学び・メンタルヘルス

心理学から観る映画36:人を殺しておいて、なぜ逃げ切れると判断してしまうのか【プロスペクト理論】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『ノイズ』藤原竜也/松山ケンイチ

後から考えれば「なんであんな判断をしちゃったんだろう?」って思う経験は誰にでもあると思います。映画のキャラクター達を観ていてもそう思うことが多々あります。今回は、人間の判断が合理的なようで合理的でない背景には、どんな心理があるのかご紹介します。

人間の不可解な判断や行動を説明する理論に、カーネマンとトヴァスキーのプロスペクト理論があります。この理論に基づく価値関数では、「利益も損失も絶対値が小さいうちは変化に対して敏感であるが、利益や損失の絶対値が大きくなると、変化に対して鈍感になる(箱田ほか,2010)」とされています。

映画『ノイズ』藤原竜也

映画『ノイズ』では、泉圭太(藤原竜也)、田辺純(松山ケンイチ)、守屋真一郎(神木隆之介)の3人が、自分達が暮らす孤島にやってきた不審者を見つけて、揉み合った拍子に意図せず殺してしまいます。ここで客観的に状況を観ている観客からすると、警察や周囲の人に真実を話すのが最善の策だと考えるはずですが、彼等は隠蔽するという選択をします。この背景には、泉圭太が中心となって進めている島復興のプロジェクトがあり、島で殺人が起き、それに自分達が関わっているとなると、そのプロジェクトが台無しになる=皆の期待を裏切る事態になるかもしれないという恐れがあります。

だとしても、冷静に考えればそんなことよりやっぱり罪を犯さないことを優先する判断が合理的だと思いますよね。では、なぜ彼等が極端な選択をしたのか、プロスペクト理論を基に考えてみましょう。皆さんもご自身ならどちらを選ぶか、考えてみてください。

A:確実に1000円もらえる。
B:50%の確率で2000円もらえる。

この選択肢を出された場合、多くの人がAを選ぶとされています。人は得をする状況では確実に得をするほうを選び、損をするリスクは回避する傾向にあるということです。次の選択肢ではどうでしょうか?

C:確実に1000円失う。
D:50%の確率で2000円失う。

この場合、Cを選ぶ人のほうが多いとされています。人は得をする時と逆で、確実に損をすることを嫌い、失う額が大きくても失わない確率にかけると考えられています。

つまり、人は利得よりも損失のダメージのほうが大きいと感じ、ポジティブな出来事よりもネガティブな出来事に対して敏感なのです。また、低い客観的確率は主観的には過大評価され、中程度以上の客観的確率は主観的には過小評価されるとも言われています。前者の例としては、宝くじで当たる確率は低いのに当たりそうだと考えること。後者の例は、80%の確率で合格する試験でも受験者にとっては合格確率が高いと感じられないといったことです(箱田ほか,2010)。

映画『ノイズ』藤原竜也/松山ケンイチ/神木隆之介

映画『ノイズ』の3人の状況に置きかえてみると、孤島で人が死んだことがバレる確率は客観的に考えると高いですが、この3人は見つかる可能性は低いと考えているといえます。同時に正直に話せば罪に問われない可能性が高いはずですが、その確率は高くないと考えていることになります。

人を殺してしまうというシチュエーションは極端ですが、私達も日常で多くの判断をする上で、プロスペクト理論に当てはまるような判断をしていると思うと、映画『ノイズ』の3人の行動も一層身近に感じられますね。人間の判断と意思決定には、ヒューリスティックも関連していると考えられていますが、それはまた別の作品でご紹介できればと思います。

<参考・引用文献>
箱田裕司・都築誉史・川畑秀明・萩原滋(2010)「認知心理学」有斐閣

映画『ノイズ』藤原竜也/松山ケンイチ/神木隆之介/黒木華/永瀬正敏

『ノイズ』
2022年1月28日より全国公開

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

1つの誤った判断から雪だるま式にややこしい展開になっていきますが、そうやって問題が大きくなればなるほど判断力を失う=鈍感になるというのもよく表れたストーリーです。

©筒井哲也/集英社 ©2022映画「ノイズ」製作委員会

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『SAKAMOTO DAYS』目黒蓮/高橋文哉/上戸彩/横田真悠/塩野瑛久/渡邊圭祐/戸塚純貴/八木勇征/生見愛瑠/北村匠海 SAKAMOTO DAYS【レビュー】

原作を未読、本作の前情報もほぼなしの状態なら、ふくよかな主人公を誰が演じているのか知らずに観るワクワクが…

ドラマ『share』秋田汐梨さん&池田匡志さんインタビュー ドラマ『Share』秋田汐梨さん&池田匡志さんインタビュー

秋田汐梨さんと池田匡志さんがW主演を務める本作は、累計発行部数30万部を突破した三つ葉優雨の人気コミック「share」を原作としています…

映画『黄金泥棒』田中麗奈 田中麗奈【ギャラリー/出演作一覧】

1980年5月22日生まれ。福岡県久留米市出身。

【映画でSEL】イメージイラストドアの奥に草原 セルフ・モニタリングとモデリングの機会となる映画鑑賞(論文紹介)&映画でSELラボOPEN!

株式会社TSトーキョーは、映画でSELラボをオープンしました!

映画『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』 ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー【レビュー】

スーパーマリオは、2025年に40周年を迎え、世界中で長らく愛されてきたキャラクター…

映画『これって生きてる?』ウィル・アーネット これって生きてる?【レビュー】

なんとも生々しい夫婦の現実を描いているなと思って観ていたら…

映画『90メートル』山時聡真 山時聡真【ギャラリー/出演作一覧】

2005年6月6日生まれ。東京都出身。

映画『霧のごとく』ケイトリン・ファン/ウィル・オー 『霧のごとく』一般試写会 3組6名様ご招待

映画『霧のごとく』一般試写会 3組6名様ご招待

映画『人はなぜラブレターを書くのか』綾瀬はるか 人はなぜラブレターを書くのか【レビュー】

タイトルから想像する範囲を超える、深い人間ドラマが描かれている本作は、実話を基にして…

映画『君と僕の5分』シム・ヒョンソ/ヒョン・ウソク 『君と僕の5分』特別試写会イベント 5組10名様ご招待

映画『君と僕の5分』特別試写会イベント 5組10名様ご招待

【映画でSEL】にたどりつくまでの道

今のあなたに必要な非認知能力を伸ばす【映画でSEL】プログラムのご案内

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

【映画でSEL】イメージイラストドアの奥に草原 セルフ・モニタリングとモデリングの機会となる映画鑑賞(論文紹介)&映画でSELラボOPEN!

株式会社TSトーキョーは、映画でSELラボをオープンしました!

【映画学ゼミ第7回】「そもそも感情ってどうやって湧いてくるの?感情の仕組み」参加者募集! 【映画学ゼミ第7回】「そもそも感情ってどうやって湧いてくるの?感情の仕組み」参加者募集!

感情はまだまだ謎が多く、本当に複雑で深い概念だからこそおもしろい!感情について少しでも知ることで、自分自身の情動コントロールにも少し役立つはずです。

映画『国宝』吉沢亮 映画好きが選んだ2025邦画ベスト

今回は、正式部員の皆さんに投票していただいた2025年邦画ベストの結果を発表!2025年の邦画ベストで上位にランクインしたのはどの作品でしょう?

学び・メンタルヘルス

  1. 【映画でSEL】イメージイラストドアの奥に草原
  2. 【映画学ゼミ第7回】「そもそも感情ってどうやって湧いてくるの?感情の仕組み」参加者募集!
  3. 【映画学ゼミ第6回】「鑑賞者のローカス・オブ・コントロールと、映画鑑賞における着眼点・感想の関係」参加者募集!

REVIEW

  1. 映画『SAKAMOTO DAYS』目黒蓮/高橋文哉/上戸彩/横田真悠/塩野瑛久/渡邊圭祐/戸塚純貴/八木勇征/生見愛瑠/北村匠海
  2. 映画『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』
  3. 映画『これって生きてる?』ウィル・アーネット
  4. 映画『人はなぜラブレターを書くのか』綾瀬はるか
  5. 映画『五月の雨』安川まり

PRESENT

  1. 映画『霧のごとく』ケイトリン・ファン/ウィル・オー
  2. 映画『君と僕の5分』シム・ヒョンソ/ヒョン・ウソク
  3. 映画『オールド・オーク』デイヴ・ターナー/エブラ・マリ
PAGE TOP