心理学

心理学から観る映画12-2:自己注目が抑うつを引き起こす

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『生きてるだけで、愛。』趣里/菅田将暉

人間というものを理解しようとする時、“自己”という概念がとても重要になります。自分をどう認知しているか、自分をどう見せたいか、自分はどう見られていると思うか…など、あらゆる視点や捉え方が、心の健康及び病に影響をもたらします。そこで今回は自己注目と抑うつの関係について考察します。

自己へ注意が向くとなぜ人間は不快になるの?

チクゼンミハリィとフィガルスキーが19歳から63歳の就労者に対して行った実験によると、自己に注意を向け考えることは自発的な場合を除いて、他のこと(仕事、家事雑用、時間など)へ注意が向いている状況に比べ、一般には不快であり、受身的で、関与も弱いなどネガティブな経験だったと報告されています。
また、注意や意識が自分に向けられ、対象として注目している状態のことを“自覚状態”と言いますが、ドゥバルとウィックランドは、「人は自覚状態になると、現実の自己と、理想としている自己(適切さの規準)と照合し、その間の不一致を認知するようになる」という“自覚状態理論(客体的自覚理論)”を提唱しました。一般に、現実の自己への自己評価は厳しくなりがちなので、人は規準に達していないと感じることが多く、その不一致が大きいほど自己卑下や自己非難などの不快な感情も大きくなるとしています。
この現実の自己と理想の自己との不一致によって、自己の統合性が失われ、情緒的な問題が発生することを臨床的経験から論じた理論には、ロジャースの“自己不一致理論”もあります(堀ほか 2009)。

こういった理論から考えても、人はなりたい自分になれることが1番心地良いんでしょうね。自己注目についての理論は他にもありますが、ここでは詳細を割愛し別の機会に譲るとして、とにかく自己に注意を向ける行為は、私達が自覚している以上に私達の思考や行動に影響しているということがわかります。

ウィックランドによると、現実の自己が理想を満たすことはほとんどの場合困難なため、私達人間は注意を他に逸らそうと、テレビを観たり、音楽を聴いたり、運動したりして外部の刺激に注意を向けるとしています。飲酒も回避の一例です(堀ほか 2009)。

Hulu『うつヌケ』
『うつヌケ』

でも、注意を逸らそうとしてもうまくいかないことがあります。この点について、エイブラムソンらは、自己注目と抑うつの3段階モデルを提唱しています。これは嫌なことを体験した時に、原因帰属の仕方によっては抑うつになりやすいと考えるもので、内在性の次元(原因は自分に内にあるか、外にあるか)、安定性の次元(その原因がいつも同じくあてはまるものか、その時限りのものか)、般化性の次元(その原因が多くの場面でも同じくあてはまるか)という3つの次元で捉えています。
例えば、直属の上司に怒られたとしましょう。「怒られたのは自分がバカだからだ」と考えてしまうと、内的、安定的、全般的な原因に帰属したということになります。エイブラムソンらは、この3次元の原因に帰属すればするほど抑うつになるとしており、このようなパターンは“抑うつ的な原因帰属スタイル”と呼ばれています。
さらに、抑うつ的な気分に対して自己意識を強める“反芻(はんすう)”が起こるとうつが持続してしまいます。反芻には“具体モード”と“抽象モード”があり、前者は抑うつを弱めますが、後者は抑うつを強めるとされています。具体モードとは、「どのように?」という問いかけによって喚起されるモードで、「抽象モード」はより全般的で評価的なものであり、「なぜ?」という問いによって生じます(丹野ほか 2015)。

映画『生きてるだけで、愛。』趣里/菅田将暉
『生きてるだけで、愛。』

確かに何か嫌なことがあったり、うまくいかないことがあって、「なぜ自分はそんなことをしてしまったんだろう?」と考え始めると、何をしていても同じ思考に囚われていることに気づきます。これを上記の理論で解釈してみると、「なぜ?」で喚起された抽象モードになっていて、原因を自分の内にあると考えているために、抑うつ気分に陥ることになります。

個人的な話になりますが、心理学を勉強し始めてわかってきたのは、一昨年から昨年くらいまでの自分はうつの入口にいたのかも知れないということです。でも幸いにも、ちょうど心理学を本格的に学ぶために大学に3年次編入したのも一昨年からだったため、ネガティブな気分に呑み込まれそうな時も、自分を俯瞰する機会があり、気持ちが紛れたという自覚があります。

自分で言うのも何ですが、私は基本的に超ポジティブな性格です。だからこそネガティブな状態への免疫があまりないせいか、いつものように気分を切り替えられない自分がもどかしくて、受け入れ難くも思っていたようにも感じます。めちゃくちゃ気持ちが落ちているはずの状態で寝不足が続いているのに、夜中に目がギンギンで全く眠れないまま朝を迎えても思考が活発な時もありましたが、あれは躁状態だったのかも知れないなと、思えばいろいろな症状がありました。
重い状態にならないで済んだのは、家族や仲間の存在があって、仕事以外にも心理学の勉強で忙しくして気が紛れていたからだと思いますが、皆さんにお伝えしたいのは、本当に誰でもうつになる可能性はあるということです。

新型コロナウィルス感染症の影響で、人に直接会わない期間が続いていて、生活もこれまで通りにはいかず、家にこもりっきりでストレスが溜まったり、仕事が減ったり、収入が減ったりして心配事が増えた人も多いと思います。こういった状況では抑うつ気分になる人も増えそうですが、反芻してしまっている時に「あれ?同じことばっかり考えてる。なぜなぜに陥ってる」と、ふと自分を俯瞰するモードに切り替えるだけで、淵から少し離れることができるはずです。どうかこの状況に負けず、皆で頑張りましょう!

<参考・引用文献>
堀洋道・吉田富二雄・松井豊・宮本聡介ほか(2009)「新編 社会心理学〔改訂版〕」福村出版
丹野義彦・石垣琢磨・毛利伊吹・佐々木淳・杉山明子(2015)「臨床心理学」有斐閣

『生きてるだけで、愛。』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
ブルーレイ・DVDレンタル&発売中

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

うつが引き起こす過眠症によって引きこもりになってしまった寧子と、彼女を支えながら自身も精神的に追い込まれていく恋人、津奈木の物語。少し治ってきたと思ったのに、あるきっかけで再び情緒不安定になってしまう様子が観ていて苦しいです。原作は本谷有希子の同名小説。

生きてるだけで、愛。

©2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会

Hulu『うつヌケ』田中直樹

『うつヌケ』
Huluにて配信中

部活リポート

実際に“うつ”からヌケた経験を持つ田中圭一の漫画「うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち」(KADOKAWA刊)をオムニバス形式でドラマ化。さまざまなうつの事例をわかりやすく描いていて、うつに対しての認識が深まります。

©2018「うつヌケ」製作委員会

『HOMELAND/ホームランド』
Amazonプライムビデオにてレンタル配信中
DVDレンタル&発売中

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

主人公のキャリーは双極性障害を抱えながら、難事件に立ち向かっていきます。通常は薬を服用していますが、勘を鈍らせたくないと薬を断ってしまう時もあり、鋭い洞察を持って行動したとしても、その精神状態の不安定さによって周囲の人の理解を得られないこともある点で、キャリーは人一倍苦難を強いられてしまいます。

HOMELAND/ホームランド シーズン7 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]

©2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』 映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~【レビュー】

プペルを探しに行く話なのかなと予想していたものの、ストーリーの軸は意外な…

映画『鬼の花嫁』永瀬廉/吉川愛 鬼の花嫁【レビュー】

2020年に刊行された原作者クレハによる小説を映画化した本作は、あやかし(鬼、天狗、河童、九尾の狐など、超越した能力を持つ種族)と人間が共存する世界を舞台に…

映画『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』山田杏奈 山田杏奈【ギャラリー/出演作一覧】

2001年1月8日生まれ。埼玉県出身。

「宮﨑駿のパノラマボックス」メディア取材会、宮崎吾朗監督、鈴木敏夫プロデューサー スタジオジブリの新作映画は!?宮崎吾朗監督&鈴木敏夫プロデューサーが本音で語る宮﨑駿監督の近況【宮﨑駿のパノラマボックス】メディア取材会

スタジオジブリにて、このパノラマボックスに関する記者会見が開かれました。和やかな雰囲気のなか、パノラマボックスのお話、最近の宮﨑駿監督の様子など、貴重なお話をたくさんお聞きしました。以下、ほぼフルバージョンで掲載します。

映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』峯田和伸/若葉竜也/吉岡里帆 ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。【レビュー】

写真家、地引雄一の自伝的エッセイ「ストリート・キングダム」を、田口トモロヲ監督が映画化した本作は…

映画『決断するとき』キリアン・マーフィー/エミリー・ワトソン 決断するとき【レビュー】

主演はキリアン・マーフィー、監督はベルギー出身のティム・ミーランツが務め、製作総指揮はベン・アフレック、製作にはマット・デイモンも名を連ねています…

映画『カミング・ホーム』ベン・キングズレー/ハリエット・サンソム・ハリス/ジェーン・カーティン カミング・ホーム【レビュー】

シニア世代の静かな日常を描いたホッコリかわいいストーリーでありながら、意外にも大きなスケールで、ある意味ぶっ飛んでいる奇想天外な…

韓国ドラマ『愛の不時着』ソン・イェジン ソン・イェジン【ギャラリー/出演作一覧】

1982年1月11日生まれ。韓国、ソウル出身。

映画『グッバイ・クリストファー・ロビン』ドーナル・グリーソン 未公開映画活性課カ行

未公開作品のなかから、当部が気になる作品、オススメしたい作品をご紹介。

映画『全知的な読者の視点から』イ・ミンホ/アン・ヒョソプ/チェ・スビン/シン・スンホ/ナナ/ジス/クォン・ウンソン 全知的な読者の視点から【レビュー】

原作を知らず、タイトルのみ見ると、現実世界の日常を描いた作品だと思う方もいるでしょう。でも、本作はファンタジー・アクション映画で…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『国宝』吉沢亮 映画好きが選んだ2025邦画ベスト

今回は、正式部員の皆さんに投票していただいた2025年邦画ベストの結果を発表!2025年の邦画ベストで上位にランクインしたのはどの作品でしょう?

ショートドラマ『復讐同盟 —サレ妻と愛人はクズ旦那を制裁する—』 私ならこうする!『復讐同盟 —サレ妻と愛人はクズ旦那を制裁する—』を観た女子の本音

ショートドラマ『復讐同盟 —サレ妻と愛人はクズ旦那を制裁する—』をトーキョー女子映画部正式部員の皆さんに観ていただき、感想や「私ならこうする!」を聞いてみました。

映画『ユージュアル・サスペクツ』ガブリエル・バーン/スティーヴン・ボールドウィン/ケヴィン・スペイシー/ケヴィン・ポラック あの名作をリメイクするとしたら、誰をキャスティングする?『ユージュアル・サスペクツ』

今回の「勝手にキャスティング企画!」では、『ユージュアル・サスペクツ』のリメイクを作るとしたら?と…

学び・メンタルヘルス

  1. 【映画学ゼミ第6回】「鑑賞者のローカス・オブ・コントロールと、映画鑑賞における着眼点・感想の関係」参加者募集!
  2. 【映画学ゼミ第5回】「登場人物にみる人間の非合理性」参加者募集!
  3. 映画『グッドワン』リリー・コリアス

REVIEW

  1. 映画『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』
  2. 映画『鬼の花嫁』永瀬廉/吉川愛
  3. 映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』峯田和伸/若葉竜也/吉岡里帆
  4. 映画『決断するとき』キリアン・マーフィー/エミリー・ワトソン
  5. 映画『カミング・ホーム』ベン・キングズレー/ハリエット・サンソム・ハリス/ジェーン・カーティン

PRESENT

  1. 映画『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』イ・レ
  2. 映画『キング・オブ・キングス』
  3. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP