取材&インタビュー

『High Flash 引火点』『よい子の殺人犯』ジャン・ジンシェン監督インタビュー

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映画『High Flash 引火点』『よい子の殺人犯』ジャン・ジンシェン監督インタビュー

今回は、社会的なテーマも盛り込まれた台湾映画『High Flash 引火点』『よい子の殺人犯』の2作を手掛けたジャン・ジンシェン監督にリモートインタビューをさせていただきました。物語の組み立て方や社会問題を扱う上で気を付けている点などを伺い、台湾と日本の共通点も見えてきました。

<PROFILE>
ジャン・ジンシェン:監督、共同脚本
1973年生まれ。脚本家で妻のワン・リーウェンと共に創作活動を続け、“翻滾吧!男孩(原題)“のプロデュースを皮切りに、2008年“愛瑪的晚宴(原題)”が国内外で受賞、公共電視の電視電影の監督として金鐘獎のノミネートの常連となる。2010年、ワン・ユーリン監督作『父の初七日』に妻のワン・リーウェンが主演した際には助監督としてサポートした。2013年、“阿海(原題)”が金馬影展の創作プロジェクト賞、CNN獎、MONEFF獎、阿榮獎を受賞。長編第1作目の『High Flash 引火点』では、監督を務めると共に、ワン・リーウェン、エグゼクティブプロデューサーのシルヴィア・チャンらの意見も取り入れて脚本を完成させ、2017年の優良電影劇本(優秀脚本)賞を受賞した。2019年、長編第2作目の『よい子の殺人犯』では、2015年に優良電影劇本を受賞、2018南方影展の世界華人コンペティションで南方獎を受賞し、金馬奨の美術賞にノミネートされた。また、人気漫画のドラマ化“神之鄉(原題)”が完成し、2021年に放送予定。


最初から壮絶な物語を作ろうと考えず、いろいろなところに落ちているネタを拾い上げているという感覚を大切にしています

映画『High Flash 引火点』ウー・カンレン/ヤオ・イーティー
『High Flash 引火点』

シャミ:
最初に『High Flash 引火点』について伺いたいのですが、本作は社会派ミステリー作品で、予想できない展開の連続だったのですが、脚本を書く上でどのように物語を組み立てていったのでしょうか?

ジャン・ジンシェン監督:
まず発想として閃いたのは、ネットの記事である豚肉の写真を見た時でした。記事で報道されていた内容は、中国大陸の沿岸部に住むある母親が市場から豚肉を買ってきて、当時は寒かったので冷蔵庫に入れずテーブルの上に置いたままにしていたら夕方にはその豚肉から何かが浮き出してキラキラと光り出したというものでした。それが何を示しているかというと、環境問題により豚肉が汚染されているということでした。それを見て、これは中国大陸だけでなくて台湾でも起きるかもしれない、その環境汚染によって人間の細胞が同じようにキラキラと光るようになったら、どんなミステリーが起こるんだろうというところから始まりました。
次にこの環境汚染のテーマは全世界で起きていることで、このようなことは実際の台湾国内ではどのように発生していて、且つ各地方政府とどのような癒着が生じているのか、そういう要素を盛り込んでいこうと考えるようになりました。そして私達は、ロマン・ポランスキー監督の映画『チャイナタウン』を参考にしながら、語りたいストーリーの形はそれと同じようにしようと設定し、そこからキャスティングに入りました。次の段階では、人体がキラキラと発光する原因を探る人は法医学者でないといけない、さらに法医学者が登場するということは何かの事件が起こり、検察官がいなければいけない、そういった形で登場人物やキャスティングを設定していきました。法医学者と検察官は男女1人ずつ入れる設定で組み立てていき、この2人がどういう事件を手掛けるのかという設定の時に、台湾国内で当時どういう事件が多かったのか調べました。当時は事故死を装って保険金を受け取るという保険金詐欺の事件が多かったので、その要素を入れようという感じで組み立てていきました。

映画『High Flash 引火点』ウー・カンレン
『High Flash 引火点』

特別大きな構想を目指していたわけではなく、むしろ台湾国内の地域の中でも発生する可能性のある事件をストーリーにしました。現地の人達がこの映画を観た時に、「これは、実際にありそうだな」と受け入れてくれる物語にしたいと思いました。今回このような質問が出たということは、日本の方も台湾人と同じように感じて観てくれたんだととても嬉しく思いますし、これは地域性を取っ払って日本の方にも共感してもらえる題材だと思いました。

シャミ:
こういったミステリーを考える時は、頭から順を追って物語を考えるのか、結末を先に考えてから作るのか気になったのですが、今回はいかがでしたか?

ジャン・ジンシェン監督:
先に結末があるかどうかは、そのストーリーによって違います。例えば『よい子の殺人犯』だと、私達は最初から物語のエンディングを決めて作りました。でも、『High Flash 引火点』は結末を設定せずに作っていきました。

シャミ:
なるほど〜。『High Flash 引火点』には法医学者と検事という難しい職業の人物が主人公として登場しましたが、職業の研究などはどのようにされたのでしょうか?

映画『High Flash 引火点』ウー・カンレン/ヤオ・イーティー
『High Flash 引火点』

ジャン・ジンシェン監督:
本当に難しい仕事だったので、事前に調査をして資料を収集しました。まるで大学院の博士課程の論文を書くかのようにたくさんの資料を集めましたし、あとは実際に法医学者や検事をされている方も紹介してもらってお会いしました。脚本はその方々の経験談や専門知識も借りながら書き上げていきましたが、本当に難しいところでした。

シャミ:
『よい子の殺人犯』のお話も伺いたいのですが、こちらは実話がヒントになっているということですが、どんな実話が背景にあったのでしょうか?

ジャン・ジンシェン監督:
実話というのは私の遠い親戚の話なのですが、彼は50歳過ぎで体が少し不自由だったのと、アニメやゲーム、マンガが大好きで、ずっと自宅で過ごしていたんです。ある日、彼が自分の部屋で亡くなったのですが、亡くなってすぐには家族が気づかず、2日後に初めて彼が死んでいたことに気づいたそうです。その話を聞いて、脚本を書く妻と私は本当に不思議で仕方がありませんでした。家族が死んでいるのに、なぜ1番身近にいる家族が気づかないのか。それはもしかしたら今の社会を表していて、物理的には1番近くにいるのは家族だけど、もしかしたら心は1番離れているのではないかと考えました。昔は愛と家族が常に一緒で当たり前だと思っていたのに、全く関係がなくなってしまっているのではないかという疑問からこのストーリーを作っていきました。

映画『よい⼦の殺⼈犯』ホアン・ハー/ワン・チェンリン
『よい⼦の殺⼈犯』

シャミ:
日本でも同じように引きこもりや孤独は問題になっているので、すごく共感できました。あと、『よい子の殺人犯』ではアニメオタクが主人公で、オタク同士が集まって交流する様子は日本人とすごく近いなと思ったのですが、監督はオタク文化についても何か研究されたのでしょうか?

ジャン・ジンシェン監督:
日本のオタク文化は研究しませんでしたが、台湾の多くの若者は日本のアニメやゲームに親しんでいて、そういう意味では日本のゲームやアニメの文化に多く影響を受けていると思います。だから台湾のアニメオタク達にもそういった日本の文化が染みこんでいて、自然と彼らの行動や言動になっていったのではないでしょうか。そこは同じ文化に接した人の結果ではないかと思います。

シャミ:
劇中では日本のアニメとして“最強のホビッター”が登場していて、台湾でも日本のアニメが人気だそうですが、監督が知っている日本のアニメは何かありますか?

映画『よい⼦の殺⼈犯』ホアン・ハー
『よい⼦の殺⼈犯』

ジャン・ジンシェン監督:
私が子どもの頃は『ドラえもん』や『名探偵コナン』などが流行っていて、本当に若者達の成長過程で多くの日本の作品から洗礼を受けています。最近ですと『鬼滅の刃』や新海誠監督の作品が今の若者達の間で流行っています。だから台湾にこういったアニメオタクがいることは全く意外なことではないんです。そして、日本と台湾は同じ東アジアの地域に位置しながら、そういったアニメや動画を通して文化的な類似点も多いので、私が表現した映画も恐らく自然と日本の方達にも感じとってもらえると思います。

シャミ:
今回は2作とも社会問題がテーマとして盛り込まれていましたが、現実にもある社会問題を扱う上で気を付けている点があれば教えてください。

ジャン・ジンシェン監督:
私が映画製作をする時は妻と一緒にいろいろなネタを考えるのですが、私達夫婦の過去の人生経験や育った環境が壮絶だったわけではないので、よく取材をするようにしています。世の中ではどんなニュースが報道されているのか、あるいは隣りの理髪店のおじさんやレストランのオーナーさんといった人がどういう人生を生きてきたのか、そういう人達の語りに耳を傾けるように心掛けています。また、今の社会で皆が感心を寄せていることはどういう事柄なのか、そういうことに目を向けるべきだと考えています。最初から壮絶な物語を作ろうと考えず、いろいろなところに落ちているネタを拾い上げているという感覚を大切にしています。

映画『よい⼦の殺⼈犯』
『よい⼦の殺⼈犯』

シャミ:
今回の2作も含めてこれまでの作品も奥様であるワン・リーウェンさんと一緒に創作活動を行われていますが、家族と一緒に仕事をすることのメリットとデメリットはどんなところでしょうか?

ジャン・ジンシェン監督:
良いところと悪いところは相反するものだと思います。メリットは、毎日一緒にいられて気持ちも離れないということです。そして、仕事で何か変更点があればその場で伝えることができ、すぐに処理ができることも良い点です。でも、人と人は少し距離を置いたほうが良い時もあるので、近すぎることはデメリットとも言えるかもしれません(笑)。私達は同じ屋根の下で暮らしていますが、それぞれに仕事部屋があります。仕事のコミュニケーションをとる時には、同じ家にいるのにメッセンジャーのアプリを使って伝言し、敢えて実際に会って会話をすることはしません。そのほうがスムーズなコミュニケーションがとれて事が済むこともあります。

シャミ:
上手くバランスをとっていらっしゃるんですね。

ジャン・ジンシェン監督:
夫婦であり仕事仲間でもあるので、本当に難しいです。混同してしまう時もあるので、なるべく客観性を保ち理性的に対処することを心掛けています。

映画『High Flash 引火点』『よい子の殺人犯』ジャン・ジンシェン監督インタビュー
ジャン・ジンシェン監督

シャミ:
では、最後の質問です。これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。

ジャン・ジンシェン監督:
監督だと、先ほども挙げた『チャイナタウン』のロマン・ポランスキーで、すごく好きで影響も受けた監督です。そしてもう1人好きなのは日本の山田洋次監督です。彼の作品はどれもとても温かくて好きです。ということは、私はポランスキー監督みたいな作風も好きですし、山田監督のような作品も好きだということです。

シャミ:
本日はありがとうございました!

2021年7月14日取材 TEXT by Shamy

映画『High Flash 引火点』ウー・カンレン/ヤオ・イーティー

『High Flash 引火点』
2021年10⽉6⽇よりDVDレンタル、発売開始
監督:ジャン・ジンシェン
出演:ウー・カンレン/ヤオ・イーティー/チェン・イーウェン/ イン・シン/シュー・シーファン/ダンカン・チョウ
発売元:株式会社ディメンション

環境汚染と腐敗政治に翻弄される庶民と、その闇に挑む法医学者と検事の姿を描いた社会派ミステリー。長年環境汚染に苦しむ漁民達が汚染源である企業に対し大規模な抗議行動を行っていたなか、一艘の舟が炎を上げながら港へ向かってきた。そこには抗議のため焼身自殺をした男が乗っており、彼は一躍英雄として祭り上げられる。しかし、法学医がこの男の遺体を解剖すると、彼の身体には多くの疑問点があり…。

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映画『よい⼦の殺⼈犯』ホアン・ハー

『よい⼦の殺⼈犯』
2021年9月3日よりDVDレンタル、発売開始
監督:ジャン・ジンシェン
出演:ホアン・ハー/ワン・チェンリン
発売元:株式会社ディメンション

⽇本のアニメ“ボビッター”に夢中なアナンは、⺟親と認知症の祖⽗と平和に暮らしていた。しかし、ある日博打で失敗した叔⽗が乗り込んで来て、⼀家は突如緊張感に⾒舞われた。そんな中、アナンは同じボビッターオタクの⼥の⼦に恋をする。彼⼥との距離を縮めるために努力するアナンだったが、思いも寄らないことが起こり…。

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