映画資料では、バイスは、バイス・プレジデント(副大統領)を指すだけでなく、悪徳や邪悪という意味もこめられているとあります。悪徳、邪悪さは観て頂ければ納得すると思うので、なぜ副大統領に焦点が当てられているのかを考えてみます。ディック・チェイニー副大統領(クリスチャン・ベール)はなぜあんなに大きな力を握ることができたのか。それは、大統領の権限を都合良く解釈できる点に目を付けて、自分がうまく立ち回れるようにそれを利用したからなのです。もちろんそれには下準備がたくさん必要で、その段取りを進めるための策略の数々が本作で描かれています。そしてまさに“役者”が揃ってしまった状況が、チェイニー副大統領を生んでしまったとも言えますが、そもそもやはりジョージ・W・ブッシュが大統領になってしまったことが大きいのだなと感じます。この時代には、ブッシュvsゴアの選挙で起きた不正疑惑、“911”のテロ事件、イラク侵攻…など、もみ消されたと思われる事実を多く含む、さまざまな歴史的出来事が重なっています。ここにすべてをあげきれませんが、『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』『華氏911』など、他の作品で描かれている内容と合わせて観ると、より全容が見えてきます。本当にゾッとする話ですが、これは実話なので、目を背けられません。国を“操る”という行為がいかに個人的に行われているかというのも思い知らされる内容で、その当事者が元々持っていた人間性がそうさせたのか、彼が得た地位や権力が彼を変えてしまったのか、どんな視点で観ても釘付けになる作品です。
そして、何より、20代から70代までのチェイニーを演じたクリスチャン・ベールの役作りに圧倒されます。毎度超人的な役作りをする彼ですが、今回もその期待を裏切りません。さらに他のキャストもビジュアルから完全になりきっていて、ビックリ。ソックリさんを連れてきたのかと思うくらいに、皆オリジナルの人物に似ています。とにかく、いろいろな意味で必見です!
ガッツリアメリカの政界の話なので、ロマンチックなムードにはなれないと思いますが、チェイニー副大統領とその妻の関係も、彼の人生に大きく影響しているので、カップルで観ていろいろと考えさせられるポイントがあります。法律の解釈が一つのキーポイントになっているので、少々ややこしいと感じる人もいるかも知れませんが、社会派ドラマやドキュメンタリー映画をよく観るカップルにはオススメです。
キッズにはちょっと難しい内容だと思いますが、中学生以上ならついていけるのではないでしょうか。歴史的なあらゆる出来事の裏で起こっていたとされる真相を描いている内容で、実話というのが信じられないくらいにドラマチックです。多少アメリカ現代史を頭に入れておくと、より理解できますが、先に本作を観て興味を持ってから、おさらいしても良さそうです。
2019年4月5日より全国公開
ロングライド
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TEXT by Myson