独り暮らしをする75歳の桃子の日常と、彼女の中の葛藤を描いた物語。原作は、55歳で夫を亡くした後、63歳で作家デビューした若竹千佐子の同名小説です。映画の冒頭は、「あれ、違う映画が始まった?」と思ってしまうような映像で始まりますが、一見繋がりがないように見えて、観ていくうちに大きなテーマで繋がっていることがわかります。私はここでテレンス・マリック監督の『ツリー・オブ・ライフ』を思い浮かべました。
映画全編を通して、桃子の日常が淡々と描かれていき、彼女にだけ見える分身のような存在の声に囲まれながら、ゆっくりとした日々が流れていきます。でも、心の中では孤独と戦っていたり、自分の人生が想像していたものではなかったのではないかという思いにふけったり、さまざまな思いが駆け巡っているのが伝わってきます。印象的だったのは、愛する夫に先立たれたことをどう受け止めているかというところです。夫が亡くなった時に彼女が感じた本音について、彼女はある種の罪悪感を持っているようなのですが、それをどう解釈し受け止めていくのかというところに、夫との深い絆と、人生の深みを感じます。
上映時間がやや長めで、桃子の時間の流れがリアルにゆっくりとゆっくりと描かれているので、人生って長いんだなというところも体感できます。転機が訪れても、そう簡単に日常が激変するわけでもないところもリアルで、私達も皆今後こういう時期を体験していくんだなとある種の心構えもできます。多くの不安を抱えながらも、一筋の光を見つけて強く生きていく桃子の姿は愛おしく、女性は自分のことを大切にして良いんだと改めて思えるはずです。
一生添い遂げようという人と観ると、余生をどう過ごしたいか、2人でいられるうちに何がしたいかなど、改めて話し合うきっかけにできそうです。結婚すると、どちらが先にこの世を去るかで残されたほうの人生が心配になりますが、自分がいなくなった後のことなどもお互いの希望を伝えておけると思います。夫婦の出会いから振り返るシーンもあるので、マンネリカップルや夫婦にも良い刺激になりそうです。
自分に置き換えて考えるにはまだ実感がわかないと思いますが、皆さんのおばあちゃんがこんな気持ちになっているのかなという理解は深まると思います。離れて暮らしていると、孫だけで祖父母に会う機会はなかなか作れませんが、皆さんの存在がおばあちゃん達の元気に繋がるので、ぜひたまには会いに行ってあげてください。主人公の桃子は、恐竜などの図鑑を見るのが好きですが、皆さんのおばあちゃんにも意外な趣味があるかもしれません。年が離れすぎて何を話せば良いかわからない人もいると思いますが、いつも何をしているのか話を聞いてみて、共通の話題が見つかると良いですね。
『おらおらでひとりいぐも』
2020年11月6日より全国公開
アスミック・エース
公式サイト
© 2020 「おらおらでひとりいぐも」製作委員会
TEXT by Myson