害者家族の姿が映し出されていて、終盤には夏奈から衝撃の告白があり、正義とは何なのかとても考えさせられました。松浦さんご自身は、完成した映画を観てどんな感想を持ちましたか?

松浦りょうさん:
改めて赦すということはとても難しいテーマだと思いました。何度か“赦し”について聞かれたことがありますが、客観的に見て福田夏奈を赦せるかというと、そう簡単に赦せるとは言えません。そんな簡単な問題ではないですし、観た方に答えを出して欲しいというわけでもありません。ただ、私が彼女を演じた上ですと、夏奈を赦したいという気持ちになりました。もちろん克(尚玄)や澄子(MEGUMI)の苦しみは計り知れませんが、夏奈もすごく苦しんだということは私が1番わかっているので、赦してあげたいという気持ちになりました。

シャミ:
この撮影を通して、少年犯罪に対する考え方で変わった部分はありますか?

映画『赦し』松浦りょう

松浦りょうさん:
すごく変わりました。たとえ殺人を犯すまでの感情でなくとも、彼女が抱えていたような問題はずっとあると思いますし、目を背けてはいけないことだと改めて感じました。そう簡単に答えが出ない問題ですが、本当に1人でも多くの方にこの映画を観ていただいて、考えるきっかけにして欲しいと思います。生きている環境によって、捉え方が大きく異なる映画だと思うので、いろいろな境遇の方に観ていただきたいです。

シャミ:
夏奈のように罪を犯さなかったとしても、同じような辛い気持ちを抱えながら学校生活を送っている人は現実にもいると思います。そういった方達に向けて松浦さんから何かメッセージがあればお願いします。

松浦りょうさん:
今回夏奈役をやらせてもらった立場から言わせていただくと、やっぱりできる限り1人で抱え込まないようにして欲しいと思います。夏奈は、本当に孤独で誰も味方がいない状況で、唯一の味方は弁護士です。でも、その弁護士も本当に夏奈のことを思っているのかわかりませんし、彼女は本当に極限状態だったと思います。夏奈ほどの深刻な状況だったら誰にも話せないかもしれませんが、もしかしたら両親や友達に話せるかもしれないので、皆が敵だと思わないで欲しいです。きっと味方はいるよと言いたいです。

映画『赦し』松浦りょうさんインタビュー

シャミ:
ありがとうございます。松浦さんご自身のことも聞かせてください。プロフィールに「高校卒業後、歌を辞めたものの表現の道を究めようと俳優を志す」とあったのですが、俳優を目指したいと思った具体的な理由を教えてください。

松浦りょうさん:
渇き。』という作品がデビュー作なのですが、その時に「演技ってこんなに自分から発信していかないとダメなんだ」と感じ、とても刺激を受け、もっとお芝居をしてみたいと思いました。また、私自身とても感情豊かな人間で、自分の感情を何かで表現したいという気持ちがあり、それまでは歌でエネルギーを発散していたのですが、俳優としてお芝居を通して表現したいと思うようになりました。

シャミ:
ちなみにまた歌をチャレンジしたいという気持ちはありますか?

松浦りょうさん:
歌手やバンドマンの役をいただけたとしたら、ぜひやりたいと思っています。

映画『赦し』松浦りょうさんインタビュー

シャミ:
では、俳優という仕事をしていて1番やり甲斐を感じるのはどんな時でしょうか?

松浦りょうさん:
今回のように本当に自分が役として生きることができた時にすごくやり甲斐を感じます。俳優という仕事をやらせていただいている恩返しというか、私だからこそ、この役ができたんだと自分で実感した時はとても幸せです。それと同時に、俳優という仕事をやっていて良かったと心から思います。

シャミ:
最後の質問です。これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。

松浦りょうさん:
1番好きな作品は、ウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』です。あの映画と出会った時は一目惚れをして恋に落ちた感覚があり、「いつかウォン・カーウァイ監督の作品の世界に入ってみたい!」と強く思いました。ウォン・カーウァイ監督の作品に出ることは本当に難しいことで不可能に近いと思いますが、私の夢なので、諦めずに俳優を続けていこうと思います。

映画『赦し』松浦りょうさんインタビュー

シャミ:
いつかぜひ!楽しみにしています。

松浦りょうさん:
頑張ります!

シャミ:
本日はありがとうございました!

2023年3月6日取材 PHOTO&TEXT by Shamy

映画『赦し』松浦りょう

『赦し』
2023年3月18日より全国順次公開
監督・編集:アンシュル・チョウハン
出演:尚玄/MEGUMI/松浦りょう/生津徹/藤森慎吾/真矢ミキ
配給:彩プロ

17歳の夏奈は同級生の少女を殺害した。あれから7年が経ち、20年の刑を受けた夏奈に再審の機会が与えられ、釈放される可能性が出てきた。その連絡を受けた被害者の父親の克と、母親の澄子は法廷に赴き裁判の経過を見守ることになるが…。

公式サイト

©2022 December Production Committee. All rights reserved

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル ぼくらの居場所【レビュー】

カナダのトロント東部に位置するスカボローを舞台に、さまざまな背景を抱えた3組の親子の姿を…

映画『ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師』ヨナス・ダスラー ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師【レビュー】

第二次世界大戦下のドイツに実在した牧師、ディートリヒ・ボンヘッファーは、ナチスに支配された教会やユダヤ人達を救おうと奮闘…

映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』SUMIRE 佐藤菫【ギャラリー/出演作一覧】

1995年7月4日生まれ。東京都出身。

映画『プレデター:バッドランド』エル・ファニング プレデター:バッドランド【レビュー】

おもしろい!いろいろユニーク!“プレデター”シリーズは…

映画『モンテ・クリスト伯』ピエール・ニネ モンテ・クリスト伯【レビュー】

アレクサンドル・デュマ・ペールの傑作小説「巌窟王」を映画化した本作は…

映画『秒速5センチメートル』松村北斗 映画レビュー&ドラマレビュー総合アクセスランキング【2025年10月】

映画レビュー&ドラマレビュー【2025年10月】のアクセスランキングを発表!

映画『旅と日々』シム · ウンギョン/堤真一 旅と日々【レビュー】

つげ義春の「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」を原作に、『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』などを手がけた三宅唱監督が映画化…

映画『風のマジム』肥後克広 肥後克広【ギャラリー/出演作一覧】

1963年3月15日生まれ。沖縄県出身。

【20周年記念ボイスシネマ声優口演ライブ2025】羽佐間道夫、山寺宏一ほか 人気声優達が真剣勝負!会場が終始笑いに包まれた【20周年記念ボイスシネマ声優口演ライブ2025】本番リポート

発起人である羽佐間道夫のもと、山寺宏一、林原めぐみほか錚々たる人気声優達がズラリと顔を揃えたライブは今年で20周年を迎えました…

映画『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』ホン・サビン/シン・ジュヒョブ あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。【レビュー】

物語の始まりは、1995年の韓国、テグ。学校でいじめられていたドンジュン…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画学ゼミ2025年11月募集用 AI時代における人間らしさの探求【映画学ゼミ第2回】参加者募集!

ネット化が進み、AIが普及しつつある現代社会で、人間らしさを実感できる映画鑑賞と人間にまつわる神秘を一緒に探求しませんか?

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ウェス・アンダーソン監督 映画好きが選んだウェス・アンダーソン監督人気作品ランキング

今回は、ウェス・アンダーソン監督作品を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。人気作品が多くあるなか、上位にランクインしたのは?

映画『宝島』部活:座談会/大友啓史監督 この映画で問いかけたい「宝」とは…大友啓史監督と語ろう『宝島』部活リポート後編

前回に引き続き今回は映画『宝島』の部活リポートをお届けします。後編では、事前に正式部員の方々にお答えいただいたアンケート結果について議論しました。今回も熱いトークが繰り広げられています!

学び・メンタルヘルス

  1. 映画学ゼミ2025年11月募集用
  2. 映画『おーい、応為』長澤まさみ
  3. AXA生命保険お金のセミナー20251106ver3

REVIEW

  1. 映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル
  2. 映画『ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師』ヨナス・ダスラー
  3. 映画『プレデター:バッドランド』エル・ファニング
  4. 映画『モンテ・クリスト伯』ピエール・ニネ
  5. 映画『秒速5センチメートル』松村北斗

PRESENT

  1. 映画『TOKYOタクシー』オリジナルパラパラメモ
  2. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP