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トムス・エンタテインメント竹崎忠社長スペシャル・インタビューVol.3

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公開40周年記念 特別4K上映『スペースアドベンチャー コブラ』

本インタビューは4回の連載でお届けしています。前回Vol.2ではトムス・エンタテインメントが「自分達で作った作品を自分達で売る」ことができるように営業部隊を強化したお話がありました。今回Vol.3では、そこからさらに発展して、作品の企画から手掛けて全体をプロデュースする「UNLIMITED PRODUCE by TMS」についておうかがいしました。

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トムス・エンタテインメント
公式サイト

これだけ世界中で支持されているアニメを作る側がこんなに辛い環境でやっているなんて、夢がなさ過ぎる

竹崎社長:
営業部隊を強化して、”自分達で作ったアニメ作品を自分達で販売する会社基盤”ができたところで、階段を一つ上がったというか、ゲームで表現すればステージ1をクリアしてステージ2が始まったというか、見える景色も変わりましたね。前回も軽く話しましたが、映像商品としてアニメを販売できるなら、自社のみならず、他の制作会社が作ったアニメだって販売できるわけです。
トムス・エンタテインメント(以下、トムス)の場合は、“それいけ!アンパンマン”や“名探偵コナン”などの収益で支えられているから自社で大掛かりな営業部隊を作ることができましたが、これはこれで結構な維持費がかかります。だから、どの制作会社でも同じように営業部隊を持ち続ける余力があるわけではありません。それなら、トムスの営業部隊を活用してもらえばいいんじゃないかって。
もしも制作会社が何らかの営業権を持っているけど営業部隊がいないからそれを使えないなんてことがあるなら、トムスで代わりに営業をして、そこで生まれた利益は適正に納得できる形で分け合えばいいんじゃないかと。
さらにステップアップを目指したのが、プロデュース事業の立ち上げです。せっかく自ら営業できる体制を作ったのだから、他社が立ち上げてトムスに制作依頼が来た作品の営業窓口を担当させてほしいとお願いするだけじゃなく、自ら企画を立ち上げて、自ら作って、自ら売るということですね。これまでは第三者が企画した作品を制作していたのが、自分達が企画の中心になれるということです。そうすれば、お願いしなくても、自分達でビジネスしたい部分は確実に自分達でできますからね。

マイソン:
そうやってステップアップしていったのですね。

トムス・エンタテインメント竹崎忠社長スペシャル・インタビュー
1964年に株式会社東京ムービー設立、1976年に株式会社東京ムービー新社設立。1995年、株式会社キョクイチによる吸収合併を経て、2000年に今の株式会社トムス・エンタテインメントに改称。

竹崎社長:
ここまで来るとね…。さらに視野を拡げて、トムスが企画を立ち上げて他の制作会社に作品を制作してもらう可能性も出てくるんじゃないかと。最初のほうで話したとおり、制作会社ごとに作品のテイストや得意不得意があるから、この作品をトムスで作りたいと思っても社内制作には向いてないとか、それ以前に3年先まで仕事が埋まってて内製じゃ作れないとか。そういった状況があってね。でも、トムスが他の制作会社とタッグを組むなら、今まで制作会社として自分達がしんどかったのと同じ条件で制作をお願いするわけにはいかない。トムスが主幹で作品をプロデュースするということは、そのビジネスのすべての責任を持つと同時に、そのビジネススキームの設計も自分達でできるというメリットがあるわけで。
だから、制作側が大変なことをわかっている立場として、これまでの業界の構造を変えていこう、ビジネススキームを変えて、作った人にちゃんと収益が戻る構造にシフトチェンジしようというのが、うちのプロデュース事業の考え方なんです。こんな風に他の制作会社と一緒に作る取り組みを「UNLIMITED PRODUCE by TMS」って名付けたんですが、ここには「従来の枠組みにまったく囚われず、限界を設けずに新しいスキームにチャレンジしよう」という想いを込めました。

マイソン:
なるほど!作り手の気持ちがわかるプロデューサーということですね。

竹崎社長:
そうそう、作っている会社の立場とか苦しさを全部わかってますからね。もちろんプロジェクトが赤字なのに作り手にどんどんお支払いしようなんてことはできませんが、制作してもらった作品で利益が出たときに、しっかり利益を分配するとか、制作会社が作品のヒットの恩恵を当たり前に受けられるスキームを作っていけば、トムスと組めば自分達が頑張った時にフェアに報われるということになりますよね。そうなると、トムスと組んでみようかなって考えてもらえるんじゃないかと。
これはトムス単体を成長させるという単純な話ではありません。少なくとも今は、世界的に日本のアニメに注目が集まっていて、制作の依頼は山ほどあります。一方で、人手は足りていないし、作り手にも選ぶ権利がある。作り手にも一生懸命作った分がちゃんと返ってくる仕組みを作って、そのほうが良いとなったら、良い人材も集まるし、一層良い作品を作ろうというモチベーションにもなると思うんです。それを少しでもトムスが実現できたら、他の会社も「だったら、うちも」と追随して、業界全体的に作り手側に対する条件が良くなっていくような波及効果が生まれるかもしれないと考えたんです。

トムス・エンタテインメント竹崎忠社長スペシャル・インタビュー
現在の社屋外観。

最初は「作る側の気持ちがわかる」という程度のところから始まりますが、僕らが信念を持ってぶれずにこの追及を続けていけば、やがてこれが当たり前になって、新しい、作り手に対する気持ちがこもったシステムになりますよね。トムスが始めて他社がそれに追随して上手くいって、制作会社が優位になる方に傾き過ぎたら、やがては制作会社が過剰な要求をしてくるとか、これまたいろいろな問題が起きてくると思います。ただ、それはトータルでビジネスが成立する範囲の中で徐々に調整されていくはずです。例えば、制作会社が大きな制作費を要求したところでそれを回収できなかったら次はないという状況になるし、そのバランスは全体の中でとりあっていくしかありません。ビジネスは全部一緒だと思うんですけど、関わってるみんなが「自分が一番儲かりたい」と思うと実は上手くいかなくて、みんながそこで得た利益を適切にシェアすることができれば長続きするし、全体として成長もできると考えています。
アニメ産業の元々の状態って、最初に話したとおり成り立ちから掛け違っていて、それにはほど遠かったんです。だから、関わったみんなが利益を分け合える、バランスの取れた新しい産業構造に変化できるように少しでもトムスがきっかけを作れればいいなって思っています。

マイソン:
これからがすごく楽しみですね!

トムス・エンタテインメント竹崎忠社長スペシャル・インタビューVol.3

竹崎社長:
でも、58年の長い歴史において、最近の6年ほどの間に会社が急激に変化しているので、これを取り巻くすべての人が大手を上げて喜んでいるわけではないということも事実で。これは痛し痒しなんですけど(苦笑)。

マイソン:
ハハハハ、なるほど。辛いお立場ですが(笑)、こうして闘っていらっしゃるのをお聞きすると、同じエンタテインメント業界にいる身としては勇気が湧いてきます!

竹崎社長:
確かに振り返った過去は美しく見えるけど、時代も世界も刻一刻と変わっているんだし、自らが変わることで未来の可能性は拡がりますからね。

マイソン:
そのほうが夢がありますよね。

竹崎社長:
夢がある。だって、これだけ世界中で支持されているアニメを作る側がこんなに辛い環境でやっているなんて、夢がなさ過ぎます。良い作品を作って、その作品がどんなにヒットしても制作会社は経営が厳しいなんて、悲しすぎる(笑)。

マイソン:
ほんとに(笑)。そんな環境が変わっていくと良いですね。

2022年10月7日取材 PHOTO&TEXT by Myson

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トムス・エンタテインメント制作のアニメ

公開40周年記念 特別4K上映『スペースアドベンチャー コブラ』

公開40周年記念 特別4K上映『スペースアドベンチャー コブラ』
2022年12月2日(金)より2週間限定公開
東宝映像事業部
公式サイト

© BUICHI_TERASAWA/ART_TEKNIKA・TMS

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REVIEW

  1. 映画『おんどりの鳴く前に』ユリアン・ポステルニク
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  4. 映画『敵』長塚京三/瀧内公美/黒沢あすか
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PRESENT

  1. 映画『知らないカノジョ』中島健人/milet
  2. 映画『あの歌を憶えている』ジェシカ・チャステイン/ピーター・サースガード
  3. 映画『ドライブ・イン・マンハッタン』ダコタ・ジョンソン/ショーン・ペン
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