心理学

心理学から観る映画12-1:自分への誹謗中傷を無視できない理由

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映画『ザ・サークル』エマ・ワトソン

インターネットやSNSが普及してから、誹謗中傷を原因とする自殺が社会問題の1つに加わりました。「傷付く可能性がわかっているなら、ネットやSNSを見なければ良い」という考えの人もいますが、それがわかっていても見てしまうのは、なぜなのでしょうか?

傷付く可能性を知りながら、自分への評価を見てしまう心理とは

ここでの考察は、ネット上での誹謗中傷が原因で亡くなられた方の心理に特化したものではないことを最初にお伝えした上で、なぜSNSやネット上の誹謗中傷による被害があることを知りながら、人は自分に対する評価を見ようとしてしまうのかを考えてみます。

認知的不協和理論で知られるフェスティンガーは「人には自分の意見や能力を正確に評価したいという欲求がある」としています(堀ほか 2009)。その手段の1つとして他者の反応、意見を知りたくなりネットを見るのだと考えられますが、その内容が良いか悪いかよりも「まず知りたい」という欲求が先立つのではないでしょうか。このことから、エゴサーチをしてしまう気持ち、マイナスなことが書いてある可能性を知りながら自分のSNSへのコメントを読んでしまう気持ちが想起されるのは自然なことだと考えられます。

また、自己呈示理論から社交不安を考えたアメリカの心理学者リアリーによると、「社交不安は、他者によい印象を与えたい欲求があるのに、そうできる自信がないときに生じる」としています。ここには自己効力感が深く結びついていて、自己呈示欲求(他者によい印象を与えたいという欲求)が強く、自己効力感(他者からよい評価を受ける自信、ないし自分が望む自己イメージをつくれるかどうかの主観的確率)が弱い場合、社会不安は強くなり、逆の場合、社会不安は弱くなるとしています(丹野ほか 2015)。

なので、自己効力感が保てているうちはエゴサーチをして自分の良からぬ評価を目にしても、「もっと頑張ろう!」などと前向きに考えられるかも知れませんが、自己効力感が落ちてしまうと精神的ダメージのほうが大きくなってきます。もし誹謗中傷が繰り返され、悪意を感じる度合いがエスカレートすれば、自己呈示欲求と自己効力感のバランスが崩れて、精神的な限界に達し、精神疾患に至ることも考えられます。

映画『ディス/コネクト』

SNSで「いいね」の獲得数などを気にする“承認欲求(賞賛獲得欲求)”も注目されるようになり、欧米文化では一般的とされていますが、丹野ほか(2015)では、「日本では社会不安を強めるのは、賞賛獲得欲求ではなく、むしろ拒否回避欲求のほうであることがわかった」と記されています。そう考えると、私達日本人の多くは、否定されればされるほどそこに意識が向いてしまい、もがき苦しむ状況に陥ってしまうのも想像に難くありません。

さらに無藤ほか(2018)は、自尊感情が高い場合には、ストレスが低く情緒的に安定し、困難に直面してもあきらめず積極的に対処しようとし、反対に自尊感情が低い場合は、学習への動機づけや親和性、人生満足度が低く、非行や抑うつ、攻撃行動などさまざまな問題が生じやすいと述べています。

なので、どんなに強い精神力があったとしても、誹謗中傷によって自尊心が傷つけられていくことで、その力は削がれてしまいます。そして、素直な人、真面目な人、向上心の強い人ほど、他者の意見や反応をストレートに受けて何とかしようとしてしまい、どんどんその意識に囚われていくのかも知れません。

これは誰もが陥る可能性がある問題です。それを意識した上でネット、SNSをどう利用するか、適切な判断をしなければいけないなと思います。

次回は自己注目と抑うつの関係に触れます。

<参考・引用文献>
堀洋道・吉田富二雄・松井豊・宮本聡介ほか(2009)「新編 社会心理学〔改訂版〕」福村出版
丹野義彦・石垣琢磨・毛利伊吹・佐々木淳・杉山明子(2015)「臨床心理学」有斐閣
無藤隆・森敏昭・遠藤由美・玉瀬耕治(2018)「心理学」有斐閣

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SNSのメリットとデメリットを考えさせられるストーリー。ネット上だけでは見えない、人々のさまざまな問題が浮き彫りになっていきます。

ディス/コネクト(字幕版)

© DISCONNECT, LLC 2013

『ザ・サークル』
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REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

世界No.1のシェアを誇る超巨大SNS企業に就職した主人公が、自分の生活を24時間すべて公開するという新サービスのモデルケースに抜擢され、アイドル的存在になっていきます。でも、それでハッピーとなるわけはなく…。

ザ・サークル(字幕版)

©2017 STX FINANCING, LLC.

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

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  2. 映画『サユリ』
  3. 映画『ボストン1947』ハ・ジョンウ/イム・シワン
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