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『ブライズ・スピリット~夫をシェアしたくはありません!』エドワード・ホール監督インタビュー

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映画『ブライズ・スピリット〜夫をシェアしたくはありません!』メイキング、エドワード・ホール監督

発表当時、2000回もの上演を果たしたノエル・カワードの名作戯曲「陽気な幽霊」を原案に映画化した『ブライズ・スピリット~夫をシェアしたくはありません!』で、監督を務めたエドワード・ホールさんにリモートインタビューをさせていただきました。映画、テレビ、舞台演劇の世界に長く精通するエドワード・ホール監督に、映像、舞台それぞれの魅力などをお聞きしました。

<PROFILE>
エドワード・ホール:監督
1966年、イギリス生まれ。ドラマや映画で監督を務め、舞台演出も数多く手掛けている。2013年、大ヒットテレビドラマ『ダウントン・アビー』の2エピソードを監督し、その演出力を高く評価される。その他の主な監督作品に、テレビドラマ『アガサ・クリスティー ミス・マープル2 スリーピング・マーダー』『ロンドン警視庁犯罪ファイル』『MI-5 英国機密諜報部』『STRIKE BACK 反撃のレスキュー・ミッション』『アガサ・クリスティートミーとタペンス-2人で探偵を-』などがある。


大事なのはそこで働く人々の脈打つハート

映画『ブライズ・スピリット〜夫をシェアしたくはありません!』ダン・スティーヴンス/レスリー・マン/アイラ・フィッシャー/ジュディ・デンチ

マイソン:
今回ノエル・カワードの戯曲「陽気な幽霊」を映画化することになった経緯を教えてください。

エドワード・ホール監督:
企画自体は数年前から温めていました。元々この戯曲が大好きで、理由は主に2つあります。1つは死に関してのコメディであることと、2つ目は第二次大戦中ドイツの電撃作戦などがあったザ・ブリッツの時代、つまりイギリスが闇に包まれていた時代に書かれていたものだということです。当時、人は喪失や死といったものに囲まれていたなかで、彼は逆にそれと向き合えるような作品を作りました。そればかりでなく、死に対して笑って向き合えるというか、死というものを越えて未来があるのかもしれないという風に考えさせてくれる内容でもありますよね。死というのはただの状態のことであって、すべてがそこで終わるわけではないんだという話を皆に届けたことが自分の中にも残っていて、その辺りが心地良かったし、すごくユーモアもあるなと思っていて、21世紀の映画として脚色することに前からすごくワクワクしていたんです。

マイソン:
監督にとって、映像と舞台演劇それぞれの魅力は何でしょうか?

エドワード・ホール監督:
私はテレビドラマも20年くらい前から作り始めていて、テレビと舞台の両方を長年に渡り作ってきました。監督として思うのは、映像の場合、カメラでなるべくものを語らずに見せようとするんです。だから、言葉では描写できないものをビジュアルのエネルギーで表現するということをします。あと、役者さんの演出の仕方も変わってきて、舞台だと台詞を言っている時に、その台詞を通してその人が誰であるか、何を感じているのかというのが全部わかるようになっているんです。でもスクリーンの場合、台詞がその人の感情を覆い隠しているということが多いので、逆にその裏に何があるのかということをカメラは見つけようとするし、また役者さんの仕事としても内なる世界のディテールというものをしっかり抑えないといけない。だから映画やテレビのシリーズの脚本だけを見た時に、もしかしたら何かについてのテーマ性が薄いとしても、感情はすごく豊かだったりするんです。演劇の場合は、カメラのフォーマットでいうワイドでずっと観客が観ることになりますよね。25年くらい前から歌舞伎、能、文楽とか日本の古典も勉強していて、現代の歌舞伎以外は照明をスポット的な、そこだけしか見えないという使い方をせずに、全部にフラットに当てていることが多いので、基本カメラでいうワイドと一緒ですよね。カメラの場合は、どこを見て欲しいかということを選択することができて、具体的に観客の目線をガイドすることができます。それが楽でもあり、すごく難しいのは、見て欲しいところを見てもらえるんだけど、逆に観客が見たくないと思っているものを一生懸命見せてしまったら、やっぱり成立しなくなってしまうわけです。ステージの場合は関心のあるところに目をやれるので、どこを見るのかというのを観客に委ねられるけど、映像の場合は自分が決めなければいけないという差もあります。

映画『ブライズ・スピリット〜夫をシェアしたくはありません!』メイキング、エドワード・ホール監督/ダン・スティーヴンス
メイキング

マイソン:
なるほど〜。私は最初ダン・スティーヴンスさんが演じていたチャールズの目線で観ていたのですが、最後はどんでん返しというか、あの結末になった瞬間にパッと視点が変わりました。

エドワード・ホール監督:
すごく興味深いのは、今回ニック・モアクロフト、メグ・レナード、ピアーズ・アシュワースの3人が脚色してくれましたが、特に女性の視点を戯曲よりもさらに掘り下げたいと考えて書いたことなんです。おっしゃった通りほとんどが皆チャールズを追ってストーリーが展開します。彼はナルシストだし、軽いし、自己中心的だし、浮気症だし、最悪なわけですよね(笑)。最悪だからこそ観客は彼を笑ってしまうのですが、そのうち明らかになってくるのが、実は彼の周りにいる人も皆ナルシストだということで、これがノエル・カワードの大きな秘密でした。マダム・アルカティ(ジュディ・デンチ)以外の中心の3人、つまり女性のキャラクターもナルシストなんだと展開するなかでだんだんと気づいていくんですよね。そこで視点が切り替わって、観客もどういう風に展開したら自分が満足できる終わり方なのかという風に感じると思うのですが、女性達も自分というものを強く持っている強いキャラクターですよね。どうでもいいような形で物語の中に消えていくのではなく、最後にステージの中心に立つということが僕達にとってすごく重要でした。

マイソン:
今回イギリスの人気俳優さんとアメリカの人気俳優さんが共演されていますが、それぞれお国柄というか、アメリカ俳優さんの魅力、イギリス俳優さんの魅力で違いはありますか?

映画『ブライズ・スピリット〜夫をシェアしたくはありません!』メイキング、エドワード・ホール監督/レスリー・マン
メイキング

エドワード・ホール監督:
役者自体には違いはないと思います。今は特にイギリス人がアメリカ人を演じたり、その逆もあったりとクロスオーバーもすごくあります。でも今回エルヴィラ(レスリー・マン)に関してはアメリカ人の役者さんと決めていたんです。もちろん素晴らしいコメディの役者さんであることも重要で、まさにレスリーはそうでした。なぜアメリカ人の役者さんにしたかったかというと三角関係に文化的なテンションも持たせたかったからなんです。このキャラクターは1920年代のアメリカのワイルドな女性で、文学仲間というかボヘミアン仲間みたいなそういう時代をパリで過ごしたことがあるようなイメージなんです。それに対して、ルース(アイラ・フィッシャー)はファッショナブルではあるけど、ちょっと堅苦しい英国女性といった感じで、自分のやることをすごくコントロールできているんだけど、エルヴィラのほうは自由気ままなところがあって、そういう風に描くことがすごく重要なポイントでした。

マイソン:
ちょっと話題が変わるのですが、今、世界中がコロナ禍で映画や芸術は二の次になってしまうという苦しい状況ですが、映画を作る側としてどんなことを感じてらっしゃいますか?

エドワード・ホール監督:
例えば演劇界というのは最も打撃を受けている業界の1つで、それは世界中そうだと思います。建物を休館するということが問題なのではなくて、業界がクリエイティブな仕事をしている人達を失っていっているということが1番の心配です。多くの方がフリーで仕事をしているのが文化のセクターであって、皆生計を立てるために業界外の他の仕事をしたりしています。そういう方々がコロナ禍が終わったからといって戻ってくるのかどうかも心配だし、今これからという若い才能の方もたぶん1番選ばない世界がアートの世界だと思うんです。1番安全じゃないし、稼げないから。だからこそここから先の数年、人をどうやって支えていくのかが重要なんじゃないかと思います。大事なのはそこで働く人々の脈打つハートなんですよね。だから、彼らを大事にしていかなくてはいけないし、ケアしていかなくてはいけません。それは映画作家や脚本家、スタッフ、カメラ関係の人、役者さん、企画を書く人であったり、彼らを支えなければ、例えばイギリスでいうロイヤル・ナショナル・シアターとか、ロイヤル・オペラ・ハウスとか、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーとか、建物は残ってもそこで働く人がいなくなってしまうと思うんです。

映画『ブライズ・スピリット〜夫をシェアしたくはありません!』メイキング、エドワード・ホール監督/ジュディ・デンチ
メイキング

マイソン:
確かに文化を守り、復興するには人や才能が不可欠ですよね。では最後の質問で、これは皆さんにお伺いしているのですが、いち観客としてこれまでに大きな影響を受けた映画、もしくは俳優や監督など映画人がいたら教えてください。

エドワード・ホール監督:
まずはスタンリー・キューブリック。特に『シャイニング』が本当に傑出した心理スリラーだと思うし、ディテールが本当に素晴らしいと思います。あと、『デトロイト』『ゼロ・ダーク・サーティ』『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグローは、今最も素晴らしい映画作家の1人だと思います。皮肉みたいなものも含めたストーリーテリングも含めて。

マイソン:
本日はありがとうございました!

2021年8月26日取材 TEXT by Myson

映画『ブライズ・スピリット〜夫をシェアしたくはありません!』ダン・スティーヴンス/レスリー・マン/アイラ・フィッシャー/ジュディ・デンチ

『ブライズ・スピリット~夫をシェアしたくはありません!』
2021年9月10日より全国公開
監督:エドワード・ホール
出演:ダン・スティーヴンス/レスリー・マン/アイラ・フィッシャー/ジュディ・デンチ
配給:ショウゲート

ベストセラー作家として名を馳せるチャールズは、スランプに陥っていた。実は彼の小説はすべて7年前に事故死した最初の妻エルヴィラが生み出したアイデアを書き留めたもので、エルヴィラなしでは新作を書けずにいた。そんな時、ひょんなことからある霊媒師の存在を知ったチャールズは彼女の力でエルヴィラを蘇らせようとして…。

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