特集

映画に隠された恋愛哲学とヒント集76:恋愛における過去・現在・未来の重要性

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『不死身ラヴァーズ』見上愛/佐藤寛太

ネタバレ注意!
※肝心なところはネタバレせずに書いていますが、何も知りたくない方は鑑賞後にお読みください。

今回は、高木ユーナによる同名コミックを原作とし、松居大悟監督が10年以上温め続けてきたという『不死身ラヴァーズ』を題材に、恋愛における過去・現在・未来の重要性について考えます。

現在にフォーカスする?過去・未来にフォーカスする?

映画『不死身ラヴァーズ』見上愛/佐藤寛太

まずは『不死身ラヴァーズ』の簡単なあらすじからご紹介します。主人公の長谷部りの(見上愛)は、幼い頃に出会った“甲野じゅん”(佐藤寛太)に運命を感じてから、彼との再会をずっと夢見て過ごしています。そして、中学生になったりのは、遂にじゅんと再会。直球で好きという気持ちをぶつけ、両思いになるものの、じゅんはりのの前から消えてしまいます。その後も、再びじゅんに出会うものの、両思いになると、この世に存在すらなかったようにじゅんは消えてしまいます。そうして、何度も同じ現象に疲れたりのは、また甲野じゅんに出会います。

映画『不死身ラヴァーズ』見上愛/佐藤寛太

甲野じゅんにやっと出会ってもどうせ彼は消えてしまうと恋愛意欲が失せていたりのは、大学で甲野じゅんに出会っても恋する気はない様子。でも、2人はある出来事を通して、心の距離が縮まり、やっぱりりのはじゅんに恋をします。相変わらず、りのはじゅんにストレートに思いをぶつけていくわけですが、今度はこれまでとは違う葛藤をすることになります。

本作で描かれているのは、まず「今」という瞬間の輝きです。どんな恋愛も、出会った当初は2人とも一緒にいるだけで満足なんですよね。そんな時期を経てずっと一緒にいたいと思うようになるからこそ、未来はどうなるのかと考えるのは当然です。そして、長く一緒にいればいるほど、良い出来事も悪い出来事も過去に蓄積されていきます。

映画『不死身ラヴァーズ』見上愛/佐藤寛太

りのというキャラクターは恋愛における過去と未来を重んじる人の象徴、じゅんは恋愛の現在を重んじる人の象徴と考えてみると、りのとじゅんのやり取りは、恋愛においてよくある風景に見えます。たとえば、自分にとっては大きな出来事が相手にとって小さな出来事だった場合、過去の認識の食い違いによって、価値観の差を感じて不安になることもあるかもしれません。また、生きていれば、就職、結婚、出産など、将来のことを考え、決めなくてはいけない場面に遭遇します。誰かと一緒に生きるなら、お互いの将来について話したくなることもあるでしょう。でも、逆の立場からすると、一緒にいる瞬間ではなく過去や未来のことばかり話題にされてもしんどい時がありますよね。

もっと本作の設定に寄せて考えると、毎日トキメキたい気持ちがある一方で、毎日気持ちを伝えないと伝わらないのも疲れるという喩えになっているとも受け取れます。出会った瞬間のキラキラも良いし、長く一緒にいる安心感も良い。結局、過去も現在も未来も大事だし、たまにはトキメキが欲しいのと同時に、黙っていても通じ合える関係でもいたいんですよね。でも、現実の恋愛ではそのバランスを保つのは難しく、お互いが努力しなければいけません。

本作は恋愛で必要なバランスをどうやったらうまく取れるのかを、ユニークな設定で描いています。ストーリーをそのまま楽しみつつ、皆さん自身の恋愛に落とし込んで観るのも良いのではないでしょうか。

映画『不死身ラヴァーズ』見上愛/佐藤寛太

『不死身ラヴァーズ』
2024年5月10日より全国公開
ポニーキャニオン
公式サイト

ムビチケ購入はこちら

©2024「不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©高木ユーナ/講談社

TEXT by Myson

本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2024年5月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ 心理学から観る映画59:研究倫理に反する実験とその被害『エクスペリメント』『まったく同じ3人の他人』

『まったく同じ3人の他人』というドキュメンタリーを観ました。生き別れた三つ子が再会する感動のストーリーかと思いきや、驚愕の背景を知り、研究倫理について改めて考えさせられました。そこで今回は研究倫理をテーマとします。

映画『コンビニ・ウォーズ~バイトJK VS ミニナチ軍団~』ヴァネッサ・パラディ ヴァネッサ・パラディ【ギャラリー/出演作一覧】

1972年12月22日生まれ。フランス出身。

映画『ブルーボーイ事件』中川未悠/中村中/イズミ・セクシー/真田怜臣/六川裕/泰平史/錦戸亮 ブルーボーイ事件【レビュー】

高度成長期にあった1965年の東京では、街の浄化のため、警察はセックスワーカー達を厳しく取り締まっていました。ただ、セックスワーカーの中には性別適合手術(当時の呼称は性転換手術)を受けて女性的な体をした通称ブルーボーイが…

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画『君の顔では泣けない』芳根京子/髙橋海人 君の顔では泣けない【レビュー】

高校1年生の夏、坂平陸(武市尚士)と水村まなみ(西川愛莉)はプールに一緒に落ちたことで体が入れ替わってしまいます。2人はすぐに元に戻ることができず15年を過ごし…

映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』ジェレミー・アレン・ホワイト スプリングスティーン 孤独のハイウェイ

物語の舞台は1982年。ブルース・スプリングスティーン(ジェレミー・アレン・ホワイト)は、名声を手に入れながらも、葛藤を抱えて…

映画『2つ目の窓』松田美由紀 松田美由紀【ギャラリー/出演作一覧】

1961年10月6日生まれ。東京都出身。

「第38回東京国際映画祭」クロージングセレモニー:受賞者 東京グランプリは『パレスチナ36』!第38回東京国際映画祭ハイライト

2025年10月27日(月)に日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開幕したアジア最大級の映画の祭典である第38回東京国際映画祭が、11月5日(水)に閉幕。今年も個性豊かな作品が多数出品され、さまざまなイベントが実施されました。以下に、第38回東京国際映画祭ハイライトをお届けします。

映画『平場の月』堺雅人/井川遥 平場の月【レビュー】

朝倉かすみ著の同名小説を実写化した本作は、『ハナミズキ』『花束みたいな恋をした』(2021年)などを手がけた土井裕泰が監督を務めて…

映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル ぼくらの居場所【レビュー】

カナダのトロント東部に位置するスカボローを舞台に、さまざまな背景を抱えた3組の親子の姿を…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画学ゼミ2025年11月募集用 AI時代における人間らしさの探求【映画学ゼミ第2回】参加者募集!

ネット化が進み、AIが普及しつつある現代社会で、人間らしさを実感できる映画鑑賞と人間にまつわる神秘を一緒に探求しませんか?

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ウェス・アンダーソン監督 映画好きが選んだウェス・アンダーソン監督人気作品ランキング

今回は、ウェス・アンダーソン監督作品を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。人気作品が多くあるなか、上位にランクインしたのは?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ
  2. 映画学ゼミ2025年11月募集用
  3. 映画『おーい、応為』長澤まさみ

REVIEW

  1. 映画『ブルーボーイ事件』中川未悠/中村中/イズミ・セクシー/真田怜臣/六川裕/泰平史/錦戸亮
  2. 映画『君の顔では泣けない』芳根京子/髙橋海人
  3. 映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』ジェレミー・アレン・ホワイト
  4. 映画『平場の月』堺雅人/井川遥
  5. 映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル

PRESENT

  1. 映画『TOKYOタクシー』オリジナルパラパラメモ
  2. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP