REVIEW

イニシェリン島の精霊【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『イニシェリン島の精霊』コリン・ファレル/ブレンダン・グリーソン

タイトルに“精霊”とついているので、穏やかなストーリーなのかと思いきや、とんでもなく激しいストーリーです。物語の舞台は、1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。島からは本土で内戦が起こっている様子がわかります。イニシェリン島に長らく住んでいるパードリック(コリン・ファレル)は、長年の親友コルム(ブレンダン・グリーソン)といつもの通り酒場で飲もうと誘います。でも、コルムはパードリックに突然絶縁を言い渡したばかりでなく、もし今後自分に話しかければどうなるかと、恐ろしい宣言をします。コルムがパードリックにした宣言は「どうせ口先だけだろ?」と思うような過激な行為です。でも、コルムの意志は思った以上に堅く、2人の絶縁は現実のものになっていきます。
本作を観ていると「一体、何が起きているんだろう?」と終始困惑させられます。まさに観客はパードリックの困惑をそのまま体感させられるともいえます。ただ、1923年という時代、島の向こう側で内戦が起こっているという背景から、パードリックとコルムの関係は、北アイルランド問題を比喩しているのではないかと解釈できます。つまり、元々仲間だったのに絶縁し緊張関係にある2人は、北アイルランド問題を巡って分断されたアイルランドの状況を人間関係になぞらえて表現されたものだと考えると、物語の捉え方が変わってきます。心のどこかで繋がりを感じていながら、距離をとり、仲直りできそうでできない、もどかしい2人の関係は、アイルランドと北アイルランドの複雑な関係を絶妙に表現しています。
主演のコリン・ファレルとブレンダン・グリーソンや、共演のバリー・コーガンは共にアイルランド出身の俳優で、本作の製作国はイギリス、アメリカ、アイルランドとなっています。キャストやスタッフにとって、そして本作を観るアイルランドやイギリスの方々にとって、私達日本人が想像する以上に特別な意味がある作品だと考えられます。同時に、こういった関係はアイルランドに留まらず、ロシアのウクライナ侵攻や中東戦争などにも通じるものを感じます。また、比喩として捉えるだけではなく、国の問題であったとしても、根本は人間の感情から生まれた問題であるということも表現しているのかもしれません。ここまで述べたのはあくまで私の解釈ですが、皆さんもいろいろな解釈をしてみてください。

デート向き映画判定
映画『イニシェリン島の精霊』コリン・ファレル/バリー・コーガン

ショッキングなシーンが何度か出てくるので、デートには向かないでしょう。ただし、世界情勢に関心が深いカップルなら、観終わった後に議論したくなる要素があると思います。逆に、自分は映画を観て解釈を膨らませるのが好きだけれど、相手はあまり得意ではないという場合は、観終わった後の充実感にズレが出る可能性があります。その場合は1人でじっくり観るか、同じテンションで観られる友達を誘いましょう。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『イニシェリン島の精霊』ブレンダン・グリーソン

ホラーやスリラーの類ではありませんが、ビジュアル的にショッキングなシーンが何度か出てきます。なので、大きくなってから観るほうが良さそうです。さまざまな解釈ができそうですが、アイルランドの歴史に絡めたストーリーであると思われるので、アイルランドの大まかな歴史、イギリスとの関係について予め調べてから観ることをオススメします。

映画『イニシェリン島の精霊』コリン・ファレル/ブレンダン・グリーソン

『イニシェリン島の精霊』
2023年1月27日より全国公開
PG-12
ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト

©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『消滅世界』蒔田彩珠 消滅世界【レビュー】

ジェンダー、セックスのどちらにおいてもこれまでの常識を覆す価値観が浸透した世界を描いた本作は、村田沙耶香著の同名小説を原作として…

映画『ナイトフラワー』森田望智 森田望智【ギャラリー/出演作一覧】

1996年9月13日生まれ。神奈川県出身。

映画『佐藤さんと佐藤さん』岸井ゆきの/宮沢氷魚 佐藤さんと佐藤さん【レビュー】

同じ佐藤という苗字のサチ(岸井ゆきの)とタモツ(宮沢氷魚)は、セリフにも出てくるように「結婚しても離婚しても佐藤」です…

映画『楓』福士蒼汰/福原遥 『楓』カバーアーティスト、十明による“楓”生歌唱付き&サプライズゲスト登壇!特別試写会 9組18名様プレゼント

映画『楓』カバーアーティスト、十明による“楓”生歌唱付き&サプライズゲスト登壇!特別試写会 9組18名様プレゼント

映画『兄を持ち運べるサイズに』柴咲コウ/オダギリジョー/満島ひかり/青山姫乃/味元耀大 兄を持ち運べるサイズに【レビュー】

原作は、村井理子が書いたノンフィクションエッセイ「兄の終い」…

映画『楓』旅からはじまるトラベルポーチ 『楓』旅からはじまるトラベルポーチ 3名様プレゼント

映画『楓』旅からはじまるトラベルポーチ 3名様プレゼント

映画『見はらし世代』井川遥 井川遥【ギャラリー/出演作一覧】

1976年6月29日生まれ。東京都出身。

映画『WEAPONS/ウェポンズ』 WEAPONS/ウェポンズ【レビュー】

ある町から突然17人の子どもが同時に行方不明になるところから始まる本作は、“IT/イット”“死霊館”シリーズなど、傑作ホラーを多数世に送り出してきた…

映画学ゼミ2025年12月募集用 人間特有の感情や認知の探求【映画学ゼミ第3回】参加者募集!

今回は、N「湧き起こる感情はあなたの性格とどう関連しているのか」、S「わかりやすい映画、わかりにくい映画に対する快・不快」をテーマに実施します。

映画『ナイトフラワー』北川景子/森田望智 ナイトフラワー【レビュー】

『ミッドナイトスワン』で第44回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した内田英治監督が、“真夜中シリーズ”と銘打つ本作は…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画学ゼミ2025年12月募集用 人間特有の感情や認知の探求【映画学ゼミ第3回】参加者募集!

今回は、N「湧き起こる感情はあなたの性格とどう関連しているのか」、S「わかりやすい映画、わかりにくい映画に対する快・不快」をテーマに実施します。

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ウェス・アンダーソン監督 映画好きが選んだウェス・アンダーソン監督人気作品ランキング

今回は、ウェス・アンダーソン監督作品を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。人気作品が多くあるなか、上位にランクインしたのは?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画学ゼミ2025年12月募集用
  2. 映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ
  3. 映画学ゼミ2025年11月募集用

REVIEW

  1. 映画『消滅世界』蒔田彩珠
  2. 映画『佐藤さんと佐藤さん』岸井ゆきの/宮沢氷魚
  3. 映画『兄を持ち運べるサイズに』柴咲コウ/オダギリジョー/満島ひかり/青山姫乃/味元耀大
  4. 映画『WEAPONS/ウェポンズ』
  5. 映画『ナイトフラワー』北川景子/森田望智

PRESENT

  1. 映画『楓』福士蒼汰/福原遥
  2. 映画『楓』旅からはじまるトラベルポーチ
  3. 映画『Fox Hunt フォックス・ハント』トニー・レオン
PAGE TOP