REVIEW

リアル・ペイン〜心の旅〜【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』ジェシー・アイゼンバーグ/キーラン・カルキン

REVIEW

“リアル・ペイン=本当の痛み”を感じるとは、どういうことなのでしょうか。そして、本当の痛みとは何なのでしょうか。本作には、さまざまな痛みを抱えたキャラクターが登場します。言い換えると、誰もが何かしらの痛みを抱えて生きているので、私達皆に通じるストーリーといえます。

映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』ジェシー・アイゼンバーグ/キーラン・カルキン

祖母を亡くした悲しみに暮れる従兄弟のベンジー(キーラン・カルキン)を励ますため、デヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)は、2人で祖母や自分達の祖国であるポーランドを訪れます。そこで、2人はホロコースト史ツアーに参加するものの、ベンジーは他の参加者を戸惑わせる言動をし、デヴィッドを困らせます。でも同時にベンジーのそうした態度によって、デヴィッドや他の参加者の本音も露わになっていきます。

映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』ジェシー・アイゼンバーグ/キーラン・カルキン

物語の序盤では、心に痛みを抱えたベンジーと、ベンジーを元気づけようとするデヴィッドという構図に見えつつ、そう単純なストーリーではありません。ベンジーとデヴィッドの性格にもさまざまな面が見えてくると同時に、彼等の言動に時に惑わされる人達の反応もさまざまで、同じ一つの悲しい出来事をどう受けとめるかは人によって異なる上に、正解はないと実感します。

映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』ジェシー・アイゼンバーグ

また、デヴィッド達がユダヤ人が迫害された歴史のあるポーランドの各所を巡るなかでも、人の痛みをどう受けとめるかという姿勢の違いが浮き彫りにされていきます。迫害、大量虐殺という歴史的にも大きな悲劇も描かれつつ、個人がそれぞれに日々抱えている痛みも描かれ、それらは過去の痛み、現在進行中の痛み、他者の痛み、身近な人の痛み、自分自身の痛みという見方もできます。私達の多くは特に他者の悲劇に対して慎み深くあろうとしながら、それは本当に他者を尊重できているのかという疑問も湧いてきます。本作では痛みを当事者の視点、他者の視点で描くことで、本当の痛みをわかることの難しさを突きつけてくるように感じます。

映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』ジェシー・アイゼンバーグ

本作は、主演も務めるジェシー・アイゼンバーグが監督と脚本を手掛けた作品です。映画公式資料によると、アイゼンバーグは、妻のアンナ・ストラウトとポーランドを旅行した時に、「叔母のドリスが、ホロコーストによって家族全員が追放される前に住んでいたというクラニシュワフ村の小さな家」を訪れ、「戦争がなかったら、僕はここで暮らしていただろう。僕の人生はどうなっていただろう?僕は何者なのだろう?」と考え始め、その時に得た“奇妙な天啓”が本作の背景になっているといいます。アイゼンバーグ自身のルーツに通じるストーリーである点で、当事者としての視点、第三者的な視点との両方で説得力のある描写が成されているのかなと思います。アイゼンバーグの監督、脚本家としての才能を存分に感じる作品です。また、ベンジーを演じるキーラン・カルキンの演技力の高さにも目を見張るものがあります。鑑賞後はさまざまな思考が巡る作品、ぜひご覧ください。

デート向き映画判定

映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』ジェシー・アイゼンバーグ/キーラン・カルキン

内容が深く、鑑賞中は各々見入ってしまいそうなので、デート気分を味わうという感覚にはなりづらいかもしれません。ただ、感想に人となりが表れそうなので、敢えて一緒に観て感想を話すと、自ずと相性がわかるのではないでしょうか。とはいえ、そもそも人の痛みをわかるのは難しいということを実感させられる内容なので、異なる感想を持ったとしてもお互いに認め合うことができれば良しとしましょう。

キッズ&ティーン向き映画判定

映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』ジェシー・アイゼンバーグ/キーラン・カルキン

他者の心の痛みは、本当の意味で分かち合うのは難しいし、受けとめ方や、表現の仕方がまったく異なる場合もあることが、本作を観るとわかるでしょう。そして、人は本当の痛みを見せないこともあるし、それが極端な形で急に表れることもあると知ることができると思います。正解はありませんが、そういうものだということを知っておくのは大切ではないでしょうか。本作を観て、自分の中に湧いてくる感情を観察してみてください。

映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』ジェシー・アイゼンバーグ/キーラン・カルキン

『リアル・ペイン〜心の旅〜』
2025年1月31日より全国公開
PG-12
ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト

ムビチケ購入はこちら
映画館での鑑賞にU-NEXTポイントが使えます!無料トライアル期間に使えるポイントも

©2024 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

TEXT by Myson

本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2025年1月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『ファイアーブランド ヘンリー8世最後の妻』アリシア・ヴィキャンデル/ジュード・ロウ ファイアーブランド ヘンリー8世最後の妻【レビュー】

REVIEW政治的手腕を発揮しながらも、暴君としてイギリス史に悪名を刻んだヘンリー8世には…

映画『聖なるイチジクの種』ソヘイラ・ゴレスターニ/マフサ・ロスタミ/セターレ・マレキ 聖なるイチジクの種【レビュー】

REVIEWイランでは2022年に、ある若い女性がヒジャブ(髪の毛を覆う布)を付けておらず…

映画『コメント部隊』ソン・ソック コメント部隊【レビュー】

情報社会になった現代、大きな組織による世論操作が行われているのではないかと…

映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』キーラン・カルキン キーラン・カルキン【ギャラリー/出演作一覧】

1982年9月30日生まれ。アメリカ出身。

映画『ドライブ・イン・マンハッタン』クリスティ・ホール監督インタビュー 『ドライブ・イン・マンハッタン』クリスティ・ホール監督インタビュー

ダコタ・ジョンソンとショーン・ペンの2人芝居で魅せる『ドライブ・イン・マンハッタン』で監督、脚本を務めたクリスティ・ホールさんにオンラインでインタビューをさせていただきました…

映画『愛を耕すひと』マッツ・ミケルセン 愛を耕すひと【レビュー】

イダ・ジェッセンによる史実に基づく歴史小説“The Captain and Ann Barbara(英題)”を原作に…

映画『嘘喰い』白石麻衣 白石麻衣【ギャラリー/出演作一覧】

1992年8月20日生まれ。群馬県出身。

映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』来日スペシャルレッドカーペットイベント:ティモシー・シャラメ ボブ・ディランの音楽がいかに僕にインパクトを与えたかわかるはず『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』ティモシー・シャラメ来日

第97回アカデミー賞8部門にノミネートされている『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』でボブ・ディランを演じたティモシー・シャラメが来日…

映画『ロングレッグス』マイカ・モンロー 『ロングレッグス』トークイベント付き試写会 5組10名様ご招待

映画『ロングレッグス』トークイベント付き試写会 5組10名様ご招待

映画『ブルータリスト』エイドリアン・ブロディ/フェリシティ・ジョーンズ ブルータリスト【レビュー】

タイトルになっている“ブルータリスト”は「残忍な」という意味の単語ですが、“ブルータリズム”と呼ばれる建築様式にもかけて付けられていると考えられます…

部活・イベント

  1. 【ARUARU海ドラDiner】サムライデザート(カップデザート)
  2. 【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX
  3. 【ARUARU海ドラDiner】サポーター集会:パンチボール(パーティサイズ)
  4. 【ARUARU海ドラDiner】プレオープン
  5. 「ARUARU海ドラDiner」202303トークゲスト集合

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』トム・ホランド/ゼンデイヤ 映画好きが選ぶマーベル映画ランキング

2025年もマーベルシリーズ最新作が公開されます。そこでこれまでのマーベルシリーズも合わせて盛り上げたいということで、ランキングを実施しました。

映画『ベルヴィル・ランデブー』 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.3

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

映画『ネクスト・ゴール・ウィンズ』マイケル・ファスベンダーほか トーキョー女子映画部が選ぶ 2024年ベスト10&イイ俳優MVP

毎年恒例のこの企画では、トーキョー女子映画部の編集部マイソンとシャミが、個人的なベスト10と、イイ俳優MVPを選んでご紹介します。

REVIEW

  1. 映画『ファイアーブランド ヘンリー8世最後の妻』アリシア・ヴィキャンデル/ジュード・ロウ
  2. 映画『聖なるイチジクの種』ソヘイラ・ゴレスターニ/マフサ・ロスタミ/セターレ・マレキ
  3. 映画『コメント部隊』ソン・ソック
  4. 映画『愛を耕すひと』マッツ・ミケルセン
  5. 映画『ブルータリスト』エイドリアン・ブロディ/フェリシティ・ジョーンズ

PRESENT

  1. 映画『ロングレッグス』マイカ・モンロー
  2. 映画『TATAMI』アリエンヌ・マンディ
  3. 映画『フライト・リスク』マーク・ウォールバーグ
PAGE TOP