放射線技師の活躍を描いた人気TVドラマ『ラジエーションハウス』が映画化。この度、本作で活躍する放射線技師の1人を演じる浜野謙太さんにインタビューをさせていただきました。アーティストとしても活躍する浜野さんが考える芸能のお仕事、そして変化を求められている映画業界についてなどお話をおうかがいしました。
<PROFILE>
浜野謙太(はまの けんた):軒下吾郎 役
1981年8月5日生まれ。神奈川県出身。バンド“在日ファンク”のボーカル兼リーダーで、2015年に解散した“SAKEROCK”ではトロンボーンを担当していた。俳優としても映画、ドラマ、CMなど多数出演。映画『婚前特急』では、第33回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞した。主な映画出演作に『酔うと化け物になる父がつらい』(2020)、『バイプレイヤーズ 〜もしも100人の名脇役が映画を作ったら〜』(2021)、『くれなずめ』(2021)、『夏への扉 -キミのいる未来へ-』(2021)、『鳩の撃退法』(2021)などがある。
マッチョじゃなくて真面目に映画やドラマをやろうとしている人達が可視化されてきているというのは良いこと
マイソン:
放射線技師役ということで専門的な用語が多く出てきますが、役作りにあたりどんな風に知識を得たり準備されたのでしょうか?
浜野謙太さん:
現場では先生がずっと監修で付いてくださっているんです。あと僕が以前入院した時に実際に放射線技師の方と関わったり、放射線科医の友達もできました(笑)。
マイソン:
そうなんですね!
浜野謙太さん:
僕は役作りに関してすごく自信がないんです。だから最初は緊張して技師の本を読んだりしていました。でも、ドラマのシーズン2では、そういうことよりもチーム感かなという風になったので、構造を理解していれば良いのかなって。
マイソン:
素人からすると本を読んでもちんぷんかんぷんになりそうな気がするのですが、撮影で機材とかに触れていると本の内容もわかってくるのでしょうか?
浜野謙太さん:
いやいや、全然わかりません。ただ構造的にどう照射するのか、どの機具を使うのか、これだと写らない病気があって、他のだと写る病気があってという具合に、技師が仮説を立てないといけないんです。その機材を使うことでお金もかかるし、何でもかんでもこれで撮って試すというわけにもいかない。だから診断はお医者さんなんだけど、仮説をどんどん立てて提案していくというのが技師の役目だということを知って、それはカッコ良いなと思いました。
マイソン:
一方、今回の役は八嶋智人さんとわちゃわちゃする場面も多くありましたが、楽しい部分と難しかった部分はありますか?
浜野謙太さん:
やっぱり八嶋先輩が入ったことで、皆ずっと遊びに来ているような感覚になったので楽屋が毎回楽しかったです。八嶋先輩の威力や世界観は本当にすごいので、そこと同じ土俵に立とうとすると全く目立たなくなってしまうんですよね。だから、そこは難しかったですね。洗脳されつつあったというのもありますし(笑)。
マイソン:
ハハハハハ(笑)!
浜野謙太さん:
全部持っていかれちゃうんです(笑)。でも、八嶋先輩は完成形で全部を持っていくわけではなく、自分の立ち位置をわかりつつわきまえつつ現場では持っていくという感じで。画に出るところは僕ももうちょっと自分の立ち位置を確保しないといけなかったので、そこは勉強だなと思いました。
マイソン:
ドラマの時と劇場版の時とで撮影のペースとか、遊べる余地は変わりましたか?
浜野謙太さん:
テレビでやっていた時のチーム感をアドリブと共に残すというのも大事は大事なんですけど、2時間劇場に閉じ込められる観客の方の気持ちを考えてみたら、やっぱりそれよりストーリーが大事かなと思います。初めて観た方が何となくでも「何でこの人はこういうことをやっているのか、こういうキャラなのか」いう関係性とかがわからないと苦しいだろうなと思うんです。だからアドリブはしましたけど、この2時間の中で説明できる軒下をやろうと思いました。テレビだと「何かわからないけどおもしろい」で良いと思うんですけど、映画の2時間だとすべて繋がっているのが1番気持ち良いと思ったので。
マイソン:
今お話を聞いていると、常にいろいろ俯瞰して考えられているので監督業にもご興味があるのかなと思いました。
浜野謙太さん:
いやいや(笑)。でも、バンドをやっているので演出家とか監督目線みたいなものって大事なのかなと思うと同時に、それこそ技師じゃないですけど「お前がそんな医者目線、監督目線でやるな」っていうのにもちょっと似ていると思うんです。そっちの目線がないとここをしっかり切り取れないだろうし。最近はそれも良いのかな、どうなのかなと思いつつ、そんなことを考える暇があったら“昔からそこに存在していた”みたいなのに徹しろ…、でもな〜って。
マイソン:
その両方のせめぎ合いなんですね。でも今お話をお聞きしていて、やっぱりいろいろな角度で考えてらっしゃるんだなと感じました。ではちょっと話題を変えまして、アーティストであり俳優であり多才でいらっしゃいますが、いつ頃から芸能に興味を持たれたんですか?
浜野謙太さん:
音楽は、父がジャズ好きで会社のジャズサークルに入っていて、それで何となく僕もトランペットをやりたいなと思っていたんです。中学に入って、トランペットはできなくて(笑)、トロンボーンをやって、そこですでにブレているのですが、エンタテインメントが好きだなというのはその辺からかもしれません。高校も自由な校風でエンタメ関係が強いところに通っていたので、自然な流れでしたね。
マイソン:
アーティストだけやっていて、俳優さんとして初めてお仕事をする時って、そんなに壁は高くないのでしょうか?
浜野謙太さん:
いや、できないと思っていました。最初に出させていただいた時は何もわかっていなくて、セリフを言ったら監督が「今のセリフってこれで合っているの?」みたいになってしまって。そこでおもしろいことをすれば良いと思っていて、ドラマとか俳優たる仕事がどういうことか全然わからずやっていたので、そこは壁があったと思います。だから、できなくてしょうがないと思っていましたが、その何年か後にオーディションを受けて映画に出演させてもらった時には、今までやってきた音楽の現場との共通点を見出せたんです。俳優とか映像とかお芝居の世界では音楽でいうここがこういう役目なんだなというのが何となく繋がって、それからおもしろくなってきたんです。もっとああすれば良い、こうすれば良いというのも思うようになりました。
マイソン:
そこで繋がったからこそいろいろやりたいなというのも出てきたんですね。両方表現をするお仕事ですが、両方に役立っていることはありますか?
浜野謙太さん:
共通して役立っていることは何でしょう。声出しかな(笑)。音楽はずっとやっていると当たり前のように技術論になってきてしまうんですよね。でも俳優をずっとやってきた方達は、俳優の心の動きだったりをどう技術として持っていくのかというメソッドみたいなものを習ってくるんだと思うんです。音楽はこういう表現をしたいというところから始まっているはずなんですけど、プレイヤーだと技術論的なことになってくるんですよね。でも、やっぱりそれだけじゃダメなんだろうなっていうのは最近特に思うし、お芝居でも今までずっとそこに存在していた感がどうやったら出るんだろうということを考えます。こういう顔をして、ここでカメラが寄ったらこういう笑顔をして泣いてとか、そういうことじゃなくて、そういうのって技術でやっていると出ちゃうんですよね。それってすごくもったいないことだし、やりたいことではないと考えると、それは音楽にも重要なことなんじゃないかというのはすごく思っています。
マイソン:
自由度で言うとそれぞれ違いますか?
浜野謙太さん:
僕は自由じゃないほうが嬉しいですね。音楽もそうで、“在日ファンク”というバンドをやっているのですが、名前にファンクってジャンルを入れてしまうことでちょっと自由度を狭めたりしているんですよ。自由は大事だけど、何か1個枠をハメることでそこから抜け出そうとするパワーだったり自由度が大事かなと思うんです。そういう意味では、最初にこの役っていう枠組を与えてくれる映像やお芝居の世界というのは、逆に不自由を感じることはないです。それがすごく好きというか、それをどう乗り越えるのかというのが嬉しいんです。それを逆にガチガチに規定してくる監督もいて、その監督は監督ですごくポリシーの高い方だからちょっと尊敬できるというか、期待に応えたいなって思います。
マイソン:
今映画業界はいろいろな面で転換期にきているように思いますが、実際にそれを肌で感じていらっしゃること、こうなったら良いなと思うことはありますか?
浜野謙太さん:
本当にマッチョな世界だなというのは思っていたので、最近いろいろな問題があって…、そういう話をしても大丈夫ですか?
マイソン:
お願いします。
浜野謙太さん:
先日、性描写のあるシーンを撮影した際に、インティマシーコーディネーターという方に入っていただきました。これまで濡れ場ってあまりいろいろ聞いちゃいけない雰囲気だったり、そうするのが野暮みたいな雰囲気があるような気がしていたのですが、間に入るインティマシーコーディネーターさんにすごくいろいろ聞くことができました。裸になる役だったので、自分の体に関するセンシティブなこともその方を通じて聞けたんです。こちらが真面目にやっていても、例えば「その毛は剃らなくてもいいんじゃない?」と、ノリで片付ける監督だった場合、そこに狙いがあるなら良いんですけど、いろいろ聞きづらいですよね。でも、インティマシーコーディネーターさんに入ってもらうことで、男性も女性も聞きたいことを聞けて、お互いにちゃんと繋がりを持って、そのお芝居についてディスカッションができるようになるし、余計なことに気を使わずにできました。昔とはやっぱり変わってきているし、いろいろなことがわかってきて、皆どうやって良いものを作っていこうかということを考えて建設的にやろうとしているから、マッチョじゃなくても真面目にいい映画やドラマをやろうとしている人達が可視化されてきているというのは、僕は良いことなんじゃないかと思います。今撮影している映画には子ども達がいっぱいいて、映画撮影特有の叱責やパワハラというものをなしにしましょうという文書がスタッフにちゃんと共有されて、そうなるべきだなと思います。いろいろなものがうやむやになっている業界で問題が起きないようにすることも大事だし、あとはスタッフさんと役者さんの労働環境にもメスが入ると表現自体も底上げされるというのは絶対にあると思います。
マイソン:
良い仕事をするための環境ということですね。
浜野謙太さん:
そうですね。すごく真面目な話ですみません(笑)。
マイソン:
いえいえ、映画ファンとしてもそういう現場の実態や対策を知りたいので、貴重なお話に感謝します。本日はありがとうございました。
2022年4月4日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『劇場版ラジエーションハウス』
2022年4月29日(金)より全国公開
監督:鈴木雅之
出演:窪田正孝 本田翼 広瀬アリス 浜野謙太 丸山智己 矢野聖人
鈴木伸之 佐戸井けん太 浅見姫香 山口紗弥加 遠藤憲一
山崎育三郎・若月佑美 渋谷謙人・原日出子・高橋克実・キムラ緑子
八嶋智人・髙嶋政宏 浅野和之・和久井映見
配給:東宝
甘春総合病院で放射線技師を務める五十嵐唯織(窪田正孝)は、大好きな甘春杏(本田翼)がワシントンへ留学する日が目前に迫り、落ち込んでいた。だが、そんな状況のなか、病院ではニュースで報道されるほどの大騒動が起き…。
©2022横幕智裕・モリタイシ/集英社・映画「ラジエーションハウス」製作委員会