学び・メンタルヘルス

心理学から観る映画42:【映画でウェルビーイングを見つける】Vol.1『70歳のチア・リーダー』

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『70歳のチア・リーダー』カレンダー・ガールズ

映画を心理学的視点から観るこの“心理学”コーナーで、新しい取り組みを始めます。私は映画好きの父の影響で幼い頃から映画をたくさん観て育ちました。映画はいつも私のそばにあり、私を楽しませ、励まし、助けてくれる存在です。そんな映画にはきっと娯楽以上の力があると信じ、私自身、映画鑑賞によって何か幸せに通じるヒントをいつももらっていると感じています。そのメカニズムを探るべく、私は現在、商業映画鑑賞とウェルビーイングの研究を行っています。

そこで、新しい取り組みとして【映画でウェルビーイングを見つける】と題した企画を始動します。本企画では、ウェルビーイングを導き出す映画鑑賞法をご紹介していきます。ただ、この取り組みは今ここからスタートしますので完成形ではありません。これからどんどん進化させていきたいと思います。ぜひ、気に入ったらこの鑑賞法を試してみてください。

ウェルビーイング(Well-being)とは

●身体的・精神的・社会的に良い状態にあること(文部科学省)
●持続的な幸福のあり方(セリグマン,2014)

ウェルビーイングとは、上記のように定義されています。英語で“Well-being”と表すとおり、直訳すると“良好な状態”を意味します。ただ、これではあまりにも抽象的です。もう少し具体的な説明として、前野・前野(2022)の説明を引用すると、「狭い意味での心身の健康だけでなく、心の豊かな状態である幸福と、社会の良好な状態をつくる福祉を合わせた、心と体と社会のよい状態がウェルビーイングです。したがって、『楽しい』『うれしい』など幸せの感情の一部を表す英語のハピネスとはニュアンスが違います」とあります。

映画『70歳のチア・リーダー』カレンダー・ガールズ

これでニュアンスとしてのウェルビーイングは何となくご理解いただけたとは思います。さらにウェルビーイングはどんな要素で構成されているのかを見てみましょう。ポジティブ心理学の創始者の一人、セリグマン(2014)によるとウェルビーイングは下記の要素から構成されています(諸説あり)。補足部分は一部こちらで噛み砕いた表現に変えています。

ウェルビーイング=「持続的な幸福のあり方」

  • ポジティブ感情
  • エンゲージメント(何かに夢中になり没我する感覚。フロー状態と関係がある)
  • 意味・意義
  • ポジティブな関係性
  • 達成感

※ウェルビーイングの構成要素は研究者によって諸説ある中で、上記は、セリグマン(2014)を採用しています。

でも、上記の概念が日常でどういう状況を指すのか、まだピンとこない方もいらっしゃると思います。そこで、私は映画鑑賞を通して、ウェルビーイングは何かを知り、実際の生活で何をどうすればよいか、ヒントを得られるのではないかと思い付きました。1作、1作とウェルビーイングを意識した視点で観ていくうちに、私達がウェルビーイングを実現できれば良いなと思っています。

今回の題材映画

映画『70歳のチア・リーダー』カレンダー・ガールズ

『70歳のチア・リーダー』
2023年6月23日より全国順次公開
パンドラ
監督・製作・撮影・編集:マリア・ルーフヴード/ローヴェ・マルティンセン
出演:カレンダー・ガールズ(キャサリン・ハーディ・ショートリッジ/フラン・ド・ニケ/ナンシー・ミラー/スー・クーンス/パトリシア・ヒンショー・ダースヘム)
公式サイト

本作は、“カレンダー・ガールズ”と称したダンスチームとして、さまざまな慈善活動を行っている女性達の日常を描いたドキュメンタリーです。さまざまな事情を抱えながらも、“カレンダー・ガールズ”の活動に生き甲斐を見いだし、輝く姿が映し出されています。本作をウェルビーイングを構成する5つのポイントに照らし合わせてみます。

映画『70歳のチア・リーダー』カレンダー・ガールズ

『70歳のチア・リーダー』に観る、ウェルビーイング5つのポイント

■ポジティブ感情:踊るのが楽しい、仲間といて楽しい、可愛い衣装を着て楽しい、観客に喜んでもらって嬉しい
■エンゲージメント:ダンスをしている時は何もかも忘れる(フロー状態)
■意味・意義:ボランティア、社会貢献
■ポジティブな関係性:チームメイトとの絆
■達成感:喝采を浴びる、カレンダーが売れる、(新人さんは)踊れるようになる

上記はあくまで私の視点です。皆さんも自由に感じたまま当てはめて観てみてください。

本作は、ウェルビーイングを構成する5つのポイントに結びつくシーンがわかりやすいと思います。ただ、ウェルビーイングは「持続的な幸福のあり方」と定義されるように、一時的に実現するだけでは成立しません。そういう意味でも本作は参考になります。

彼女達にはもちろんそれぞれ背景があり、全く不満がないわけではありません。また、家庭の事情や体調の変化など、ずっと同じ状況でもありません。でも、状況の変化に合わせて、必要な決断をしています。
例えば、病気で体力がなくなりダンサーとして続けられなくなってもスタッフとして参加したり、夫のいうままになっていたけれど自分が好きなようにすると行動に移してみたり、孫が生まれて娘を手伝っていたけど自分は充分これまで家族に尽くしてきたからと自分が好きなダンスをやろうと決意をします。

彼女達の姿には、ウェルビーイング=「持続的な幸福のあり方」を実現するヒントが多く隠されています。ぜひ皆さんも彼女達の立場にたってシミュレーションしてみてください。

今後も不定期にさまざまな作品を題材に本企画を続けていきますので、お楽しみに。

<参考・引用文献>
文部科学省「ウェルビーイングの向上について(次期教育振興基本計画における方向性)」中央教育審議会教育振興基本計画部会(第13回)会議資料【資料8】
マーティン・セリグマン(2014)(宇野カオリ訳)『ポジティブ心理学の挑戦“幸福”から“持続的幸福”へ』ディスカヴァー・トゥエンティワン,東京
前野隆司・前野マドカ(2022)『ウェルビーイング』日本経済新聞出版

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『グレイ・ミッション』ヘンリー・カヴィル/ジェイク・ギレンホール グレイ・ミッション【レビュー】

『コードネーム U.N.C.L.E.』と同様に、女性1名、男性2名のトリオで魅せる作品でありつつ、本作では女性がボスという設定に特徴があります…

映画『君の見る世界をなぞる』エロワ・ポユ/マクシム・スリヴィンスキー 君の見る世界をなぞる【レビュー】

一見恵まれた環境にいるエンゾは、自分のアイデンティティに悩まされ、居場所を見出せずにいます…

映画『ヒンド・ラジャブの声』 『ヒンド・ラジャブの声』トークイベント付き特別試写会10組20名様ご招待

『ヒンド・ラジャブの声』トークイベント付き特別試写会10組20名様ご招待

映画『ドラマなふたり』ゼンデイヤ/ロバート・パティンソン ドラマなふたり【レビュー】

その告白は一生添い遂げるつもりでいた相手の自信を簡単にくじく威力を持っています。本作はある種の“残酷”さが込められたラブストーリー…

映画『冴えないボクと映えるキミ』アビシャン・ジーヴィント/アナスワラ・ラージャン 『冴えないボクと映えるキミ』公開直前試食会 2組4名様プレゼント

映画『冴えないボクと映えるキミ』公開直前試食会 2組4名様プレゼント

映画『左利きの少女』ニーナ・イエ/マー・シーユエン 左利きの少女【レビュー】

ツォウ・シーチン 監督は、『テイクアウト』(2004)でショーン・ベイカーと共同で監督と脚本を務めて以降、プロデューサーとしてショーン・ベイカーを支えてきた人物です…

映画『Never After Dark/ネバーアフターダーク』穂志もえか 穂志もえか【ギャラリー/出演作一覧】

1995年8月23日生まれ。千葉県出身。

映画『キングダム 魂の決戦』山﨑賢人 映画レビュー&ドラマレビュー総合アクセスランキング【2026年7月】

映画レビュー&ドラマレビュー【2026年7月】のアクセスランキングを発表!

【映画学ゼミ第10回】「メタ認知が働く映画鑑賞、そうでない映画鑑賞、何が違う?」参加者募集! 【映画学ゼミ第10回】「メタ認知が働く映画鑑賞、そうでない映画鑑賞、何が違う?」参加者募集!

メタ認知は、自分で自分をわかるために必要な認知機能です。今回は、映画鑑賞においてメタ認知の働きによって、鑑賞後の印象が変わるはずという仮説のもと、メタ認知が働く映画鑑賞とそうでない映画鑑賞で何が異なるのかを一緒に考えます。本ゼミでは、映画鑑賞に絡めて日常にも役立つ心理学を取り上げています。

映画『四十九-SEEK』映画祭受賞、浅野寛介、シェイン・コスギ監督 日本映画界に希望をもたらす制作の仕組みを実現!『四十九-SEEK』浅野寛介さん(主演・プロデューサー)&シェイン・コスギ監督インタビュー

CGに頼らず生身の肉体で魅せる“本物のアクション”で、世界17ヵ国42の映画祭でセレクション入り、12ヵ国で82の賞を受賞した『四十九-SEEK』は、独自の“劇場公開前リクープ(投資回収)”エコシステムで作られました。今回は、このシステムについてのお話を中心に、主演でプロデューサーを兼務した浅野寛介さんと、監督・編集と海外交渉を担当したシェイン・コスギさんにお話をお伺いしました。

【映画でSEL】にたどりつくまでの道

今のあなたに必要な非認知能力を伸ばす【映画でSEL】プログラムのご案内

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

【映画学ゼミ第10回】「メタ認知が働く映画鑑賞、そうでない映画鑑賞、何が違う?」参加者募集! 【映画学ゼミ第10回】「メタ認知が働く映画鑑賞、そうでない映画鑑賞、何が違う?」参加者募集!

メタ認知は、自分で自分をわかるために必要な認知機能です。今回は、映画鑑賞においてメタ認知の働きによって、鑑賞後の印象が変わるはずという仮説のもと、メタ認知が働く映画鑑賞とそうでない映画鑑賞で何が異なるのかを一緒に考えます。本ゼミでは、映画鑑賞に絡めて日常にも役立つ心理学を取り上げています。

映画『ボヘミアン・ラプソディ』ラミ・マレック 映画好きが選んだ実在アーティストの伝記映画ランキング

今回は実在アーティストの伝記映画について、正式部員の皆さんに投票してもらいました。さまざまな有名アーティストにまつわる作品がある中で上位にランクインしたのはどの作品でしょうか?

映画『ズートピア2』 映画好きが選んだ2025アニメ映画ベスト

今回は、2025年に劇場公開されたアニメ映画について、正式部員の皆さんによる投票結果ベスト30を発表!2025年のアニメ映画ベストに輝いたのは?

学び・メンタルヘルス

  1. 【映画学ゼミ第10回】「メタ認知が働く映画鑑賞、そうでない映画鑑賞、何が違う?」参加者募集!
  2. 映画『四月の余白』一ノ瀬ワタル/上阪隼人
  3. 【映画学ゼミ第9回】「作品との心理的距離感に影響を与え得る情動知能」参加者募集!

REVIEW

  1. 映画『グレイ・ミッション』ヘンリー・カヴィル/ジェイク・ギレンホール
  2. 映画『君の見る世界をなぞる』エロワ・ポユ/マクシム・スリヴィンスキー
  3. 映画『ドラマなふたり』ゼンデイヤ/ロバート・パティンソン
  4. 映画『左利きの少女』ニーナ・イエ/マー・シーユエン
  5. 映画『キングダム 魂の決戦』山﨑賢人

PRESENT

  1. 映画『ヒンド・ラジャブの声』
  2. 映画『冴えないボクと映えるキミ』アビシャン・ジーヴィント/アナスワラ・ラージャン
  3. 映画『猫たちと7000マイルの旅』ケイティ・マクヒュー
PAGE TOP